追放or処刑? 追放&処刑!
「判決、追放」
びっくり仰天のスピード判決である。
衛兵に捕まった俺はロクな取り調べもされないまま、アインドラの王様の前に引きずり出され、裁判もなしに判決が下された。誰も俺の弁護をしてくれないのが泣けてくる。
王様は丸々と太って温厚そうな感じだけど、俺のことをゴミを見る目で見てくるので、外見とは裏腹に超怖い。
「何故ですか、王様! 俺が何をしたというんですか!?」
「だって、貴様、魔王軍との戦いから逃げたんじゃろ? 勇者パーティーから脱走して、故郷まで逃げてきたんじゃろ?」
何? なぜそのことを知っている。いや、逃げてはいないけどな。むしろ、やる気満々だったよ。だけど、ちょっとカッコつけたキャラを演じてたら、色々と誤解が生じてしまってだな。
クソっ、勇者どもは何で俺がパーティーから外れたか、関係者に周知させとかねぇんだよ。ガキだから分かんなかったのか?
「儂さぁ、自分の国から勇者の仲間が出たって聞いて嬉しかったんじゃよ。嬉しくて近くの国の王様に自慢をしたりしてんじゃ。それなのに、まさか逃げ出すとは思わなかった」
「待ってください。どうして俺が勇者パーティーに所属していたと知っているんですか?」
この王様と俺は面識が無い。魔王軍の刺客に狙われないために勇者の情報は可能な限り隠蔽されているので、顔を合わせでもないしない限り勇者パーティーの顔を知ることはできないはずだ。
「そんなん、儂は権力者じゃもん。なんとでもなる」
そりゃあそうですよね。王様ですもんね。納得しました。
「まぁ、そんな話はどうでもいいんじゃ。とにかく儂は貴様に対して怒りを抱いておるんじゃ。戦いに臆して逃げ出すとは言語道断。儂に自慢できなくさせたのも重罪。貴様のような奴は儂の国にはいらんので追放じゃ」
「横暴だ! 俺は権力の暴走を今この瞬間に目の当たりにしたぞ!」
革命だ。こんな奴にこの国を自由にさせてはいけない! 悪しき専制政治を打倒し、人民の人民による人民のための政治を志す革命戦士へと俺は覚醒してしまったぞ。
「む、今の今まで見逃してやった儂に対して、何たる言い草じゃ。速攻で捕まえて処刑してしまっても良かったところを、今の今まで見逃してやったというのに、その恩を仇で返すつもりか」
「じゃあ、なんで今になって、俺を追放なんてするんだ! そのまま無視してくれても良かっただろ!」
「そんなもん、貴様が犯罪行為をしたからじゃろうが!
冒険者登録と同時に手に入るギルドカードは身分証にもなるんじゃから、身分証の作成の際に不正を働いたら罰せられて当然じゃろうが。
この犯罪行為で儂の我慢も限界じゃ! しかも無職で親の脛齧りと来ておる。こんな奴が儂の国の出身で、しかも勇者パーティーに所属していたなど、この国の汚点じゃ。生きていた痕跡すら抹消したいくらいじゃ」
無職で親の脛齧りってのは関係ないだろ! しかし、怒ったところで状況は変わらない。
「やっぱり、追放ってのは無し。ここで処刑」
王様ぁ! ちょっとおかしいだろ!
あ、周りの騎士さん達もやめてください。なんで殺る気になってんだよ! 俺は君たちが守るべき王国の民だよ? なんで、嬉々として俺を殺そうとするんですか?
「容赦を期待するのは無理じゃぞ。そいつらは儂直属の狂血騎士団じゃ。三度の飯より人殺しが大好きな儂の可愛い猟犬たちじゃ」
なんで、そんなヤバい奴らを護衛にしてるんですかね。つーか、ウチの国は大丈夫かよ? これはマジで俺が革命戦士にクラスチェンジするしかないかもしれないな。
「貴様はどうして我が国がこんなに平和なのか知っておるか?」
「そもそも平和なのかが分からない」
だって、世の中に関わってこなかったんだもん、分かるわけないじゃん。アインドラにいる時は修行している以外は家に引きこもっていたし、アインドラを出て修行の旅に出ていた時も、世間のことを知りたいわけじゃなかったし分からなくても仕方ないよね。
「ぬぅ、流石は親の脛を齧って遊び歩いていただけある。世の中のことなど全く分かっておらんのだな」
世の中のことなんて分からなくても良いもん! だって、俺強いもん! 超一流SSSランク戦士だから、別に世の中のことなんて知らなくても平気だもん!
「よいか? この国は世界で最も平和なんじゃよ? なぜ平和かというとだな。そこの狂血騎士団が平和を脅かすものを秘密裏に皆殺しにしておるからじゃ。ちなみに、儂の統治を邪魔したり、頑張って国を治めている儂のストレスになるやつも、儂の平和を脅かすので始末してもらっておるのじゃ」
「すげぇよ、故郷の国にこんな闇があるなんて思わなかった」
むしろ世界の闇だよな。わりと引いてます。
「貴様は儂のストレスなので、狂血騎士団に殺してもらおうと思うんじゃが、どうじゃろうか?」
「それって質問する必要のあることかよ!」
俺が怒鳴ると王様はハッと気づいたような表情を見せる。どうやら、自分がとんでもないことを言っていると理解して改心してくれたようだ。
「ないのぉ。ちなみに儂にタメ口で話した時点で処刑が決定しておるぞ」
やっぱり駄目でした! 俺もちなみに言っておきますけど、タメ口をきいても許してくれる王様はいたよ。この王様が特別、心が狭いんだよ。
「では、狂血騎士団よ。この者を殺せぃ!」
王様の指示で狂血騎士団とかいう、俺の認識だと八割くらい暗殺者の集団の中から、一人の女性騎士が俺の前に立つ。
「うむ、キルマリアか! 良いぞ、一騎打ちを許す!」
キルマリアって名前の時点でヤバくねぇか?
俺はキルマリアという女性騎士の姿を改めて観察する。凛々しい顔立ちに、金色の長い髪をポニーテールにし、鎧を身に着けているという、いかにもな女性騎士。しかし、普通の女性騎士とは明らかに違う点がある。
それは眼だ。眼が凄まじく濁っているんだ。ドブ川の水を鍋に入れて、それに人間や魔物の腸加えて、ひたすらに煮詰めて、腐らせたような、そんな濁りだ。俺は魔物とか魔族とかと戦ってきたけど、ここまでヤバい眼は見たことがねぇ、そんくらい眼が濁っている。というか、『連続殺人鬼ってこんな眼をしてるのかなぁ?』って感想しか抱けない眼だ。
「その者は狂血騎士団の三番隊隊長でのぉ、なかなか腕が立つのじゃ」
えぇ、こんなヤバい眼をしてて三番隊ですか。つーか、多人数いてはいけなそうな組織なのに、三番隊まであるって所にびっくりなんだけど。
「ちなみに、一番隊と二番隊の隊長は?」
「一番隊の隊長は発狂して療養中じゃ。二番隊の隊長は一番隊の隊長を肩がぶつかったとかなんとかで喧嘩になって殺されておる」
えぇ、なんなの、その人たち。
「陛下、そろそろ良いですか?」
キルマリアとかいう女性騎士が凛とした声を発する。声の感じはマトモだけど眼がやべぇ、完全にイッちゃってる。
「八時間ほど人を斬っていないので、そろそろ我慢の限界なのです」
流石に早すぎると思う。もう少し、我慢しようぜ! 昼飯を抜いて晩飯を待っている子供だって、まだ我慢できると思う。
「すまんのぉ……というわけじゃから、貴様は死ぬがよい」
ふざけんな、まだ死にたくねぇよ。絶対に生き延びてやるからな。