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戦士にとって実家は地獄であった

 

 勇者たちの転送魔法で俺は実家に強制送還された。

 故郷の街アインドラへ戻ってきた俺は実家の両親に挨拶をして家に入れてもらったんだ。最初は良かったよ、しばらくぶりに帰ってきた息子を出迎える温かさがあったんだ。でもな、そんな温かみは数日しか持たなかった。そして、事件が起きたんだ。


 それは俺がアインドラの街に戻ってきて、一週間が過ぎた日のある朝のことだった。

 その日、俺は昼過ぎ頃に起床したんだ。まぁ、いつも通りの起床時間だね。


「お袋、メシは?」


 実家の物置代わりになっていた自分の部屋から居間にやってきた俺は昼飯か遅い朝飯を要求したんだ。すると何が返って来たと思う?


「…………」


 まさかの沈黙という返答だ。この瞬間に俺は勇者たち会いたくなったね。アイツらは俺が遅く起きてきても優しく迎えてくれたよ。


「いつまで休んでいるつもりだ?」


 そんでもって、親父がこんなことを言いやがった。俺は休んでいるつもりなんかない。一流の戦士というのは休みも戦いの一つと捉えるものであり、休んでいるようでも、それは一般人が考える休みとは違うんだ。


「仕事を探しているようには見えないんだが、それは気のせいか?」


「大丈夫、仕事は探してるよ」


 無職は世間体が悪いんだとさ。なので、親父もお袋も俺に仕事をしろと五月蠅い。

 あーあ、勇者パーティーにいた時は誰もそんなこと言わなかったのになぁ。何もしてなくても平和のために働いてると思ってくれてたのに、辞めた途端にこれだよ。


「お前も、もうすぐ三十なんだから、いい加減ちゃんとした仕事に就け」


 真っ当な仕事に就いてたろうが! 勇者パーティーだったんだぞ俺は!


「分かってるって、探してる最中なんだよ」


 ここで反論したりすると、家を追い出されてしまうんで、俺は親父を刺激しないように言葉を選ぶ。

 はぁ、勇者パーティーにいた頃は刺激しないように注意するのは魔物とか魔族だったんだけどなぁ。


「仕事が見つからないなら、冒険者でもやって日銭を稼いだらどうだ? うちには穀潰しを養う余裕はないんだ。少しでもいいから、家に金を入れてくれ」


 それは無理だ。俺は冒険者なんてやったことがないんだぞ? 冒険者って未経験者可の職場なのか? いや、そもそも職場なのか? 個人事業主ではないのか?

 クソっ! まともに働いたことがない俺には分からないことばかりだ。勇者パーティーにいた頃は、なんとなくでも金が稼げていたのに。


「まったく、どうしてこんな子になっちまったんだろうね。やっぱり甘やかしたのが良くなかったのかねぇ」


 お袋、そんなことは言わないでくれ。判断を下すのはまだ早い。もしかしたら、自慢の息子になるかもしれないんだから、諦めないでくれ。


「小さい頃から剣や槍の稽古ばかりで家の手伝いなんかしやしない。大きくなっても武者修行だとか言って家を飛び出して、それで冒険者なるなら良かったものの、何もせずに仕送りを要求する始末。本当に情けなくなるよ」


 だって、冒険者になって働く時間が勿体なかったんだもん。そんな時間があるなら修行に使うよ。

 実際、労働時間を犠牲にして修行したから、俺は超一流の戦士になれたんだ。だから、仕送りも無駄にはなってないぞ。それに勇者パーティーにいた頃に稼いだ金が……あ、その金を渡せばいいじゃん。


「ちょっと待ってくれ、家を出ていた時に稼いだ金がある」


「……まっとうに稼いだ金なんだろうな。汚い金は受け取らんぞ」


 信用が無さすぎないか? 二十七年くらい親の脛を齧っていただけで、ここまで両親からの信用を失うのか?


「怪しい金じゃない。ちゃんと稼いだ金だ」


 王様とか貴族の偉い人からもらった金だから大丈夫だろう。そう思って、俺は両親に勇者パーティーにいた頃に稼いだ金を見せた。すると、どうだろう?


「……これは金なのか?」


 うん、その反応は仕方ない。だって紙幣だもんね。転送される直前までいた国は独自の通貨として紙幣を使っていたからね。アインドラとか、この周辺の国は銀貨とか金貨だもんね。俺も紙幣を見たのはあの国が初めてだし、初めて見た時は金って分からなかった。


「悪い、ちょっと間違えた。仕事を探しに行ってくる」


 空気がヤバくなったので、俺は逃げるように家を出た。親父とお袋の、とうとう頭がおかしくなったのかという視線が痛かった。


「はぁ、働きたくねぇなぁ」


 家にはいられないし、剣術修行でもしようか、それとも筋トレかな? 持久力を鍛えるのも悪くないだろうけど、真昼間に街中を走り回ってるのは世間体が良くないし――


「何やってんだよ、兄貴」


 俺が悩んでいると、弟のレグルが話しかけてきた。どうやらレグルは昼飯を食いに来たようだ。


「いや、ちょっとな……」


 昔は仲が良かったが今は非常に気まずい。なぜなら、レグルはちゃんと働いていて、結婚もしているからだ。レグルを見ていると、俺はもしかしてヤバいのではないかという気分になる。


「あのさぁ、兄貴にこんなことは言いたくないけど、あんまり親父とお袋を心配させんなよ? 俺の嫁だって兄貴が昼間っから何もせずに遊んでるのを心配してるんだぜ? もうすぐ伯父さんになる人が、あんな人で大丈夫なのかしらって」


 ぐぇ、どういうわけか魔王軍七魔将の総攻撃を一人で受け止めた時以上のダメージが……っていうか、もしかして伯父さんて言った? もしや、子供ができたのか?


「兄貴のことだから、何か考えがあるのかもしれないし、それならそれでいいんだけど、何かやってるポーズだけは取ろうよ。そうすりゃ、親父もお袋も安心するからさ。まずは頑張ってるところを見せてこうぜ?」


「そうだな。お前の言うとおりだ」


 レグルは良い弟だなぁ。兄は感動しました。じゃあ、明日から頑張るね。よぉし、やる気でてきたぞ。


「じゃあ、これから冒険者ギルドに行こうぜ? 俺もついていくからさ」


「んん、あぁ、分かった。冒険者ギルドだな」


 これは嵌められたんだろうか?


「兄貴にできることって剣術くらいだろ? どのくらいの腕前か知らないけど、ガキの頃から練習してるんだから、なんとかなるだろ。きっと兄貴でも出来る仕事はあるぜ?」


 嫌だなぁ、働きたくねぇなぁ。

 勇者パーティーにいたら、こんなことならずに済んだのになぁ。





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