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逃げ出すエルフか話の分かるゴブリンか

 

 俺は戦場から逃げ出した。だって頭のおかしい奴らしかいないんだもん。

 乱戦になり誰が味方か敵か分からない状態になっていたから、どさくさに紛れて宿屋から逃げ出すのは難しくなかった。

 背後の宿からは怒号と奇声が聞こえてくるが俺は無視して走り出す。俺には目的があるんだ、あんなキチガイどもには関わっていられない。

 俺は〈疾駆アクセル〉のスキルを使って加速し、アインドラの港を目指す――


「――が、迷った」


 地図とか持ってないわけだし、だいたいの勘で進んでいたら迷うに決まっている。荒野を進んでいたと思ったら、いつの間にか森の中にいたとしても仕方ない。それに、いつの間にか夜になってしまっていた。

 夜の森を進むのは非常に危険だ。勇者パーティーにいた頃も、森の中で夜を迎えたら無闇に動き回らず、朝までその場で待つことにしていた。

 しかし、今の俺にはそんな悠長にしている時間は無い。早く勇者たちに合流しなければいけないからだ。


「早く合流しないと代わりのパーティーメンバーを加入させているかもしれない」


 そういう可能性があるから、俺は急がなければいけないんだ。だが――


「でもまぁ、そんなに急にはパーティーメンバーは決まらないだろ」


 頑張ろうと思ったんだけど気力がなくなってしまった。仕方ないって、疲れてるんだからさ。

 無理して急いでも逆に効率悪いし、今頑張る必要は無い。明日から頑張れば良いだろ。そう思って今日は眠ることにした……



 そして朝を迎え……


「キャアァァァ!」


 目覚ましは絹を裂くような悲鳴だった。俺は起き上がり、悲鳴が聞こえた方へと走り出す。森の中で女性の悲鳴だ。誰が悲鳴をあげていて、どんな状況なのかも想像できる。


「ち、近寄らないで!」


 声のもとへ到着すると、絶体絶命のエルフの女性がいた。

 エルフというのは耳が長くて種族全員もれなく美形で長生きという種族で、ゴブリンやオークに襲われやすい特徴を持っている。俺の目の前にいる女性も、その特徴が当てはまり、ゴブリンに取り囲まれていた。

 この後の展開は想像がつく。エルフの女性は抵抗空しくゴブリンに犯され、ゴブリンの子を産み続ける羽目になってしまうんだ。流石にそれは可哀想なので俺は止めに入ることにした。


「ゴブ、ゴブ!」(やめろ、貴様ら!)


 勇者パーティー時代に習得したゴブリン語の出番だ。世間には誤解されているが、ゴブリンというのは実は話が通じる種族なので、話し合えば問題が解決することもある。


「ぎー、ぎぎー」(なんだ、テメェ、殺すぞ!)


 話が通じなさそうだったので、俺はゴブリンの顔面に蹴りを入れた。


「ゴーブ、ゴッブ!」(やめろって言ってんだろ、ゴミども!)

「ぎーぎ! ぎぎーぎ」(んだ、コラぁ! おう、ゴラぁ!)


 ガラ悪っ! でもまぁ、キルマリアとか人間のキチガイと比べるとマトモだから、そんなに怖くは無い。つーか、このゴブリンの方が話し合いの余地があるだけ、人間よりも理性的なことに気づいて、そっちの方に恐怖を感じてしまう。


「ゴッブ、ゴブゴブ」(その子、嫌がってんだろうが)

「ぎっ!? ぎー」(マジか!? そりゃすまねぇ)


 ゴブリンだって強姦より和姦の方が好きだ。ただ、人間とかエルフの表情や態度を見て、嫌がっていることが分からないから勘違いしてしまう。だから、ちゃんと嫌がっていることを口で説明しないといけない。


「ぎぎぃ、ぎーぎ」(一人で森を歩いてるから、誘ってんのかと思ったんだよ)

「ゴブー、ゴーブ」(そういう勘違いは良くない。ゴブリンが良くやる間違いだ)

「ぎー、ぎー」(申し訳ねぇ、次からは気を付けるよ。その子にも謝っておいてくれ)


 故郷に帰ってきて、一番話が通じた相手がゴブリンだった件。

 エルフを取り囲んでいたゴブリンたちは頭を下げて帰っていった。どうやら、頭を下げるという行為が謝罪の意味を持つのは人間もゴブリンも変わらないようだ。


 さて、危ないところを助けてあげたんだが、エルフの女性からはどんな反応を頂けるんだろうか?


「ひっ、人間!?」


 エルフの女性は俺を見るなり、怯えて走り去っていった。いやまぁ、お礼を期待していたわけじゃないから別に良いんだけどさ。でも、そういう態度されると、俺の中でエルフの評価が下がるんだけど。

 ゴブリンは間違いを認めて頭を下げて去っていったのに、エルフってのはそれすらできないのかってガッカリだぜ。


「ぎーぎーぎー」(お、まだいたか、良かった)


 先程立ち去ったゴブリンたちの内の一匹が戻ってきた。


「ゴブ、ゴブ?」(どうした? 何か用か?)

「ぎぎぃ、ぎぎ」(迷惑をかけた御詫びに食事でもどうだと思ってな)

「ゴー、ゴゴブ」(すまん、ちょっと急ぎの用事があるんだ。気持ちだけもらっておくよ)


 話の通じる相手って素晴らしいな!

 俺は勇者を追う旅の最中だから厚意に甘えている時間が無いのが残念だ。


「ぎーぎぎ、ぎぃぎ」(そうか、ではまたの機会にな)

「ゴーゴブ、ゴ」(ああ、いつか寄らせてもらうよ)


 久しぶりに文化的な会話ができたことに感動しつつ、俺はゴブリンと別れる。

 ちょっとくらい御馳走になっても良かったんではないかと後ろ髪を引かれる思いだが、俺にはやらなければいけないことがあるので、寄り道をしているわけにはいかない。


 ――だが、ほどなくして気付く。


「メシが無いじゃん」


 ゴブリンと別れて走り出した俺だが、不意に空腹を覚え食事を取ろうと立ち止まった。だが、どこを探しても、旅立ちの時にレグルから貰った食料が無い。

 どうやら、どこかで落としたようだ。思い当たるのは旅の宿での騒動の時のことだが……


「キルマリアに拾われてんのかなぁ」


 なんか嫌な予感がするので、すぐにこの場を立ち去った方が良いと思うが……


「腹が減ってんのは良くないよな」


 うん、空腹は駄目だ。俺は超一流のSSSランクだが、そんな俺にも勝てないものはある。例えば食欲、性欲、睡眠欲の三つには絶対に勝てないんだ。その三つが襲い掛かってきたら、俺は速攻で白旗を上げるしかない。


「よし、ご飯を食べさせてもらおう」


 さっきのゴブリンに頼んで食事を恵んでもらうのが良いよな。だって、御馳走してくれるって言ったし、お言葉に甘えよう。なに、ちょっとくらい遅れたって勇者たちは待っていてくれるさ。

 そうと決まれば、さっさと引き返すとしよう。俺にはやることがあるが、ちょっとくらいの寄り道なら許されるさ。





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