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過去の嘘が円満解雇へと戦士を追い詰める

俺も流行りに乗ってみた

 

「ラルドさん、今までありがとうございました」


 勇者レイオルが涙を浮かべながら、俺に感謝の言葉を述べる。そんな勇者の隣には魔導士のミルカ、僧侶のステラ、弓使いのリザが並び、勇者と同様に涙を浮かべて、俺への感謝の気持ちを露わにしている。

 感謝されるのは良い。だが、ちょっと待って欲しい。なんでお別れみたいな雰囲気になっているんだ? 今までって何? これからはどうなるんだ?

 もしかして勇者パーティーを辞めさせられるのか? 勘弁してくれよ、勇者パーティーって実入りが良いんだぞ。ここ以上に稼げるパーティーは無いんだぞ。


 言っておくが俺は役立たずではないし無能でもない。

 俺の名はラルド。勇者パーティーに所属する超一流の戦士だ。どれくらい一流かというと、言葉で説明できないくらい一流だ。

 そんな俺なので、感謝は当たり前だ。勇者たちだっていつも『流石です、ラルドさん!』って言ってくれるし、俺の頑張りで窮地を脱したことだって何度もあるぞ。


「待て、急にどうしたというんだ?」


 ちょっと、状況が読めないので俺は勇者に尋ねた。すると勇者は――


「これ以上、ラルドさんに迷惑をかけるわけにはいかないんです」


 いや、迷惑だなんて思ったことは一度も無いぞ。俺達は仲間じゃないか、仲間は助け合うものだろう? これまでの冒険の中で、俺はお前たちを助けてきたが、お前たちも俺を助けてくれたじゃないか。だから、迷惑だなんて言うな。


「初めて会った時、ラルドさんは言っていました」


 な、何を言っていたんだっけ?


『危なっかしくて見てらんねぇ奴らだ。お前らが一人前になるまで俺が面倒を見てやるよ』


 い、言ったかなぁ、そんなこと……で、でも、君たちは、まだまだ半人前だと僕は思うよ? だから、もう少し面倒を見てあげるよ、うん、その方が良いと思うんだ。だけど、これを、どうやって切り出すか……


「僕たちは、もう一人前になりました。ラルドさんの助けがなくてもやっていけます」


「いや、まて……」


「ラルドさんには感謝の言葉しかありません。僕たちが魔王を倒すために旅をしてると言っても――」


『魔王を倒すだと? まったく、そんな夢物語みたいな話には付き合ってらんねぇな。だが、偶然にお前らとは旅の目的地が一緒なんでな、そこに着くまでは付き合ってやるよ』


 そ、そんなこと言ったかなぁ。


「口ではそんなことを言っていても、ラルドさんは、ずっと付いてきてくれて僕たちを助けてくれました」


『おいレイオル、俺はおりるぜ。いくらなんでも相手が悪すぎる』

『まったく、俺もヤキが回ったもんだぜ。おいレイオル、助けるのは今回だけだぜ?』

『悪いなレイオル、流石にお前らには付き合いきれねぇぜ』

『まったく、しょうがねぇ奴らだ。つき合ってやるのは今回で最後だぜ?』

『俺がいなけりゃ何も出来ねぇ連中だな。しょうがねぇ、次の街まで一緒に行ってやるよ』

『お前らの腕じゃ、この先に進むのは無理だぜ? 仕方ねぇから、次の国まではお守りをしてやるよ』

『勘違いするんじゃねぇぞ? 俺はお前らのお守りじゃねぇ。次の大陸に行く予定があるだけだ』


 ああぁぁぁぁぁ、言ってました。無茶苦茶かっこつけて言ってました。で、でも、嫌だとは思ってなかったんだぞ。割と喜んで助けてたんだぞ。


「でも、気づいたんです。僕たちはラルドさんの優しさに甘えて、ラルドさんに無理をさせていたことに」


「そんなことは無い」


 マジでそんなことが無いから思いつめた顔をしないで欲しいんだけど、場の空気がおかしくなるからさ。それに俺はいつも言っていたじゃないか、『勇者は皆の希望なんだから、いつだって笑顔でいないとな』って、だから、もっと楽しい雰囲気で話をしよう、そうしよう。


「いい加減、隠すのはやめなさいよ」


 魔導士のミルカが口を挟んできた。可愛いけど気が強いから苦手なんだよな、コイツ。


「アンタが夜中に遠くの空を見てるのは知ってるのよ。アンタが本当は故郷が恋しいってことをアタシ達は知ってるのよ」


『故郷か……ふっ、俺にはそんなものは無い。故郷と言えるものがあるとしたら、それは戦場だけだ。……だが、もしも帰れるなら……いや、忘れてくれ」


 ぐぁぁぁぁぁ、何故か数日前に戦った魔王軍四天王の攻撃以上のダメージを食らっているぞぉ!


「わたくしも知っています、いつもラルドさんが魔物や魔族を倒したときに辛そうな顔をしていることを! どんな相手であっても生き物を殺めることに苦しんでいると、わたくし達は知っているんです。それなのに、私たちはラルドさんに戦いを強要してしまって……」


 僧侶のステラさん。おっぱいが大きいのは素晴らしいけど、そういう勘違いはよくない。俺は生き物殺すの大好きだから! だから大丈夫、気にしないで。そんなに辛くなかったから! というか、そもそも何とも思ってなかったから!


「…………」


 弓使いのリザは何も言わない。体形も自己主張してないけど、会話でも自己主張しないのは素晴らしい。


「……今まで、ありがとう。迷惑かけてごめんね」


 それ止めてくれない? 完全にお別れの流れになるだろ。


「本当はラルドさんには残って欲しいんです」


 勇者レイオル、そう思うなら俺を残そう。感謝は全部終わらせてからにしようじゃないか、全部終わってからお互いに感謝の言葉を伝えて、お別れしよう。


「でも、あんな話を聞いてしまった以上、ラルドさんを連れて行くわけにはいきません」


「な、なんの話だ?」


「今更とぼけないでよ、婚約者が待っているんでしょ?」


 そ、そんな話をしたかなぁ。昨日の夜は酒が入っていたから、調子に乗って何か口走ったかもしれないけど……


「婚約者の方は不治の病に侵されていて、ラルドさんは治療薬を探すために冒険者になったと教えてくれました」


「……それを聞いたら、ラルドは連れていけない……」


「いいえ、連れて行っては駄目なんです。わたくしたちの我儘でラルドさんを危険な目に遭わせるわけにはいきません」


「そういうこと、だからアンタとはお別れよ。生きて帰れるかどうかも分からない危険な旅に、帰りを待ってる人がいるような奴を連れてはいけないわ」


 こ、婚約者かぁ……なんで昨日の夜の俺はそんなこと言ってしまったのか? 酒の勢い? 

 このままだと、酒の勢いが原因でパーティーを解雇されてしまうぞ。追放じゃなくて、円満解雇だから、文句も言えない感じだし、これはマズいぞ。どうにかして俺がパーティーに残る流れにしなければ。


「待て、そこまで分かっているなら、俺が旅を止めることができない理由は分かるだろう」


 ここはあえて話に乗り、活路を見出す!


「それについては、もう心配ありません!」


 勇者ぁぁぁぁ! その手に持ってる小瓶はなんだ!? そして、魔導士、僧侶、弓使い! どうしてお前らは誇らしげなんだ!? なんなんだ、そのやり遂げた感あふれる顔は!


「どんな病も癒すと言われるエルフの秘薬です。僕たちでお金を出しあって買いました」


 お金はもっと大事なことに使おうな! 俺が口を酸っぱくして教えただろうが!


「これさえあれば、ラルドさんの婚約者の病もきっと治ります。だから、もう旅を続けなくてもいいんです」


「そうよ、アンタはさっさと帰って、婚約者を大切にしてやりなさい」


「……ボクたちは、もう大丈夫だから……」


「わたくし達のことは気にせず、貴方の帰りを待っている人の所へ戻るべきです」


 四人で一斉に喋らないでくれ。否定するタイミングが取れないんだよ。でも、そのおかげ、良い言い訳が思いついたぞ。


「お前らの気持ちは有難い。だが、ここから俺の故郷までは遠い。まずはお前たちの旅を見届けてから――」


「その必要はないわ!」


 魔導士ぃ! こんなこともあろうかとって顔をするなぁ! その顔は俺を地獄に落とす顔だ!


「こんなこともあろうかと思って、転送魔法の準備をしておいたわ!」


「ま、待て、その魔法は……」


「ええ、たった一回きりの転送魔法。行ったことのある場所なら、どんなところへでも行けるけれど、戻ってくることはできない」


 やめろぉ、その魔法はマズい! クソっ、既に魔法が発動しているのか? 地面に魔法陣が――


「アンタが素直に了承するとは思ってなかったからね。強行手段を取らせてもらったわ」


「こんな形でお別れするのは心苦しいです。でも、ラルドさんにお世話になったことの恩返しをするためにはこれくらいしか方法がないんです」


 その気持ちだけで良いから! やめて、転送しないで! ほかに方法がある!

 勇者パーティーを辞めさせられたら無職だよ俺! 恩返しは終身雇用で頼む! もうすぐ三十路なんだ、この歳で無職はキツイ!


「婚約者とお幸せにね。アンタみたいな脳筋は好みじゃなかったけど、いつも私の盾になってくれたことは感謝してるわ」


「どうか御元気で。誰かを守るために戦う貴方の姿に、わたくしは勇気を貰っていました。貴方の雄姿を胸にわたくしはこれからも弱き人々のため戦い続けます」


「……ありがとう。迷惑ばっかりかけたけど、いつも助けてくれて。ラルドのことは忘れないよ」


 くそっ、なんだか涙が出てきたぜ。俺もお前らのことは忘れない――いやいや、駄目だ、お別れは駄目だ! なんとかしてくれ、勇者ぁ!


「ラルドさん……僕は間違っていたかもしれません」


 ああ、間違っていたよ。だから、その腰の聖剣を使ってくれ、それなら魔法を打ち消せる。


「本当の恩返しは魔王を倒し、世界を平和にすることですよね。僕は絶対にラルドさんと婚約者さんが平和に生きることのできる世界にしてみせます。それまで待っていてください。そして、いつの日か、また会いましょう」


 畜生、そうじゃねぇんだ。そうじゃねぇんだよ……

 今すぐ叫びたいけど、叫んだら俺のキャラが……ここまでニヒルでクールな頼れる戦士を演じてきた俺のキャラが……


「さようなら、ラルドさん……」


 やめろ、勇者ぁぁァああぁぁぁ――



 ――――こうして俺は勇者パーティーを解雇された。婚約者の病を治すとかいう旅の理由は達成したので問題はない。だけどな……


 そもそも俺に婚約者なんかいねぇんだよ! 全部嘘だよ!


 なんで不治の病の婚約者がいるとか言ってしまったのか? 

 なんとなく、そういう設定あった方が格好いいかなって思ったんだよ。だって、勇者パーティーってみんな重い過去とか旅の動機があるんだもん。俺だけなんも無いと恥ずかしいじゃん。

 こんな結果になるんだったら、何も言わなければ良かった……。


 それ以前にキャラ付けに失敗した感がある。ああいうキャラが格好いいと思ってたし、勇者に好かれるかなぁって思って調子に乗った結果がこのザマだよ!


『クールでニヒル。口は悪いけど面倒見が良くて、隠してはいるけれど実は熱い心を持つ兄貴キャラ』


 そんなキャラを目指したのが良くなかったんだ。

 故郷? 普通にありますよ。実家は雑貨屋です。両親ともに存命、弟もいて、実家の店を継いでます。

 ちくしょう、三十路手前で無職かよ。親父とお袋になんて言おう。


 はぁ、こんなことになるなら、カッコつけるんじゃなかったぜ……。







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