正義の味方の末路
悪が居なくなった時、正義の味方はどうすればいいだろうか…
日常に戻る?戻れる人間もいるだろう…
大衆が決めた悪が消えたら、大衆が決めた正義の味方はどうなるだろう?
英雄?それとも新しい悪?
正義の味方に救えるのは正義の味方が助けると決めた人間だけだ。そこに悪は入ってはいない。
正義の味方が悪を救うなら大衆が正義の味方を許さない。
大衆が悪を敵と決めているからだ。
所詮、正義と悪を決めるのは大衆が大半だ。
正義の味方と呼ばれていた人間が大きなチカラを持つ人間に不要とされれば一転、今まで許されていた行為が世間に根掘り葉掘り晒され悪と断罪される。
正義の味方は悪に強く、悪は大衆に強く、大衆は正義の味方に強い。
正義の味方は大衆に悪と断罪されれば大半の正義の味方は悪に転じる前に死ぬ。
それが正義の味方という存在なのだと思う。
正義の味方は人に弱いのだ、どれだけチカラがあろうがそれは悪に対してのみ発揮される。そういう存在。ちっぽけだなと思った。
白銀の髪を風に揺らし未だ燃え盛る街を見下ろす。美しい容姿を持った彼女はこの間まで大衆に正義の味方と言われた人間だった者。
彼女が悪を殲滅した後、大衆は正義の味方を捨て彼女を悪として断罪した。
先程の言葉が真実ならば彼女は死ぬ運命にあっただろう。
だが彼女は死んではいない、ならば彼女は完全なる悪なのか?…わからない…
悪を滅ぼし、大衆すら滅ぼした彼女は何者なのだろう。
それを決める者達はもういない…
何故なら彼女が全て、滅ぼしたから…
大衆の屍の上に立ち、彼女はある少女を想う。
今まで正義の味方として正義と云う名の鉄槌を悪に向けて振り下ろしていたが悪であっても命はある。
殺人許可証を大衆から貰っていたが大衆から正義の味方という名の殺人許可証を剥奪されれば残るのは殺人を行ったという事実だけだ。
無論、彼女を慕い彼女が悪と断罪されてもなお彼女を守る者達はいた。
だが守る者達は悪ではない…
徐々に大衆の圧力が増していく中で大衆に悪と断罪された彼女を守る人間は一人また一人去っていく。
彼女は仕方のない事だと思った。
一人でいるより大衆といた方が安心する。
完璧な個でない限り、多人数から受ける圧力という名のプレッシャーは徐々に気持ちを削いでいくものだから…
その中で最後まで彼女を守り続けていた少女がいた。
彼女は少女を自分が守っている気でいたが結果として少女に守られていたのは彼女の方だった。
それを気付いたのは少女が大衆の銃弾で倒れた時だった…
少女は彼女の最後の理性だった。
今まで少女がいたからどんな攻撃にも理性が保てていた。
少女の言いつけで彼女はそれまで、攻撃してくる大衆を殺さず流していたのだ。
だが少女は死んだ…彼女の前で…大衆の弾丸で…
理性という名の枷が外れた。大衆を許す訳にはいかなかった。
見境いなく大衆を殺し尽くす彼女を止める為、現代兵器をフルで活用したが彼女には効かず最後には核兵器を使ったがそれすら彼女には届かなかった。
彼女は思った。
私はこんなにも規格外な存在だったか?
わからなかった…そもそも自分より強い人間は存在しなかったから。
「嗚呼…寒い…一人はこんなにも寒いものなのだな…」
少女を想い、彼女の瞳から涙が頬を伝った。
少女がいれば全世界を敵に回してもよかった…少女がいれば彼女は一人ではないから…
だがもう少女はいない、憎む対象さえも彼女が殺し尽くして既にいない。
世界は炎に包まれているのに…燃える大地に立つ彼女は寒さを感じていた。
「このまま、炎に身を任せるか…」
こんな炎で自身が殺せるかはわからないが…
とても寒い…炎に身を任せればこの寒さから救ってくれるだろうか?
彼女は大衆の屍で出来た丘から炎に向かって身を投げた。
その日は咲神至の誕生日だった…




