981 レザルヴァ
竜人たちを殲滅した第二部隊は、さらに中央へと進んだ。
道中に現れる抗魔を蹴散らしながら、目指すのはトリスメギストスの城である。
そこに、本当にベルメリアや、その母親ティラナリアが捕えられているのかは分からない。しかし、フレデリックには何らかの確証があるらしく、迷いなく中央を目指していく。
トリスメギストスの居城に近づけば近づくほど、敵の妨害が激しくなると思っていたのだが、竜人たちの姿はなかった。
襲い掛かってくるのは抗魔ばかりだ。竜人王が抗魔を操れる可能性があったが、この襲撃がその能力によるものかも分からない。
元々大陸中央には抗魔が多く、先の巨人型出現でさらに増えている可能性があるからだ。
結局、最初の戦闘以降、第二部隊は竜人に出会うことなく、トリスメギストスの居城へと到着してしまっていた。
だが、それも向こうの作戦だったらしい。
「おいおい。こりゃあ、随分と熱烈な歓迎だねぇ」
「竜人、いっぱい」
あとちょっとでトリスメギストスの居城という場所で、竜人の軍勢と鉢合わせていた。目指す城が、すでにうっすらと見えている。あと1時間もかからないだろう。
「さて、どうするか。話を聞いてもらえるような雰囲気には見えんが……」
「200人はいますね。しかも、かなり強そうです。迂回しますか?」
「いや、ありゃあ、逃がしちゃくれんだろ」
近づくほどに、相手から放たれる剣呑な雰囲気が増していく。どう考えても、敵だろう。
イザリオとフランが先頭に立ち、冒険者や兵士たちがその後ろで陣形を作る。シキミたちは、いきなり戦闘になることもあり得ると考えたのだろう。
そして、その推測は当たっていた。
彼我の距離が200メートルほどになった時、竜人たちが動き出したのだ。横一列に広がると、そのまま突っ込んでくる。
「ちっ!」
イザリオが前に出て、魔力を放った。多分、挑発のスキルを使ったのだろう。だが、竜人全体に影響を及ぼすことはなかった。
釣られたのは、せいぜいが、30人ほどだろう。
「総員、武器構え! 前衛は盾で受けなさい!」
シキミの号令で、皆が武器を構える。
だが、竜人たちの戦闘力は、俺たちの想定を遥かに超えていた。
「ガアアァァァ!」
「ルガァァァァ!」
すでに最初から理性を失った状態であるようだが、その代わり能力が上昇しているのだろう。鑑定では表示されないが、リミッターを外して潜在能力解放に近い状態になっているのだと思われた。
さらに、邪竜人でもないのに、その内からは邪気が感じられた。やはり、まともな状態ではないのだろう。
今まではどんな相手にも互角以上に戦ってきた老兵士たちが、最初の激突でぶっ飛ばされてしまっている。冒険者の盾役たちも必死に竜人を止めようとしているが、完全に力負けだ。
装備を見る限り、ここの竜人たちは元々がベテランの戦士なのだろう。それが強化されているわけだから、イザリオに倒された下級戦士たちとはその力が段違いなのだ。
「ウルシ! みんなの援護!」
「オン!」
「私は、あいつをやる!」
フランが睨むのは、一際強烈な魔力を放つ、一人の竜人である。こいつがこちらに突っ込んできたら、凄まじい被害が出るだろう。
毒々しい赤い鱗に全身が包まれた、異様な姿の火竜人だ。なんと、腕が普通の倍もある。長さも太さもだ。本当に竜の腕でも移植したかのようだった。
バランスが悪すぎて、まともに動けるのかも怪しい。それほどに腕だけが大きく、長かった。
だが、強い。存在感だけで、それが分かる。
多分、フレデリックの言っていた竜神の秘跡を、完全使用したのだろう。
「……ここから先には行かせん」
「お前は、普通なの?」
「竜人王様に忠誠を誓っておるからなぁ!」
そう叫んだ竜人は、一気に距離を詰めてきた。こいつが指揮官か? ともかく、他の冒険者では荷が重いだろうし、俺たちが担当せねば。
そこに、フレデリックの声が聞こえた。竜人数人を相手にしながらも、こちらに忠告してくれる。
「黒雷姫! その男は、レザルヴァ! 北の居留地の竜人たちの長老だ! 竜人でも指折りの戦士だぞ! 油断するな!」
顔にまで鱗が生えているのでパッと見年齢が分からなかったが、長老だったらしい。竜人は長命種なので、年齢が高い個体ほど強いと言っても過言ではない。
それが強化されているのであれば、相当に手強いだろう。
「裏切り者がぁ! 竜人であれば、王の前になぜひれ伏さぬ!」
「自称王になど、誰がひれ伏すものか!」
「貴様ぁ! 小娘の次は貴様を八つ裂きにしてくれるわ!」
こいつは操られていないと思ったが、沸点の低さはやはり同じだ。理性を失っていないだけで、精神操作の影響下にはあるようだ。
まあ、だからと言って手加減はせんが。というか、手加減できんが。
「お前はここで終わるから、フレデリックを八つ裂きにはできない」
「抜かせ! 小娘ぇ! 殺してやるわい!」
「無理なこと、言わない方がいい。嘘つきになる」
「ぬがぁ!」
フランもイザリオを見習って、相手を挑発することにしたらしい。やはり、怒ってる相手は動きが単調になるし、戦いやすいからな。
ただ、単調であってもその動きは異常に速かった。
「しいぃぃぃねぇぇ!」
「くっ!」
斬りかかられると分かっていても、フランが避けきれずに俺で受けたほどだ。攻撃の気配がなかったのである。
『フラン! こいつ、背中から炎を出して、急加速したぞ!』
コルベルトが武闘大会で見せた、無拍子と同じだ。自身の筋力ではなく、脱力した状態から炎を放出した勢いで加速したのである。
そのせいでフランのタイミングが外され、突きを受けざるを得なかったのだ。しかも、その一撃の威力が凄まじい。
俺の耐久値が、かなり削られたのだ。
『腕力だけじゃねーな。奴の剣、魔剣だ』
「ん」
特殊な能力はないが、攻撃力が素で800を超え、伝導率はA。高位の魔剣と言って差し支えなかった。
「刻み殺してやるわぁぁ!」
「こっちのセリフ!」




