968 戦乙女とイザリオ
戦力の分け方だが、できるだけそれぞれの部隊の戦力は均等にしなければならない。本来であれば、神剣3本を別々にしたいのだろう。
だが、ここで問題が1つ。
ベルセルクの扱いだ。暴走するという性質上、足手まといの大部隊を連れていると、同士討ちが起こりかねない。
しかし、ベルセルクに対して何の枷もない状態で今の大陸に解き放つのは、委員会も不安であったらしい。
そこで、ハガネ将国の目付け役としてイザリオを同行させる形になっていた。最も信頼できる駒を、最も不安な相手の目付け役としたのだろう。
各部隊の主力は、第一部隊が聖国シラードと竜人の精鋭。第二部隊がハガネ将国とイザリオ。第三部隊はジェイン、オーファルヴ、ヒルトという形である。
因みにソフィやメアはここにいない。センディアの壁の修復がまだ終わっておらず、その防衛を優先したからだ。委員会も、拠点を見捨てて他の町を救えとは言えないのだろう。彼女たちの言い分を認めていた。
フランは第二部隊の所属だ。ここは神剣が2本ある分、部隊員の数が少ない。その代わり足が速く、高速移動できる面子が揃っていた。
より遠くの巨人型にできるだけ早く到達できるよう、機動力重視で組まれた部隊と言えるだろう。
以前、一緒に行軍したハガネ将国や、顔見知りの冒険者たちに加え、騎乗可能な動物を帯同している騎士団などが組み込まれている。
そんな部隊を率いるイザリオとともに、フランたちも大陸を南へと向かっていた。目的地は、センディアから南西に位置する、違法都市の1つだ。
現在、連絡が取れなくなっているという。
フランが指揮官として先頭に立つ冒険者たちは、騎馬隊などと変わらぬ速度で駆けていた。フランの持つ称号『進軍の戦乙女』の効果によって、率いている冒険者たちの進軍速度や体力が上昇しているおかげである。
並走する騎馬隊だけではなく、当の冒険者たちも驚いているようだった。すでに1度は見たはずのイザリオやハガネ将国の老兵たちも、再び騒めいている。
やはり、見慣れぬうちは奇異に感じるのだろう。イザリオがボードを滑らせて近寄ってくると、小声でフランに確認してくる。
「嬢ちゃん。こりゃあ、嬢ちゃんのスキルか魔術だよな?」
「ん」
「そうか……。これは、どれくらい続く? 前回はかなり長時間発動したままだったよな? もし無理しているようなら、道中で休憩してもいいが」
「だいじょぶ」
進軍の戦乙女は称号なので、フランに直接の負担はない。スキルのいくつかを配下の者と共有するだけなので、自身の分を発動しているだけで済むのだ。特段、疲労が増すようなこともなかった。
まあ、共有される際に効果は半減するので、いつもより強めにスキルを発動しているが、その程度だろう。
そう聞いたイザリオが真剣な顔で考え込む。非常に難しい顔だ。
「嬢ちゃん、この称号のことは大っぴらに言わんほうがいい」
そして、フランだけに聞こえるような声で、忠告の言葉を口にした。
「軍事利用が容易過ぎる。シラードあたりには絶対に知られるなよ?」
また聖国に知られちゃまずいことが増えたな。イザリオでさえも、何らかの代償が必要なスキルや魔術だと思っていたんだろう。
考えてみたら、そう勘違いして当然の能力なんだよな。俺とのスキル共有によって得た称号だが、普通の人間では手に入れるのが難しいはずだ。というか、普通は無理かもしれない。
前提条件であると思われる戦乙女スキルが、ワルキューレの固有スキルなのだ。普通の人間に覚えられるかどうかも分からなかった。
そのおかげで、一見してどんな能力かバレる可能性は少ないだろう。普通には所持しているとは思われない称号だし、知られてもいないはずだ。
懸念は鑑定だが、銀の女に貰った偽装の腕輪があれば大丈夫だろう。
ただ、イザリオに不審に思われたように、何度も体験していればそのおかしさに気づく者は出るはずだ。ハガネ将国の者たちも、違和感を覚える恐れがあった。
『うーむ。どうしようかね』
一番いいのは、疲れた風を装って休憩を挟み、しばらく使用しないことだろう。長時間は使用不可能だとイメージ付けするのだ。
だが、それはフランが嫌がった。
(休んだら、それだけ遅れる)
『まあ、そうなんだけどさ……』
(少しでも急がなきゃダメ)
巨人型が暴れ回っている今、自分の都合で行軍を遅らせることはしたくないらしい。どうするかフランと相談していると、イザリオが先に動いていた。
ハガネ将国の指揮官に近寄り、今後の行動を相談している。
「サカキ殿、この先にある丘で少し休憩する。馬を少し休ませなきゃならんしな。冒険者たちも走りどおしだからな」
「そうですね、分かりました。しかし、前回も見ましたが、生身でこの行軍速度は凄い」
「ははは! そうだろ? 貴重な魔道具の効果なんだよ?」
「ほう? イザリオ殿の持ち物なので?」
「おう。知り合いから手に入れたのさ」
なんと、自分の魔道具の効果だと言い放ったのだ。驚いたフランが、イザリオに気づかうような視線を向けている。
「イザリオ、今の」
「まあまあ、ここはおじさんに任せておけって。俺ならおいそれと手出しされんし、いざとなれば戦闘中にぶっ壊したとでも言うさ」
「……なんで、そこまでしてくれる?」
「おじさんっていうのは、若いもんに見栄を張りたい生き物なんだよ。それに、お嬢ちゃんはまだまだ上に行くだろうからな。今のうちに恩を売っておくのも悪くないだろ?」
「ありがと」
「貸しひとつだからな? 返すまでは死なれちゃ困るぜ?」
「ん。絶対に返す」
「そうしてくれや」
イザリオ、ダメ親父だけどいいやつだ。いつもだったら貸しなんて言われたら警戒するけど、イザリオ相手なら全く不安は覚えない。
フランだけじゃなくて、俺もこの親父を気に入り始めているらしかった。
年末年始ですが、少し長めのお休みをいただく予定です。
12/25~1/2はお休みで、年始に1度更新。その後、再び1週間ほどお休みさせていただきます。
体調や、書籍、アニメ関連の仕事量によっては少し伸びるかもしれませんが、ご了承ください。




