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95 真実の剣(嘘)

 サルートが黒幕だったとは……。完全に騙されたぜ!


 最初に会った時に、嘘をついているって分かればよかったんだけどな~。さすがに虚言の理を24時間常時発動してるわけじゃないのだ。


 そもそもあの時は、とりあえず黙らせてからじっくり尋問するつもりだったし。その後は、双子の関係者ってことで、完全に信用してしまっていた。


 今回だって、ネイマーリオに使ったついでに、サルートにも一応使ってみただけだったのだ。


『うーむ、どうしようか……』


 とりあえず、さっきフランが斬っちゃった兵士にヒールをかけておく。良かった、死んでなかった。ヒールを詠唱しながら、この後どうするか考える。


 サルートはレイドスのスパイで、ネイマーリオと共謀していたというのは確実だ。ただ、それを証明する手立てがな……。例え、嘘を見抜くスキルを持っていると言ったところで、それを証明できない。


 スパイとか陰謀とか色々と面倒だが、ここで何もかも見なかったことにして放置するのはちょっとな……。このままサルートを見逃したら、双子はいつか暗殺されるだろうし、セリドも口封じされるだろう。


 セリドはどうでも良いが、フランと仲良くなった双子は助けたい。双子に何かあったら、フランが悲しむ。


『どうにか口を割らせたいが』

(やっちゃう?)

(オン?)

『待て待て。体に聞くのは最後の手段だ!』

(そう?)


 痛めつけたところで喋るかどうかも分からないし。スパイと言えば、どんな拷問にも耐え、口を割らないイメージだからな。


 下手したら、俺達がお尋ね者だ。


「もういいかな? この男を連行したいのだが」


 やばいやばい。このままじゃ、セリドが連れていかれてしまう。どうする? どうする?


(やっぱり力ずくで)

(オンオン!)

『待つんだ! それは最後の手段だ!』


 このままじゃフランたちがいきなり最終手段に出てしまう! あー、もう! 仕方ない、少々強引な手段になるが、これしか思い浮かばん!


『フラン、俺が言う通りの言葉を言うんだ』

(ん。わかった)

『ウルシは、サルートとネイマーリオが逃げないようにさり気なくガードだ』

(オン!)


 上手く行ってくれればいいが……。


「ちょっと待った」


 まずはセリドの連行を阻止しないとね。


「まだ何かあるのか?」


 またまたフランに邪魔されたサルートがちょっと苛立ってるな。いいぞ、冷静さを失わせた方が、ボロが出やすくなるだろうし。


「セリドの悪事を証明する良い道具を持っている」

「ほう?」


 その言葉に、サルートが微妙そうな顔をする。これ以上余計なことをしてほしくないんだろう。そして、セリドの表情は目に見えて曇った。セリドは俺たちがサルートの仲間だと思っているし、さらに罪を着せられると思ったのかもな。


「封印解除」


 フランの台詞に合わせて、俺は形態変形を発動した。ついでに、属性剣・雷鳴と浄化の魔術も合わせて、神々しさも演出だ。


「おおー!」

「な、なんだそれは!」


 皆が驚いているのが分かる。何せ目の前で剣が光り輝きながらその形を変えていくのだから。まあ、単なるこけおどしだが。刀身には翼をイメージした装飾をこれでもかと生やし、イメージは儀式用の祭具だ。戦闘力は皆無だけどね。


「そ、それは何だ?」

「これは真実の剣。性能は――見てれば分かる。フルト」

「な、何だ?」

「妹の名前は?」

「は?」

「妹の名前は? 答えて」

「あ、ああ。サティア・ディール・フィリアースだ」

『本当です』

「うわ! 何だ今の声は!」

「この真実の剣は、対象の言葉が嘘か本当か判別してくれる魔道具」


 うん、真っ赤な嘘だね。いや、虚言の理で嘘を見抜いているんだから、少しは本当か? これが俺の考えた作戦だ。嘘を見抜く魔道具があるという嘘をでっちあげて、最終的にはサルートの嘘を暴露してやるのだ。というか、追い込んで、自白を狙う。


 そのためには、まずは真実の剣と言う魔道具が本物であると、周りの奴らに思い込ませなければならない。


 こんな時に演技スキルでもあればよかったんだけどね。仕方がない。それに、虚言の理のスキルには、嘘を信じさせる効果もある。俺のスキルだからフランの言葉には直接の影響はないが、俺の演技は確実に周囲の奴らに影響を与えているはずだ。動きもない剣の演技なんぞに、どれくらいの効果があるかは分からないけどな。


 声は出来るだけ平坦な感じで、道具っぽさを演出だ。お手本はアナウンスさんである。それだけじゃないぜ? 鑑定偽装で名前まで真実の剣に変えてある。この場に鑑定が使える人間がいないことが残念なくらいだ。


「今度はサティアの番。何か質問する」

「分かりました。では、5歳の誕生日に、アンジェリカお姉さまから頂いたプレゼントはなんでしたか?」

「――2人お揃いのお守りだったな?」

『本当です』

「答えたぞ!」

「しかも正解ですね」

「で、では。父の好物は何だ?」

「お肉です」

『嘘です』

「ま、また当たったぞ!」

 

 双子の父親。つまり、王様の好物は甘味だそうです。きっとメタボリックな感じなんだろうな。


 その後、双子は互いに色々な質問をし合った。一昨日の晩餐のメニューや母の名前に始まり、昔好きだった相手の名前やら、最後におねしょをした日などの際どい質問まで、色々だ。王族の恥ずかしい秘密とか、知りたくないよ! 


 ただそのおかげで、双子は真実の剣が本物であると確信した様だった。


「ほ、本物だぞこれは!」

「すごいですね!」

「次は、船長」

「私もですか?」

「ん」


 ということで、次は船長と船員たちだ。奥さんの父親の名前とか、飼っている猫の名前とか、正直どーでもいい質問ばかりだったが、船長たちも騙くらかすことに成功したようだ。まあ、本人じゃなきゃ真贋のわからない質問ばかりだったしな。


 周囲の人間は、完全に俺が真実の剣だと信じたようだ。さて、これで準備は整った。


 さっきからサルートたちの顔が微妙に歪んできているのが分かった。内心ではかなり焦っているのだろう。真実の剣を使われたら、セリドが潔白だとばれちゃうからな。


「はっはっは。これは凄い道具だな。だが、このような物を使うまでもない! セリドが海賊と通じていたことは、皆が分かっているだろう? 海賊自身の自白まであるのだ」


 とか言い始めたが、逃がすものか! フランはサルートの言葉を無視して、セリドに質問を投げ返した。


「双子の暗殺を企んだ?」

「企んでなどいない! 私は無実だ!」

『本当です』

「ば、馬鹿な――モガガ!」


 サルートが口を開こうとしたが、念動で邪魔してやる。さあ、こいつが騒ぎ出す前にガンガン行くぞ!


「双子の誘拐を依頼した?」

「していない」

『本当です』

「海賊に頼んでこの船を襲わせた?」

「海賊などと、関わりがある訳なかろう!」

『本当です』

「ネイマーリオに、船の手配を頼んだ?」

「ああ」

『本当です』


 質問が進むにつれて、周囲の奴らの目が驚きに見開かれていく。最悪の裏切り者だと思っていたら、実は無実だったのだから当然だが。


「じゃあ、ネイマーリオに質問」

「こ、答える必要を感じないが」

 

 はいはい。戯れ言は無視してとっとと進めますよ。どうせ後ろではウルシが睨みを利かせていて、逃げられないしな。


「セリドを嵌めて、罪を着せようとした?」

「そ、そのようなことするわけがない」

『嘘です』


 その答えに、双子の目が険しくなる。


「サルートと共謀している?」

「……」


 今度はだんまりか。まあいいけどね。


「サルートと共謀している? 沈黙は是とみなす」

「な、そんな――」

『本当です』

「サルートは双子の命を狙っている? これも、沈黙は是」

「知らん! 知らん知らん! 俺は何も知らん」

『嘘です』


 この時点で、全員がネイマーリオを睨んでいた。ネイマーリオが裏切り者だったと、完全に信じている様だ。真実の剣は嘘をつかないからね? くっくっく。


 それにしても虚言の理は恐ろしいスキルだ。とことん悪用すれば、国を傾かせることさえ簡単にできるかもしれん。逆に使うのが怖くなったな。バカ貴族ことオーギュストの成れの果ても目の当たりにしたし、やはり無暗な使用は避けた方がいいかもしれない。


「じゃあ、サルートにも質問」


 さあ、どうする? 俺は真実の剣だぞ? お前の正体がばれちゃうぞ?


「――くそっ! 小娘が!」


 サルートも俺が真実の剣であると信じていたようだった。実際に嘘を暴いているわけだしな。


 最早、言い逃れはできないと悟ったのだろう。いきなり腰の剣を抜き放つ。そして、双子に向かって飛びかか――れなかった。


「こうなれば――ぶべ!」

「ガガウ!」


 一瞬で元の大きさに戻ったウルシが、前足でサルートを押さえつけたのだ。


「もう質問をするまでもない」


 双子の顔を見ればわかる。完全にサルートが黒幕だったと理解したようだ。


「そんな、サルートなぜだ!」


 そして、フルト王子の悲痛な声が船上に虚しく響き渡るのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 虚言の理は強力な分使い所が難しいな。 便利すぎて使わない理由は無いけど、使いすぎるとバカ貴族みたいになりそう。 師匠が以前自分でそう考えていたので常用しないだろうけど、読者からすると「虚言の…
[良い点] ✕ 真実を見抜く魔道具 ○ 真実を見抜くことも出来る魔剣 だいたいあってる説。
[良い点] 魔法少女フラン (笑)
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