967 ノクタへと集結する戦力
聖国シラードの承諾を半ば無理矢理取り付けてから3日。
ノクタに各国の部隊が続々と集まってきていた。
町に入りきれない兵士たちは門の外に天幕を張り、そこで待機しているほどだ。南門の前には大小500近くの天幕が並び、煮炊きの煙が上がっていた。
正確な人数は分からないが、周囲の町からやってきた冒険者に、各居留地から派遣された竜人たちを併せて1000。それに加え、招集に応じた国の騎士や兵士たちが4000人ほどだ。
弱小国の中には10人ほどの派遣でお茶を濁しているところもあるそうなので、一概にどの国から何人というのは言えないらしい。
しかも、全ての軍勢がノクタに集まっているわけではないという。
ノクタ以外にも5ヶ所の町が集結地点として選ばれ、全体では3万以上の軍勢が動くことになっているようだ。
しかも、これで想定の半分程度の人数であるらしい。
巨人型との戦いで、すでに相当な被害が出ているせいだ。
ノクタ、センディア、ブルトーリは少ない被害で何とか倒すことができた。だが、当然ながら全ての場所が上手く行ったわけではないのである。
竜人や結界外からの増援も投入され、出現した巨人型の討伐に成功した町もある。
だが、目覚める前に倒せればまだいい方で、動き出した巨人型の攻撃によって半壊した都市もあるらしい。
羊水が一定以上失われると動き出すそうで、未だに眠ったままの巨人型もいる。しかし、動き出した個体が半数以上おり、今も大陸各地で暴れ続けているのだ。
各国の兵士や騎士にも甚大な被害が出ており、戦力的な余裕が全くない国も多いという。それどころか、将軍や指揮官含めて全滅した国もいくつかあるようだ。
管理委員会の幹部という人物もノクタに到着し、現在は今後の行動を話し合っているところだった。
各国の将軍や部隊長に、竜人の将軍数名。さらには、イザリオやフランなどの上級冒険者。傭兵団の代表などが総計で50人ほどいるだろう。
塔と同じ形の医療機関の一階を借りて、集まっている。この大陸で治療院と言えば塔の形をしているようだ。センディアほど大きく、権力を持っているのは稀であるようだが。本来であれば、患者さんの待合室として使われているフロアなので、広さは十分だった。
ただ、長椅子は動かしづらく、そのまま使用されている。地球の大病院の待合室に似た部屋に、鎧を着こんだ偉そうなおっさんたちが真面目な顔して座っているような図なのだ。
どこか滑稽で、笑いを堪えるのに必死だった。それに、このおっさんたちにはほとんど発言権がないのも、妙にシュールさを掻き立てるのだ。
この辺に座っているのは、大国の決定に逆らうことができない弱小国の代表たちだった。
本心では、後で結果だけ知らせろと思っているのだろう。だが、国の代表として会議に出ないわけにはいかないし、居眠りなどをすることも許されない。
真面目な顔で自分の太腿をつねって、眠気覚ましをしている騎士とかもいた。
会議中に声を上げているのは、全体で12、3名ほどだろう。
ああ、フランは一応、発言権は持っている。今のフランはただの冒険者ではないからだ。
現在のフランは、ベリオス王国の代表扱いでもあった。海軍提督ブルネンと共に、会議に出席している。
ベリオス王国自体、北大陸の二大国には及ばぬものの、世界的に見れば大国に分類される。国力も高いし、海軍もそこそこ強い。まあ、海軍は数年に一度、ゴルディシアへの派兵以外にほぼ仕事はないが。普段はウィーナレーンが乗っているので、実態以上に強いと思われているようだ。それに、魔術学院が国内にある関係で、軍の魔術師の数も非常に多かった。少数精鋭であることに間違いはない。
しかも今は、異名持ち冒険者のフランに加え、ランクA冒険者率いるデミトリス流の雇い主でもあるのだ。
今回、通常戦力はあまり多く連れてきてはおらずとも、前線で活躍できる上位戦力を多く揃えていた。
そんなベリオス王国は、この会議の中でも5指に入る重要国と言えるだろう。
まあそれでも、強者である女王自らが率いるスノラビットや魔族の国には及ばないが。
それに、この後動く際は、フランは冒険者ギルドの人間として動くことになるだろう。ヒルトーリアたちもそうなる可能性が高い。
それでも、ベリオスの人間として振舞っているのは、ブルネンにそう頼まれたからだ。国益的なことを考えれば、自分たちの国から大きな戦力を提供したと主張しておきたいんだろう。
委員会の面子には、ウィーナレーンの弟子にして筋肉エルフのウィリアムもいた。魔術顧問という役職だし、俺たちの想像以上に偉かったらしい。
基本的には管理委員会が主導し、他の組織がそれを追認する形である。
集められた戦力の行動指針は、選抜精鋭部隊をいくつか作り、ノクタ周辺の巨人型を潰していくという形だ。他の部隊は斥候と情報収集、各地への支援をメインに動くことになるだろう。
また、北の居留地の竜人はいない。呼ばれなかったわけではなく、招集に応じなかったのだ。伝令が訪れた時、北の居留地にいた竜人たちは忽然と姿を消していたらしい。
やはり、彼らは竜人王の配下なのだろう。そして、今回の異変に関わっている可能性が増したのである。
会議の後に発表された部隊割を見ると、当然ながらフランは精鋭部隊であった。他には、メア、ヒルト、コルベルト、ディギンズなどの冒険者組も名前がある。
あとは、聖国シラード、ハガネ将国の神剣保有国に、ドワーフ、魔族とその女王たち。他には竜人のチェルシーに傭兵のツァルッタ・カメリア、騎士のヤーギルエールなどの名前も記載されている。
頼もしい面子ではあるが、上層部がこれだけの戦力を揃えねばならないと考えているということでもあった。
巨人型の出現した地点の周辺から戦力を送り出し、数を頼みに倒すというのが普通の対処法だろう。
だが、今回は3日間もかけて、わざわざ戦力をまとめようとしている。小出しにした戦力をぶつけても、無意味であると判断したのだろう。委員会は、動き出した巨人型がそれだけ強いと考えているということでもある。
『こりゃあ、気の抜けない仕事になりそうだ』




