961 ブルトーリ救援
フランたちが城門に辿り着くと、そこはかなり悲惨な状況となっていた。
城門の外では冒険者が罵声を上げながら抗魔と戦い、内側には多くの怪我人が並べられている。ブルトーリの冒険者のほとんどが集められ、半数が戦闘不能という事態だろう。
抗魔の軍勢はすでに城壁間近に到達し、あと半刻も持ちそうにはなかった。
「嬢ちゃん! 回復はできるか? 無理なら、俺が怪我人の救護に回る!」
「回復できる! イザリオは外お願い!」
「よし! 頼むぜ!」
「ん!」
フランは、イザリオをかなり気に入っているし、尊敬の念も抱いている。それは見ていれば分かった。
その自由っぷりが、理想に近いからだろう。そんなイザリオに頼られて、フランがやる気にならないわけがなかった。
(師匠、みんなを助ける!)
『おうよ! サークルヒールを連発して、死人が出ないことを第一にまずは動く。それでも危険な奴は、その後にグレーターヒールで治していくぞ』
「ん!」
フランは大通りに着地すると、周囲の状況を確認する。
「ううぅ……」
「あが……」
「いてぇよぉ……」
寝かされた100を超える冒険者たちは、大半が放置されていた。戦える者は城壁の外で抗魔の侵攻を防いでいるし、戦えない人々は魔力吸収のせいで動けない。
一応、町医者らしき人が応急手当をしているし、治癒術師が駆け回っている。しかし、魔力吸収と邪気酔いのせいで普段通りには動けず、魔術も使えないらしい。とてもではないが、全員を救えるとは思えなかった。
フランは傷ついた冒険者たちが寝かされた大通りを歩きながら、連続で範囲回復魔術を使っていく。
範囲を優先しているため、1人の回復率は低い。傷が酷い者は全回復とはいかないが、一命をとりとめることはできるはずだ。
俺とフランで20回ほどサークル・ヒールを使用すると、大半の冒険者は助かったのだろう。驚きの表情で立ち上がり始めた。
急に傷が癒えて、何が起きたのか分かっていないらしい。キョロキョロと周囲を見回している。
だが、まだ起き上がることができない者たちが、僅かにいた。すでにこと切れていた者たちと、重傷だったせいでまだ全回復していない者たちである。
もう起き上がることがない者たちに哀悼の念を捧げつつ、重傷者にグレーターヒールをかけていく。
「ふぅ……。この人で最後」
『よし、外の援護に向かうぞ』
「ん」
踵を返したフランだったが、その背に慌てたような声がかかる。
「ど、どこに行くのかね!」
そこにいるのは、白い髭を貯えた町医者だ。老人は、城壁へと向かおうとしているように見えるフランを、心配そうな表情で見ている。
「ここでの仕事はしたから、外の援護にいく」
「貴重な回復術師が外に行く必要はない! 戦いが終わるまで、こちらにおれ!」
「へいき」
「何を言うんじゃ! 危険なことは冒険者に任せておけ!」
逃げてもいい中で、わざわざ戦場の横で救護活動を行う人物だ。基本は善人なんだろう。その口調は偉そうでも、フランに向ける心配は本物だった。
フランを回復の専門家だと思っているらしい。まあ、この年齢で戦闘までこなすとは思えないのは、仕方ないだろう。それに、この大陸では冒険者じゃなくても武具を身に着けるし、外見だけでは冒険者かどうかも分からないしな。
「だいじょぶ」
「なっ? 待ち――」
老人がさらに引き留めようとしたが、フランは無視して城壁へと向かった。この緊急事態に、説明で時間を使うのを嫌ったのだろう。
老人や、フランが回復してくれたのだと理解した冒険者たちの視線を背に、空中跳躍を使って城壁を飛び越える。
そこからは、眼下の戦場が見渡せた。
「抗魔、たくさん。怪我人も、たくさん」
『取り残されてるんだ』
すでに、怪我人を城壁内へと搬送する余裕がないのだろう。死体と怪我人が一か所に集められ、打ち捨てられるように寝かされている。
「助ける」
『ああ! 周囲の抗魔ごとでもいいから、まずは回復だ』
「ん!」
城壁前に着地したフランは、動けずにいる怪我人を回復させつつ、抗魔数体を薙ぎ払った。周囲の冒険者たちも、そこでフランの姿に気づいたらしい。
彼らの傷を回復させるためにも、フランは回復魔術をさらに使用した。不幸中の幸いか、ほとんどの冒険者が城門前に集まりつつある。抗魔に押されているせいだろう。
そのため、かなりの数の冒険者を癒すことができていた。
俺たちよりも先に救援に向かったイザリオは、城門から少し離れた場所にいる。相変わらずの防御偏重スタイルで、抗魔の意識を引きつけているようだ。
膨大な魔力を撒き散らしながら目立った攻撃をしてこないイザリオは、抗魔にとっては御馳走に見えているのだろう。
城門付近で戦闘中の抗魔を除けば、残りほとんどの個体がイザリオに意識を向けていた。そのおかげで、冒険者たちへの圧力が激減しているようだ。
そこにフランがさらに現れたことで、冒険者たちに少しだけ余裕が戻ってきた。
「た、助かった」
「今のうちに立て直す」
「は、はい!」
冒険者たちはさすがにフランの事を知っていたらしく、大人しくこちらの指示に従って動き出す。
とは言え、あまりイザリオに近づくわけにもいかないので、冒険者たちは城門の守りにつかせ、フランがその前で抗魔を押し止める形をとった。
もしこちらに抗魔の目が向いた場合は、範囲攻撃で一気に攻勢に転じるつもりだったが、イザリオのヘイトコントロールは完璧である。
周囲にあえて魔力を放出し続けることで、最後まで抗魔の意識を自分に引きつけてくれていたのだ。長年この大陸で戦い続けてきたことで、どの程度の魔力を放てば、どのくらいの範囲の抗魔が自分を認識するか、しっかり理解できているのだろう。
「残るは、おっきいの」
『ああ』
フランがするどい目で睨みつける先には、この事態の元凶である、膝を抱えて眠る巨大抗魔の姿があった。
レビューをいただきました。ありがとうございます。
褒められたいところを的確に褒めていただき、作者のテンション上がってます!
タイトルも素敵で、これだけで読みたくなりそうですよね。
作品はまだ続きますので、これからも師匠たちと冒険をしてください。




