949 アルファの力と代償
「今の全部、神剣の名前?」
「始神剣・アルファ、狂神剣・ベルセルク、戦騎剣・チャリオット、金竜剣・エルドラド、大地剣・ガイア、煌炎剣・イグニス、水霊剣・クリスタロス、聖域剣・サンクチュアリ、咆嵐剣・テンペスト、英知剣・ウィズダムですね。あくまでも観測による推察ですが、ある程度の能力をお教えすることが可能です」
「知りたい!」
俺もだよ!
だが、今は長話ができる状況ではない。
『フラン。まずは町に戻ろう。落ち着いて話も聞きたいし』
「ん。町、入れる?」
「問題ありません」
この大陸の町は、入るのに厳重な審査とかもないしね。元犯罪者だらけの大陸だし、身分を気にし出したらキリがないのだ。抗魔の気配さえしなければ、問題なく入れる。
抗魔も全滅したみたいだし、イザリオにも異常なさそうだ。元々だらけたおっさんなせいで、疲れているのかどうかもよく分からない。
強がって見せている可能性もあるが、神剣開放が短時間だったため、アドルよりはマシなのは間違いないだろう。
この大陸で長く戦っているだけあり、消耗を抑える戦い方を熟知しているらしかった。
(イザリオこっちみた)
この距離でも当然のごとくフランを捕捉しているらしい。ヒラヒラと手を振っている。
こっちを巻き込みかけたことなど気にはしていないようだ。まあ、俺たちが悪いんだし、それで死ぬとも思っていないからだろう。
1人で問題ないみたいだし、声を掛けずに戻ることにした。最初から最後までイザリオ単独でって部分が重要だからな。
俺たちは一足先にブルトーリへと戻ると、そのまま宿へと向かう。酒場で話そうかとも思ったが、長くなりそうなのだ。変な邪魔が入らない場所の方がいいだろう。
フランは銀の女に椅子を勧めると、自分はベッドに飛び乗るように腰掛ける。
「神剣のこと、教えて」
「了解しました」
フランは待ちきれないとばかりに、質問をぶつけた。こんなにワクワクした表情を浮かべるのは、戦闘前か食事前以外だとかなり珍しいだろう。
気持ちは分かる。何せ、神級鍛冶師の関係者から、神剣の話を直に聞けるのだ。
「では、まずは始神剣・アルファについての情報からでよろしいでしょうか?」
「ん。お願い」
場合によっては敵に回る可能性があるのが、アルファである。できるだけ様々な情報を知っておきたいのだ。
「始神剣・アルファは現在、聖国シラードによって運用されております。その所有者は神剣騎士と呼ばれ、5~10年ほどで代替わりを繰り返します」
「そんなに短いの?」
5~10年って……。普通の神剣の所持者は、そうそう負けたりしないはずだ。
長い歴史の中で、無敗ということはないかもしれない。しかし、10年毎に神剣騎士が敗れるような事態、有り得ないだろう。
そんな危険な存在がポンポン出現するなら、国というか、世界の危機なのである。
「神剣の使用には、それぞれ大きな代償を伴います。アルファの使用者の入れ替わりが激しいのは、その代償のせいでしょう」
「神剣には、全部代償があるの?」
「はい。全ての神剣には代償と制限が存在します」
銀の女の語る説明は、非常に納得できるものであった。神剣は、短時間で地形を変え、大量殺戮を可能とする超兵器だ。私利私欲で何度も使用されれば、邪神などよりも余程危険な存在となるだろう。
だからこそ、様々な制限が設けられている。第一の制限が、存在本数の上限。最大で26本までと神により定められている。それ以上は、神級鍛冶師であっても生み出すことはできない。
第二の制限が、使用者の選定。誰もが扱えるわけではなく、条件を満たした者しか装備することはできない。神剣自身が使用者を選ぶ場合も多かった。
「アルファの制限は?」
「始神剣・アルファを使用するには、対となる特殊な魔道具によって装備者と認定されなくてはなりません。現在、シラード王家によって管理されているそうです」
シラードの王家が使用者を選べるんなら、そりゃあ国のために働かせるよな。でも、アドルは王族っぽくはない。わざわざ平民を選んでいるのか?
「アルファの使用者となる条件は、選定者と血縁関係にないこと。そして、いくつかのスキルの素養が高いことであるそうです」
「血縁関係にないこと? あることじゃなくて?」
「はい。血が繋がっていてはいけません。しかし、シラードの貴族家は複雑な血縁関係にあり、ほとんどが縁戚に当たるそうです」
だからこそ、洗脳教育した平民を選ぶって形になったのだろう。聖騎士の選民意識の高さを見るに、シラードの貴族がその力を平民に与えるのは不自然だからな。
第三の制限が、使用者の支払う代償。場合によっては死ぬことさえありうる、重い重い代償が必要となるのだ。
「アルファの代償は、経験値の獲得不能と、レベルの低下です」
「……使うとレベルが下がるの?」
「はい。開放中、経験値を取得できず、少しずつレベルが低下するということが判明しております。活動時間は、元のレベルによるのでしょう。北の大陸で邪神の欠片が復活した際に、半日ほど神剣を使い続けた騎士もいたそうです。推測ですが、10分で1レベルほど下がると思われます」
1時間で6レベル。12時間で72レベル。それで半日という計算だ。元々のレベルが高いと活動できる時間も長いってことか。
しかも、そのレベル低下の代償が罠だった。使用後にレベルが下がり過ぎた状態で、神剣を使った反動が一気に襲ってくる。
反動は代償とは別物で、つまり人を超えた力を無理矢理行使したことによる、肉体へのダメージと消耗だ。
神剣を使ったことによる反動は、それこそ一般人には耐えられぬほどに激しいものになる。結果、代償としてレベルが下がり過ぎてしまった神剣騎士は、反動に耐えきれずに命を落とすという訳だった。
アドルの消耗具合を見れば、彼がもう少し弱ければ危険だったということは理解できる。安全マージンを考えれば、25~30レベルくらいはないと反動で死んでしまいそうだ。
「アルファの性能で判明していることは、身体能力の大幅な上昇。しかし、レベルが下がり続けることで、その効力も低下していきます」
「なるほど」
使い続けるほど、ステータスが下がり続けるってわけだ。
「さらに、スキルの最大化。ただし、この力によって進化は起きません。ただ、開放時に使用者に付与されるスキルがあり、剣王術、剣王技、身体操作、神力統制、瞬間再生、状態異常完全無効、空歩が確実と思われます」
「剣王術!」
だから、あれだけ剣の腕が立ったのか。剣術が最高レベルになったとしても、あれほどの腕前になるのは違和感があったのだ。
身体能力が10倍になり、剣王術が付与され、他のスキルも最大化。普通に強い。だが、代償が重すぎるだろう。
『レベル低下か……』
戦い、敵を倒し続けるほどに弱くなってしまう神剣。自分たちに置き換えてみれば、非常に恐ろしかった。
フランも自分が使った時のことを考えたらしい。微かに眉をひそめる。
(やっぱ、師匠が最高。アルファとかいらない)
『そう言ってもらえると、頑張ってるかいがあるよ』
(ん。師匠がいればいい)
『はっはっは。照れちゃうなぁ』




