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947 煌炎剣・イグニス

 イザリオはただ防御し続けるだけなのに、抗魔が倒れ続けていく。


 俺はその姿を観察しながら、ありとあらゆる感覚を駆使してその絡繰りを見極めようとしていた。


 そして、気づく。


 抗魔たちの内部が、異常なほどの高温になっていた。


 どうやら、少しずつ内部温度が上昇し、中から焼かれていっているらしい。人間であれば転げ回るほどの激痛に襲われるのだろうが、痛覚のない抗魔であれば死ぬまで戦い続けられる。


 対抗魔の戦法としては、効率がいいとは言えないと思うんだが……。いや、痛みがないせいで、抗魔が自分たちの内部の異常に気づかないようだ。逃がす心配がないというのは、イザリオにとってはいいことなのだろう。


 それからさらに3分。


 イザリオは抗魔の群れに完全包囲されていた。万余の敵に四方を囲まれ、延々と攻撃をされ続けている。これ、このまま防御を続けて、ゆっくりと焼き殺していくつもりなのか?


 高熱によって500くらいは倒しただろうが、まだ先は長い。イザリオ級になればこのままでもいずれ勝利できるのだろうが、あまりにも悠長過ぎる。


 疑問に思いながらイザリオの戦いを見ていると、不意に背後から何かが近づいてくるのを感じた。


 生物的な気配はなく、質量を持った何かが風を切り裂いて向かってくるのを微かに感知したのだ。


 戦場ということで気を張っていなければ、気づくのがもっと遅れただろう。何者かの遠距離攻撃かと思い、俺たちは慌てて振り向く。


 すると、そこには予想外のモノがあった。


 攻撃などではなく、人だったのだ。いや、人の姿をしている相手だった。


 白い肌と銀の髪。美女というよりも、整い過ぎたと言った方がしっくりくる容貌。気配も感情も感じない。


 接近してきていたのは、神級鍛冶師ゼックスによって生み出されたゴーレム、銀の女だった。


 慣性を感じさせない挙動で俺たちの前でピタリと止まると、表情を変えぬまま平坦な声でしゃべり出す。


「お久しぶりです」

「……ん。何か用?」

「はい。お伝えすることがあり、探していました。ですが、今はさらに優先されることがあります」

「?」

「この場所を、早急に離れる方がよいでしょう。イグニスの攻撃に巻き込まれます」

「!」


 銀の女が警告を発した直後だった。遠目にも目立つ赤い剣が、強烈な光を放った。どうやら、神剣を開放したらしい。


 荒野を赤い閃光が照らし、物理的な圧力を持った魔力の奔流が抗魔たちを吹き飛ばす。


 荒れ狂う赤い光が収まった時、イザリオの手には炎の塊が握られていた。


「あれが、イグニスの本当の姿?」

『そうなんだろうな……』


 神剣というか、炎だ。長剣くらいの長さの、炎の塊がイザリオの手の内にはあった。神々しい炎ではあるが、他の神剣の開放状態とは大分様子が違っているな。


 ただ、その力の強さは、正に神剣の名に相応しいものだった。


 この距離でも、すでに熱い。しかも、周辺の温度が凄まじい勢いで上昇していくのが分かった。


『フラン! 銀の女の言う通りだ。ここはマズい!』

「ん。離れる」

「そうした方がよろしいかと思います」


 先に動き始めた銀の女の後に続いて、イザリオから距離を取る。200メートル近く離れても、銀の女はまだ止まらない。


 それからさらに200メートル。そこで、ようやく銀の女は飛ぶのを止めた。


「こんなに離れないといけない?」

「はい。ここでも、影響が完全になくなるわけではありません。ですが、過去のデータを元に考えれば、この距離で問題ないでしょう」

「何度もイザリオの神剣を見たことがあるの?」

「この大陸内で行われている大規模戦闘は、でき得る限り観測していました」


 オーバーグロウスの装備者への支援の一環として、抗魔や他の強者の情報を常に集めていたという。


 そして、イザリオはこの大陸で長年戦い続ける最強の人間だ。当然、その集めた戦闘データも膨大だし、煌炎剣・イグニスの力を何度も目にしたことがあった。


 そのため、ある程度の予測が可能であるらしい。


「自身を囮として抗魔を集め、イグニスの力で一気に倒す。紅蓮刃のイザリオが殲滅戦を行う際、高確率でこのパターンを使用します」


 銀の女の説明を聞きながら、戦場を見下ろす。そこでは、深紅の光がうねるように広がり、戦場を覆い尽くす姿が見えた。


 一見すると美しい。だが、その内部は地獄である。


 イグニスの放った神炎が、抗魔たちを飲み込み、次々と消滅させていく。灰になる暇もなく、触れた直後には抗魔が粒子となって姿を消していくのだ。


 極大魔術を遥かに超えた威力だった。半径100メートル近い赤い円が大地と抗魔を溶かし、放たれる熱はさらに広範囲を燃やしている。


 フランの周辺の温度が上昇し、額にうっすらと汗をかき始めていた。


 確かに、さっきまでは近すぎたな。障壁がなければ、焼けていた。死ぬことはなかっただろうが……。


 これが、神剣なのだ。煌々と燃え上がる大地を見つめ、俺たちは改めて神剣の凄まじさを思い知っていた。


 赤熱してドロドロと溶けていく大地を見下ろしながら、フランが口を開く。


「そういえば伝えたいことがあるって、言ってた?」

「はい。ご忠告を」

「忠告?」

「シラードにはお気を付けください。彼の国にとって有益だと知られれば、確実に厄介なこととなるでしょう」


少々忙しく、次回の更新は25日とさせてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 使い手をあんな感じに育成する事を強制する辺り、 徴収ないしフランごと連れ去って洗脳するとか普通にやりそうだからなー
[一言] あ~最終話に追いついてしまった~ 題名から正直最初はあまり期待してなかったのだが読み始めたらドはまり。 ゆっくり読んでいるつもりだったが気が付けば毎日数時間読みふけり追いついてしまった。 な…
[一言] やっぱ神剣だけあって恐ろしいなイグニス…あの炎はマンキンのS.O.Fよろしく酸素を媒介にして生み出してんのかな?基本火炎・灼熱系の能力って単純明快ゆえに強力なのが多いよね。そして案の定真っ黒…
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