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945 ハガネの老兵たち

 アドルによって抗魔が殲滅され、防衛終了かと思っていたのだが、まだ戦いは終わっていなかった。


 反対側の門から、再び抗魔が集結し始めているという情報がもたらされたのだ。


 まだ動きだしてはいないが、あと数時間もせずに行動を開始すると思われた。


 よく抗魔の行動を詳しく予測できるなと思うが、長年この大陸で斥候をやっていると、抗魔の動きがなんとなく読めるようになるそうだ。


 先ほどよりも数は少ないようだが、万を下回ることはないだろう。


 イザリオの出番がきたかと思ったら、ハガネ将国が対応するという。まさか、神剣を使うのか?


 フランと共に状況を確認しにいくと、ハガネ将国の槍兵たちが陣形を組んで出発するところであった。兵士たちの後方には馬車の姿も見える。


「ここで迎撃しない?」

『自分たちだけでやるつもりなんだろうな』


 敵に対して数が少ない場合、町からの援護を当てにして、城壁の近くに布陣するのが正道だ。


 だが、ハガネ将国の兵士たちは駆け足で城壁から離れていく。これ以上距離ができては、こちらの援護は届かないだろう。


 シラードと同じだった。どうやら援護などいらないらしい。やはり神剣を使うつもりだからか? だとすると、町から離れようとするのも分かる。


 なにせ、ベルセルクは暴走するのだ。城門近くで神剣開放などしたら、守りにきたブルトーリを破壊することになるだろう。


 実際、大昔にはそんな事件が起きたことがあるという話も聞いた。


 だが、あの老兵たちは? ベルセルクが使用されれば、敵味方など関係なくなるだろう。その時に、兵士たちまで巻き込まれるのでは?


 俺たちが疑問に思っている間にも、ハガネ将国の部隊はどんどんと離れていく。


「師匠、追っかける」

『そうだな。ウルシ、ここを頼む。動きがあったら知らせてくれ』

「オン!」


 ウルシの足と転移があれば、多少離れていても一瞬である。他の方角から抗魔が現れたとなっても、すぐに俺たちを呼びにこれるだろう。


「じゃあ、いく」

『おう!』


 町の見張りをウルシに任せ、俺たちは上空からハガネ将国の戦いを見守る。


 あと200メートルほどで、抗魔と接敵するだろう。その場所で一旦立ち止まると、兵士たちがそのまま戦闘準備を始めた。


 馬車から降りてきたのは、シキミとアジサイ、マツユキにもう1人を加えた4人の女性たちであった。


 初見の女性はシキミにそっくりだ。こちらも姉妹かもしれない。アジサイとマツユキに対するシキミたちの態度を見るに、アジサイたちの方が立場が上であるようだ。


 シキミが指揮官とすれば、やはりアジサイとマツユキが神剣の装備者なんだろう。


 彼女たちの乗る馬車は特殊な構造をしているようで、後部に折りたたまれていた階段を使って、アジサイたちが馬車の屋根に上っていく。


 そこに椅子を設置すれば、まるで簡易的な観戦席のようだった。


 並んで腰かけるアジサイとマツユキ。もう1人の女性がその後ろに控えた。護衛っぽいな。


 シキミは兵士たちに近づいていくと、そのまま声を上げ始めた。彼女がこのまま兵士を率いて、抗魔と戦うらしい。


『神剣は使わないっぽいな』

(ん)


 この程度の敵に神剣を使っていられないというのもあるだろうし、使用者の命のことを考えれば使いどころがかなり限定されるんだろう。


 それから三分後。


 ついにハガネ将国と抗魔の間で戦端が開かれた。


 黒い装束を身に纏ったハガネ将国の老人兵士1000人が、綺麗な円を描く陣形で抗魔の波を迎え撃つ。


 ドワーフたちの時には全くハラハラしなかったが、ハガネの兵士たちは見ていて心配になる。ある程度強いことは分かるが、全員が軽装の老人兵士だからな。


 しかし、彼らは俺たちの予想以上に強かった。連携の練度が凄まじかったのだ。その動きは淀みなく、まるでAIによって制御されたドローンのような精密性を感じさせた。


 それでいながら、彼らは闘志に溢れている。


「我らの力を見せてやれ!」

「死んでも敵を倒すのじゃ!」

「ぬおおぉおぉ!」


 皆が雄たけびを上げながら、必死に戦っていた。さらに彼らの特異な点として、死を恐れる様子が全くないということが挙げられるだろう。


 絶対に死ぬものかという気迫を感じるのに、自分が死ぬことを恐れる様子はない。まるで、自分の命を駒のひとつとしてしか見ていないような、そんな雰囲気があった。


 自分がそうなのだから、仲間のことも当然駒と考えている。それでいながら、隣にいた仲間が倒れれば、悔し気に呻くこともあるのだ。


 だが、それで足が鈍ることもなければ、逸って動きが雑になることもない。彼らは、自分たちの命が失われることを悔しがってはいても、死ぬことに対する恐怖は感じていなかった。


 不思議な部隊だ。どうすれば、こんなメンタルの人間を揃えられるのだろうか?


 相応の人間味が残ったまま、行動はまるで傀儡のように整然と揃っている。しかし、操られているような様子も、やけになっている様子もない。明らかに、彼らは彼ら自身の意思で戦い、自らの命を駒として差し出していた。


 2万ほどの抗魔と戦う中で、命を落とす者も出る。しかし、老兵たちは止まらずに戦い続け、ついには指揮官個体を討ち取っていた。


 正直、予想外だ。


 それほど戦闘力が高い個体でなかったとはいえ、個人ではランクDやCの下位程度の力しかない彼らが、指揮官を倒せるとは思っていなかったのである。


 指揮官だけはシキミが相手をするのかと思ったら、最後まで老兵たちが戦った。最後の攻撃は、俺たちも驚いてしまったのである。


 なんと、老兵たちが使ったのは自爆攻撃だった。数人の命を生贄に発動させる、超極小範囲攻撃魔術。それを使い、指揮官の核を正確に破壊してみせていた。


 本来であれば部隊が半壊するような相手に、数人の犠牲で勝利できるのだ。アリかナシかでいえば、アリなんだろうが……。


「……すごい」

『ああ。でも、フランは真似するなよ? あれは、真似できないし、俺はしてほしくない』

「ん」


 最後まで彼らは、自分たちの命を勝利のための駒として扱っていた。アジサイたちが、表情を変えずに淡々と見つめるその前で。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] このやり口は某流星街の連中を彷彿とさせますね
[一言] 島津かな?
[良い点] 神剣使いの命を駒として扱うなら自分たちもということかな。
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