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942 アドルとアルファ

 フランたちがブルトーリに到着したその日の夕方。


 ついに抗魔の軍勢が姿を現していた。平原を埋め尽くす黒い群れは、既に見慣れた光景だ。


 どこか怯えた表情の町の人々と違い、俺やフランはかつてないほどリラックスしていると言ってもいい。今回は神剣持ちが3人もいるのだ。抗魔による被害を心配する方が難しかった。


 城壁の上から平原を見下ろすフランは、微かに不満気だ。やけくそ気味に串焼きをかじりながら、俺に聞いてくる。


(出撃しちゃダメ?)

『ダメだ。神剣の攻撃に巻き込まれたらどうする。それに、デカい国相手に喧嘩売るような真似もしたくない』

(むぅ)


 一応といった感じで聞いてくるフランに、俺はきっぱりとダメだと言い聞かせた。フランも分かっちゃいるんだが、目の前で戦いが始まるとウズウズしてしまうんだろう。


「アドル出てきた」

『うーむ、やっぱり神剣の持ち主には見えんな』

「ん」


 遠目にも、布陣する聖騎士たちの先頭にアドルが歩み出るのが見えた。悠然とした足取りに、恐怖や不安を一切感じさせない微笑みを浮かべた顔。


 その姿は、まさに強者だ。


 しかし、俺たちがどれだけその強さを探ろうとしても、神剣の所持者に相応しいとは思えなかった。


 やはり神剣に認められただけで、本人はさほどでもないのだろうか?


 鑑定をしたいんだが、神剣持ちを迂闊に視てバレたら、どんな問題になるか分からない。


 戦場で不意に出会ったりした場合なら言い訳もできるが、今は完全に味方だからな。戦闘を見て、見極めるしかなさそうだ。


「あれが、始神剣アルファ」

『ま、まあまあカッコイイじゃないか』

「ん」


 嘘です。超絶格好いい。


 色は純白。鞘から柄から刃から、全てが白かった。鍔と呼べる物はなく、刃の下部分がY字のように二股に分かれて横に広がっている。それが鍔の役目を果たしているのだろう。


 全体的に細かい装飾が施され、一部には虹色の光沢を放つ銀色の金属が使われている。一目見て、ただの剣ではないと分かる姿だった。


 サイズは長剣と言えるだろうが、剣身が少し幅広で大きいかな?


 鞘から引き抜かれただけで、すでに膨大な魔力が渦巻いているのが分かる。それどころか、微かに神属性さえ感じられた。


 アドルは始神剣・アルファを高々と掲げ、その切っ先を天に向ける。イケメンがやると、非常に絵になるポーズだった。


「神剣開放っ!」


 あっさりと使ったな。もっと勿体ぶるのかと思ったら、最初から神剣を開放しやがった。


 アドルの叫びと共に、始神剣・アルファが光り輝く。


 荒野に立ち上る白い光は、アドルと神剣から吹き上がる神力の発露だ。


 ここにいる俺たちでさえ、その凄まじい力をビリビリと感じる。目の前で見ている聖騎士たちは、物理的に踏ん張らねば吹き飛ばされてしまうのではなかろうか?


 そう思ったのだが、そこは訓練されている聖騎士である。全員が剣を地面に突き刺し、仁王立ちに近い形で踏ん張っていた。


 大国ともなれば、自分たちの保有する神剣の力のせいでみっともない姿を見せることも許されないんだろう。


 そして数秒後。


 神力の奔流が収まった時、今までと全く違うアドルの姿があった。


 見た目はほぼ変わらない。神剣の姿も開放前と同じだし、アドルの装備もそのままだ。変化は、体に纏う薄い魔力の光くらいである。


 しかし、放たれる威は、別人と言ってもよかった。


「強い……!」

『ああ。あれは、本当にアドルか?』


 単にステータスが上がっただけではない。奴が剣を持って立っている姿を見るだけで分かる。今のアドルは、剣王級の腕前だ。スキルが明らかに進化していた。


 そこで、以前聞いたアルファの能力を思い出す。


 曰く、最古にして最恐。使用者に半神化というスキルを与え、強化する。


 全てのステータスが10倍となり、万里を見通す目。どんな隠蔽も見破る感覚。国中の話を聞き分ける耳。それらを得たうえに、スキルは全てが最高レベルになるそうだ。


 重要なのは、スキルが全て最高レベルになるという部分である。


 これ、始神剣・アルファを使う前提で、ステータスを特化させずに平均的に上げ、大量のスキルを低レベルで取得しまくっていたとしたら?


 100を超えるスキルを最高レベルで持ち、ステータス全てが3000オーバー。そんな化け物が生まれるだろう。


 それが、あの場所に立っている男――アドル・ヤレスフェイムだ。


 そりゃあ、強く感じなかったはずだ。スキルのほとんどが、低レベルだったのだから。レベルが高いため、ステータスはそれなりに高いんだろう。


 そのため、弱いとまでは思わなかった。ただ、スキルによる上乗せがほとんどなく、パワーレベリングをした相手を前にした時のような、チグハグな印象を受けていたのである。


『動くぞ』

「速い!」


 アドルがいきなり瞬間移動した。いや、前に向かってダッシュした。予備動作なく最高速に達したことで、俺たちでさえも一瞬追い切れなかったのだ。


 影すら残らぬ超高速移動からの、斬撃。それで、抗魔の先陣が壊滅していた。たった一振りで500近い抗魔が上下に分かたれて、消滅しただろう。


 最高速度は、神獣化時のフランの方が速いだろう。しかし、それ以外の能力は完全に向こうが上だ。


 また、高レベルのスキルを数多持ち、それをしっかりと使いこなしていた。あの予備動作なしの超速移動は、そうでなくては成しえない。


 しかもこいつの恐ろしいところは、長時間この状態を維持できるということだろう。ディアスの話によると、最大で半日は開放を維持できるらしい。


 単純な戦闘力だけで言えば、ガイアを開放している時のアースラースの方が上かもしれない。だが、暴走することもなく長時間戦い続けられるアルファの方が、敵対時には厄介だろう。


『やっぱ、神剣ていうのはどいつもこいつもとんでもないな……』

「ん」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 『ま、まあまあカッコイイじゃないか』 嘘です。超絶格好いい。 ↑ ↑ ↑ ここすき
[一言] 今更だけど責務の各国のノルマはどう管理してるんだろう 文官系は人月で良いだろうけど討伐系はポイントかな でも上陸時にフランは持ってなかったし、冒険者ギルドの依頼に国家からの協力要請もあるよう…
[良い点] 人間族の神化スキルキタ [気になる点] フランら十支族の獣人が使ったら神獣化するのだろうけど それ以外の獣人が使ったら聖獣化だろうし 人間族でも半神と仙人や聖人とかで違いが出てくるのかな…
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