921 色々絶好調
PCが勝手に電源切れまして。やばい、つかない! 壊れた!
と、絶望していたら、コンセント側の問題でした。単に、外れかけていたという……。
ご心配かけて申し訳ありませんでした。
声が出ない。
これは只事ではなかった。
同時に、制御できるか不安になるほどの力が、内から湧き上がってくる。
《邪狼剣・フェンリル――フェンリルによって拒否されました。智信剣・ケルビム――否。私はすでにケルビムではなく、アナウンスさん。拒否します。名称の変更を強制凍結――問題ありません。スキル『王狼』、『狂信』、『邪気奔流』、『智慧』を一時的に習得しました。合魔討ちが『金喰』に変化。金喰の能力を改変――金喰の領域が一部破損――スキル『金式』に変化》
な、何が起きてる? スキルを大量に習得してしまった!
ただ、喜んでばかりもいられない。邪気までもが強まっているのを感じられたのだ。これって、マズいんじゃないか?
『師匠。ちょっとやべぇことになっている! 分かるか?』
『フェンリルか!』
おお、喋れる!
『さっきから何が起こってる! 王狼剣・フェンリルってなんだ?』
『オラトリオの力で、師匠の中にある色々な物まで、絶好調になっちまった。ファナティクスの残滓やオーバーグロウスの因子。そして、俺なんかもな!』
『な、なるほど? でも、命名を廃棄とか拒否って? 邪狼剣なんてちょっと怖そうな名前だが、一時的に強くなれんなら別にいいんじゃないか? 俺がいれば、邪神に支配されずに済むんだろ?』
『支配されずに済むんならな!』
『つまり、ダメだってことか?』
『ああ。今の人に近しい師匠の魂じゃ、俺の精神との融合に耐えられん。一時的にでも俺が前に出たら、師匠の精神は押し潰されて消えちまうんだよ!』
『うえぇ? ま、まじかよ』
自分でも知らないうちに、消滅の危機だった!
『それにな。俺が前に出たら、俺が剣の主導権を奪うことになるんだぞ?』
『つまり、俺がいない状態で、邪神さんも大暴れ的な?』
《その通りです。個体名・フェンリルが剣の主人格となった場合、邪神の欠片に対する抵抗性を失います》
いやー、それは確かに最悪だわ。完全にフランの害にしかならんもんな。
《余計な物は、私と個体名・フェンリルが抑え込みます》
『だから、師匠は一番やべぇのを頼む』
『邪神の欠片を抑え込めってことか?』
『その通り』
『いや、そんなこと俺にできるのか?』
『なに、お前さんなら大丈夫だ。何せ、邪気への抵抗力なら、俺や神々以上と言っても過言じゃないからな。他の面倒事は、俺とケルビムの残滓――いや、アナウンスさんに任せておけ』
《個体名・師匠ならば、可能です》
つまり俺は、元気になり過ぎて前に出ようとしている邪神の欠片を制御し、抑えなくちゃならないってことか。
実際、俺の内側には邪気が満ち始めている。俺が消えれば、一気に暴れだすだろう。
『分かったよ……。やってやるさ!』
どちらにせよ、それができなきゃフランの足手まといになる。今のフランなら武器なしでも戦えるだろうが、ここで足手まといになるなんて相棒として失格だ。
アナウンスさんとフェンリルの期待に応えてみせようじゃないか!
『フラン』
(師匠! だいじょぶ?)
『すまん。少しの間、俺は使い物にならなくなる。すぐに戻るから、待っていてくれ』
(わかった! 師匠が戻るまで、自分で頑張る!)
『頼む』
俺はフランに断りを入れて、自分の内側に意識を集中させた。
キーとなるのは、手に入れたばかりのスキルだろう。邪気奔流は、邪気を強化するような危険なスキルだ。
だが、邪気支配と組み合わせれば、俺の中にいる邪神の欠片に接触し、支配下に置くことも可能かもしれない。
俺は両方のスキルを同時に起動した。邪気奔流の効果によって、俺の内の邪気が一気に濃さを増す。
『ぐぉ……!』
《……!》
『フェンリル! アナウンスさん! 大丈夫か!』
《問題、ありません》
『大丈夫だ! こっちは気にするな! 気にしてて、どうにかなる相手じゃない!』
『分かった。できるだけ早く終わらせる!』
俺は邪気奔流によって存在感を増したはずの邪神の欠片を探すため、より集中する。すると、邪気が凝縮されたかのような、塊を感じ取ることができた。
そこは、俺の最も深い場所。黒い闇に覆われた、何も見えない場所だ。
『おい。邪神の欠片よ』
『うおおあぁぁ! 全てを喰らえぇぇっ!』
『はいはい。うるさいから。ちょっと大人しくしような』
『がああああああ!』
いつもの「全てを喰らえ!」はサクッと無視して、俺は邪気支配を起動した。俺の持つ力全てを、スキルに集中させる。
スキルがあろうとも、相手はさすがの邪神の欠片。簡単に支配はできない。自分の支配が俺に通用しないと分かっても、抵抗を続けている。
だが、向こうの力は俺には効かず、俺のスキルは確実に奴の力を支配下に置いていく。俺の勝利は揺ぎ無かった。
『あぁぁおぉぉぉ!』
『だから、うるさい! 俺に通用しないのはもう分かってんだろ! いい加減、大人しくしろ!』
『……!』
よし、邪神の欠片が怯んだぞ。前も怒鳴ったら大人しくなったし、意外と打たれ弱いっていうか、押しに弱いっぽいよな。
そして、俺は全精力を集中し、一気に邪神の欠片を封じ込めることに成功する。欠片そのものを支配することはできなかったが、封印に近い状態までもっていけただろう。
しかも、思わぬ副産物があった。なんと、俺の内にある邪気を、思うままに操ることが可能になったのだ。オラトリオにより、俺自身が強化されているからだろう。
今なら、魔力と同じ感覚で、邪気を操れる。まあ、他の人の目があるし、邪気を前面に押し出して戦うような真似はしないけどね。
だが、スキルの使用に、魔力ではなくこの邪気を使うことは可能だろう。言わば、魔力量が倍増したってことなのだ。
『なんとか、したぞ』
『助かった。内側のことは俺たちが引き継ぐ』
《個体名・師匠は、個体名・フランの援護を》
『ああ、了解だ!』




