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919 フランの中に眠っていた力


 大勢の人間と一緒に現れたソフィとウルシ。


 彼女の――いや、彼女たちの歌によって、戦況は大きく覆っていた。数千の人々によって歌い上げられる、冒険者の歌。


 空間? 空気? ともかく、戦場全体が歌に反応するかのようにうっすらと黄金の光を放ち、フランやメアの傷をゆっくりと癒していく。


 神属性の影響すら無視し、俺もフランもメアも回復し始めていた。神属性を持ったこの魔力の力によるものだろう。


 神属性の反動を、神属性で癒しているのだと思われた。


 対する抗魔は、戸惑った様子で動きを止めている。強力な魔力に全身を包まれたことで、どう行動すればいいか分からないようだ。


 AIが想定外の事態にバグって、動きを止めてしまう状態と同じだろう。それが、戦場全てで起こっている。恐ろしい効果範囲だった。


「ソフィ! ウルシ!」

「遅れてごめんなさい! でも、心強い援軍を連れてきたから!」

「オンオン!」


 そう言って笑うソフィたちの後ろには、たくさんの人々が立っている。着ている物は、普通の服だ。その上から鎧を着ている者も僅かにいるが、多くの者は鍋を被ったりしている程度だった。


 武器も様々で、錆びた槍や剣だけじゃなく、フライパンや角材を握っている人もいる。しかも、全く様になっていない。


 どう考えても一般市民たちであった。


 だが、勇ましい表情で、ソフィの後ろに並んでいる。その姿を見ているだけで、不思議と頼もしさを覚えた。


 自分たちと一緒に戦場に立とうとしてくれている人が、こんなにたくさんいる。その事実が重要だった。


『よくやったな。ウルシ! あとでご褒美だ!』

「オンオン!」


 ただ、目を惹くのは彼らだけではない。フランはソフィの周囲を見て、首を傾げた。


「ソフィ、それなに?」

「私の……相棒、かしらね?」


 そう言って微笑むソフィの周囲には、無数の楽器が浮いていた。鍵盤楽器に弦楽器に打楽器。よくわからない見た目の物もある。全部で30近いだろう。


 楽器を操る能力? ただ、どの楽器もすさまじい魔力を放っていた。全部併せたら、俺を遥かに超えるだろう。


 尋常な魔道具ではない。過去に見た中で最も近い魔力を放っていたのは、大地剣ガイアだろうか? ただ、こちらには見る者を威圧するような雰囲気はない。


 いや、待てよ? この楽器、微かに神属性を放っていないか? 俺がそのことに気づいた直後、ソフィが楽器の正体を口にする。


「オラトリオっていうの。神剣……聖譚剣オラトリオよ」

『はぁ?! し、神剣?』


 咄嗟に鑑定してしまったら、間違いなくオラトリオと表示されていた。


名称:聖譚剣・オラトリオ

攻撃力:1000 保有魔力:30000 耐久値:30000

魔力伝導率・SS

スキル

演奏効果超上昇、楽器召喚、合唱効果超強化、効果範囲超拡大、鋼糸強化、鋼糸操作、神指、絶口調、同時演奏、不明


 全てを見ることはできない。だが、その能力が破格な物であるということは分かった。以前見た大地剣ガイアに比べて攻撃力は低いが、楽器ならそれは当然だろう。


 むしろ1000もあって、どうやって攻撃するんだ? 鈍器扱い? あと、魔力伝導率も一段低いだろう。


 その神剣としては低い攻撃力、魔力伝導率の代わりに、保有魔力がガイアよりも10000も高い。


 スキルの多彩さも併せれば、ガイアと同じ神剣であるということは間違いなかった。これは、確かに神剣だ。


「神剣、持ってた?」

「ええ。ついさっきまで、忘れていたのだけれど、思い出したの」


 以前ソフィのステータスをチェックした時に、■■■■という部分があった。あそこに、神剣開放のスキルが入っていたらしい。


 見えなかったのは隠蔽していたのではなく、ソフィ自身が記憶を失っていたということだったようだ。


「聞きたいことはたくさんあると思うけど、今は抗魔との戦いに!」

「ん。わかった」

「ふははは! まさか神剣持ちだったとはな! 頼もしい限りだ!」

「聖女様で神剣持ちですか……。凄いですね」


 メアやベルメリアにも、口を開く余裕が戻ってきたな。そんな少女たちに、ソフィが真剣な顔で語り掛けた。


「今は抗魔の動きが止まっているけど、すぐに慣れて動き出すわ。そこで、奥の手を使いたいのだけど……」

「奥の手? オラトリオじゃない?」

「オラトリオの力で、私の魔曲の力を増幅したもの、かしらね?」


 ソフィは既存の曲だけではなく、自身で楽譜を書き、新たな魔曲を生み出す能力を持っているらしい。また、すでに存在する普通の曲の楽譜に手を加え、魔曲に変えることもできるそうだ。


 その場合、曲に込められた想いが影響し、ソフィですら想像できない効果が発揮されることもあるという。


「冒険者の歌を、魔曲化したの」

「さっきまでも、あの歌で回復してたよ?」

「同じ楽曲で、違う楽譜が存在していてもいいでしょう? それに、先程までは回復を目的にした曲だったけど、あの曲の本来の力はそこじゃない」


 ソフィは、同じ楽曲だが違う効果を持った魔曲を、新たに書き起こすつもりだった。


「冒険者の歌に込められた想いは、応援と鼓舞」


 新たに作る魔曲は、仲間の血や魂に眠る力を呼び起こし、目覚めさせる力を持つという。


 どうやら、潜在能力解放を他者に与えるような曲になるようだ。


「でも、この歌に連綿と込められた人々の思いの強さは、私の想像を超える。どれくらいの力が発揮されるか、わからないわ」


 フランたちが大きく強化されることは間違いない。だが、それによってどれほどの負担がかかるか、想像もできなかった。


「数日寝込むくらいじゃ済まないかもしれない。それでもいい?」


 正直不安ではあるが、今ここで抗魔に対抗するには、その曲に頼るしかないのは皆が分かっている。


「ん。わかった」

「ドンとこいだ!」

「わかりました」

「お嬢様がよいのであれば……」

「オン!」

「クオォ!」


 全員が即座に頷いていた。


「……では、行きます。この都市をお願い――いえ、違うわね。みんなで守りましょう!」

「ん!」


 ソフィがオラトリオの中からハープを取り出し、奏で始める。曲は、先程までの冒険者の歌だ。曲そのものよりも、そこに込めた魔力などが重要なんだろう。


「俺たちゃ冒険者~♪ 黄金の冒険者~♪」

「どんな敵にも怯みはしない!」


 ソフィの奏でる曲に反応し、民衆が再び歌いだす。彼らも慣れてきたのだろう。すぐに全員が声を出していた。


 降り注ぐ歌声が、俺たちの中にしみ込んでくるようだ。


『なんか、この曲が大好きになってきたぞ』

(私も)


 気分が高揚してくる。だが、それだけじゃない。


「力が、わいてくる!」


 これが、オラトリオの持つスキルの力か!


 フランから放たれる存在感が、一気に増したのが分かる。これほどの圧……。俺は、アースラースやウィーナレーンを思い出していた。


 しかも、段々と神属性の力の方が増してきたんじゃないか?


「うぅっ……!」

『フラン! 大丈夫か!』


 フランが苦し気に呻いた。その内で、魔力が暴れ狂っているのが分かる。曲の入りで、これかよ! ソフィのおかげで体力や魔力は回復したが、やはり負担が大きいのか?


「これが、力なの……?」

『フラン?』

「師匠、私、わかる……! 言葉が浮かんでくる!」


 熱に浮かされるように、フランが呟く。


「我が血に眠る、神なる獣の荒ぶる力よ……」


 聞いたことがない言葉が、フランの口から紡がれる。


「目覚めろっ! 神獣化ぁぁぁぁ!」 


 フランが発した力強い言葉と共に、その体から膨大な神属性の魔力が吹き上がっていた。


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― 新着の感想 ―
最終回みたいですき
向こうのフランと同じ境地にたどり着いた!!!
[一言] 「660 Side フラン? 3」その時、向こう側のフランも神獣化を使い、こっち側のフランがついにやった!
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