911 獣人参戦
援護に現れたベルメリアだったが、戦力を率いてこちらに向かっていたのは彼女だけではなかった。
『今度こそ、援軍か? かなりの数がこっちに向かってきてるな』
「ん。いっぱい」
その数は100を遥かに超える。300や400人くらいはいるんじゃないか? 固まって移動しており、明らかに統率された集団であった。
だが、すぐにその正体は判明する。
先頭を走っている者の気配に、覚えがあったのだ。
「メア! きた!」
『ああ! 百人力だな!』
メアが獣人会のアウトローたちを引き連れて、援護に来てくれたのだ。壁の割れ目から外に出て、布陣する獣人たち。
白い髪に黒い鎧を着こんだ少女が、一番前で笑っている。
「ふはははは! 我、参上!」
「お、お嬢様。目立ってしまっていいんですか?」
「構わぬ! そのような些事よりも、今は防衛に専念せよ!」
「はっ!」
メアの側に控えているのは、やはりゼフメートだ。この町での側仕えは、ゼフメートが請け負っているのだろう。
まあ、ゼフメートだって十分に強くなっている。心強い戦力だ。
「聖女殿と面と向かって話すのは初めてだな? 遅参した! すまん! 頑迷な長老衆を黙らせ、何故か襲ってきた竜人どもを排除していたらこんな時間になってしまったのだ!」
やはり竜人王の妨害があったらしい。
「あー、あれだ! その、あれなのだ!」
「?」
「お嬢様。それじゃ分からないですよ」
「う、うむ。分かっておるが……」
なんか、既視感だ。フランと出会ったばかりの頃のメアを思い出す。多分だけど、友の友は友的なことを言いたいんだろうけど、恥ずかしくてハッキリ言えないんだろう。
ここにいるのがクイナだったら、毒舌でメアの緊張をほぐしつつ、背中を押すんだけどな。ゼフメートよ、それじゃまだまだだぞ!
「我はメア。フランの友だ! お主も、そうなのだろう?」
「友達……と思ってくれていたら嬉しいのだけど」
「なに、共に戦えば友よ! フランもそう思っておるさ。そして、フランの友であれば、我の友でもある! 一緒にこの町を守ろうぞ!」
よく言えたな、メア! なんか、俺まで嬉しくなってくるぞ!
「くす。そうね。一緒に、戦ってくれるなら嬉しいわ」
どんな場所でも調子を崩さず、周囲を明るくするのはメアの取り柄だろう。聖騎士、竜人と立て続けにクズの相手をして落ち込んでいるようだったソフィの顔に、僅かに笑みが戻っていた。
「ふははは! 任せておけ!」
メアも高笑いを上げて、やる気満々だ。
「ゼフメートよ、いくぞ!」
「はい!」
メアは、竜剣リンドを抜き放つと、眼下の抗魔に向かって壁の上から一直線に跳び出す。その背からは火炎が閃き、まるで炎の翼を得たかのように見えた。
外見もカッコいいんだが、やったことはトンデモない。なんと、バーニアを4発、同時に発動したのだ。
ただでさえ制御が難しいバーニアを、あれほど見事に同時使用するとは……。メアも相当修業をしたらしかった。
炎の尾を棚引かせたメアは、凄まじい速度で空を突き進み、抗魔の群れに突き刺さった。まるで隕石でも降り注いだのかと思うような、大爆発が抗魔を吹き飛ばす。
その衝撃は、見ているこちらが心配になるほどの威力だった。
まさか自爆技じゃないよな? しかし、すぐにクレーターの中から、白い炎を纏った猫獣人の少女が姿を現す。
埃の一片すらついていない。どうやったら、あの状況で無傷でいられる? 多分、障壁や火炎無効のおかげなんだろうが……。
「メア!」
「ふはは! 待たせたなフランよ!」
さすがフラン。俺と違って、メアの無事を毛ほども疑っていなかったらしい。戸惑う様子もなく、歓声を上げていた。
「我が来たからには、勝利は確定したようなものだぞ!」
「ん!」
本当に助かった。ただ、俺は少し気になっていたことを尋ねてみる。
『メア、他の門はどうなってるか、情報はあるか?』
「大丈夫だ! 獣人会の上役どもを全員叩きのめして、組織は我のものとした。今は血牙隊の隊長たちが人員を率いて、それぞれの門へと向かっておる!」
「なら安心?」
『まあ、血牙隊のやつらはあれで腕はいい。抗魔の数が多くなければ問題ないだろう』
そういった戦力の派遣にも時間がかかったんだろう。
『メア、他の組織に関しては何か知らないか?』
「冒険者は各門ですでに戦闘を開始しているぞ。竜人どもと塔は分からん!」
「竜王会の中でも、私たちの仲間は各門へと詰めてるわ。三爪たちも、それぞれ門に散っているから」
メアの言葉が聞こえたのだろう。ベルメリアが近くに降りてきて、教えてくれた。無論、戦いながらだ。
彼女たちも、ここ以外が落とされてしまわないように、しっかりと手を打ってから駆けつけてきたらしい。
この戦場は東門のすぐ横なので、東門の防衛も兼ねていると言っていいだろう。つまり、各門にはしっかりと防衛戦力があるってことだ。心配が1つ減ったな。
「そうかそうか! ならば、心おきなく戦えるな!」
「ん!」
そして、白と黒の少女が、並んで戦い始める。やはりこの2人は気が合うのだろう。ろくに打ち合わせもせずに、完璧な連携を見せている。
「強くなったな! フラン!」
「メアも!」
「はっはっはぁ! この程度で驚いてもらっては困るぞ! お主に追いつくために、奥の手も開発したのだ!」
「おおー、奥の手! すごい!」
「だろう! もう少し歯ごたえのあるやつが出てくれば、見せる機会もあろう! 楽しみにしておけ!」
「ん!」
ちょっと待て。この状況で、奥の手を使わなきゃいけないような強敵に出てこられるのはちょっと困るんだが……。
「灰となれぇ!」
「隙あり」
戦場のど真ん中で、楽しそうだね君たち。




