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89 双子の正体

 フランと闇騎士の男が剣を打ち合わせ、火花が散る。激しい金属の音が鳴り響くが、サイレンスの影響でこの屋敷の外には聞こえていないはずだ。


「ぬおおぉぉ!」

「はっ!」


 剣だけじゃ、長引きそうだな。相手も剣聖術だし。


 まずは剣を奪うか。


「は!」

「ぬあっ?」


 振動衝と属性剣・雷鳴を同時に使用する。ふふん、凄い衝撃が相手の手を襲っているだろう。案の定、手の痺れに抗えず男は剣を落としてしまった。


「しっ!」

「くぬぅ!」


 しかし、男は諦めないな。盾で剣を防ぎつつ、呪文の詠唱を始めた。


「――ダークアロー!」


 まあ、意味ないんだけどね。暗黒無効を持っている俺たちの前で、漆黒の矢は雲散霧消してしまった。


「馬鹿な!」

「隙あり」

「ぐあ!」


 驚きのせいで動きの鈍った男の隙を、フランは見逃さなかった。剣の腹で、男の足を叩き折る。


 そして、片膝をついた男の首筋に、フランが俺を突き付けた。勝負あったな。男は悔し気にフランを見上げている。


「……無念っ!」

「何者?」

「貴様らのような者共に名乗る名など無いわ!」


 元気なおっさんだな。とりあえず痛めつけて、情報を聞き出すか。


『ウルシ、出てこい』

「グルルルルゥ」

「ぬお! な、なんだ?」


 ふふん、ビビってるな。ウルシで脅しつつ、まずは腕の一本も斬り落として――なんて考えていたら、いつの間にか子供たちが上がってきてしまっていた。貴族の双子を先頭に、階段の入り口からこっちを覗いている。


 まあ、放置されて不安になるのも分かるが。戦闘中じゃなくて良かった。


「危ないから、来ない方がいい」


 フランが警告すると、7人の子供たちは多少怯えを含んだ表情で足を止める。だが、少年は闇騎士の男を見て、驚きの表情で叫んだ。


「サルート!」

「王子! ご無事でしたか!」


 は? 王子? この少年が?


「助けに来てくれたの……」

「姫様も!」


 あれ? もしかして敵じゃないのか? えーと、とりあえずヒールかけとく?



 10分後。


 騎士の怪我を治してやった俺たちは、彼らの説明を聞いていた。


「じゃあ、本当に王子と王女?」

「うむ。フィリアース王国の第6、第7王位継承者であらせられる!」

「そして、護衛?」

「そうだ」

「王族を誘拐されて、助けに来た?」

「そ、そうだ」


 まあ、王子様たちがこっそり抜け出して、そこを誘拐されたみたいだし、この人を責めたら可哀想だけどな。


「しかし忌々しい賊どもめ! 殿下たちにこのような物を嵌めおって……、お労しい!」


 王族が奴隷の首輪嵌められたら、そりゃあ問題だよな。この人の首だって危ういかもしれん。


「それに、このような年端もいかぬ子供達まで奴隷に……。少女よ、感謝する。お主が居なければ、これほどすんなりと王子たちの奪還は叶わなかっただろう」

「別に、自分の為だから」

「それでもだ。お主のお陰で殿下たちを助けることができたのだからな。して、奴隷商人たちはどうしたのだ? 死体さえないが」

「片づけた」

「少なくない数の賊どもの死体をどうやって……」

「ん? スキル」

「それは……いや、深くは聞くまい。スキルを無理に聞くのはマナー違反だからな」

「ん」

「お主の腕前であれば、嘘ではなかろう」


 ありがたいな。どうやらフランが幼いという以前に、自分よりも強い戦士という事で、対等の相手だと見ているらしい。


 捕まっていた奴隷たちは保護対象だと考えている様で、明らかに子供扱いなんだけどね。


『なあ、とりあえずここから出よう。仲間が戻ってくる可能性があるし』

「ん」

『ただ、奴隷商人に鉢合わせたら面倒だから、首輪は外しちまおう』

 

 という事で、フランが契約魔術を使い、子供たちの奴隷契約を白紙契約で上書きしていく。俺がフランの首輪を外した時と同じやり方だ。


 まさかこんなに簡単に外れるとは思ってもみなかったのだろう。サルートも含めて、全員が驚きの表情でフランを見ている。ただ、直ぐに喜びに変わったようだ。


 そりゃあそうだろう。これから闇奴隷として最悪の人生を送るかもしれないと絶望に震えていたら、あっと言う間に助け出されて、奴隷の首輪まで外されたのだ。


「なんと、契約魔術まで使えるのか!」

「ん」

「感謝するぞ! だが、助けてもらったのに、こういうことを言いたくはないが……。契約魔術を使えることはあまり人に言わん方が良い」

「なぜ?」

「契約魔術などただでさえ珍しいのに、奴隷契約を上書きできるほどのレベルとなると……召喚術師か、奴隷商人しかおらん」


 なるほどね。契約魔術が高レベルだと言うだけで、奴隷商人の仲間だと思われる可能性があるということか。闇商人でなくとも、奴隷商人は嫌われてる職業だしね。


「お主は召喚術師の様だし、我らにはそうではないと分かるがな」


 サルートの視線は、フランの横に寝そべるウルシに向いている。今は小さいサイズだが、さっきまで元の大きさだった。子供たちが怯えるため、小さくさせたのだ。その様子を見て、剣も使える召喚術師だと思われたらしい。


「とりあえず、ここを出る」

「そうだな」

「では、我らの泊っている宿に避難しよう。その後のことは、サルートに任せる」

「は!」


 王子様たちは、貸し切りにしている宿の一室を提供してくれるらしい。まあ、王族が泊ってるんじゃ警備の為にも貸し切りにした方がいいよな。こういう貴族が沢山いたせいで、俺達は宿探しに苦労した訳だけどね。



 フランとウルシとサルートで子供たちを護衛しながら、王子たちの宿に向かう。


 双子は王族なだけあって偉そうなんだが、クズ貴族とは違っていた。庶民の子供たちを気遣い、率先して先頭を歩く度量もある。幼いながらも、王族としての責務を果たそうとしている様だ。


 まあ、宿を抜け出して闇奴隷商人に捕まったりはしているので、子供としての我儘な部分もあるみたいだけどね。今は反省中だから、大人しいんだろう。


 到着したのは貴族御用達の、超豪華な宿屋だった。さっきは宿が見つからないのは王子様たちのせいとか思ってすまん。こんな宿、最初から泊まろうとも思ってなかったよ。


 子供たちも、尻込みしている様だ。


 門番が変な目でこっちを見ているな。ただ、王子たちの顔を知っているのだろう。特に声をかけてくるようなことはなかった。


「どうした、早くこい」

「さあ、どうぞ?」


 王子様とお姫様が子供たちを促して、宿に入っていく。お貴族様には逆らえない子供たちは、恐る恐る宿の入り口をくぐった。


「これはこれは、お帰りなさいませ」


 深夜なのに、並んで出迎えられた。まあ、王族相手だし、このくらいのことは当たり前なのかね?


「こちらの子供たちは……?」

「少々あってな、彼らの分の部屋と食事を。それと、湯あみの準備もな」

「いや、しかし……」

「無論、彼らの分の宿泊料も全て支払おう。問題あるか?」

「無理を言ってごめんなさい」

「いえ、分かりました。すぐに準備いたします」


 おおー、さすが王子様。大人相手でも威厳たっぷり! そして、お姫様は相変わらず腰が低いな。まあ、飴と鞭と言うか、バランスはとれているけどな。


「これは何の騒ぎですか!」

「セリド、今帰ったぞ」

「おお、王子! 心配致しました!」

「うむ。すまなかったな。少々道に迷ってしまってな」

「道に迷った……ですか?」

「ああ、サルートが迎えに来てくれた故、戻ってこれたがな」


 奴隷商人に捕まって、奴隷の首輪を嵌められてましたとは言えんよな。


「して、この子供たちはどうしたのです? 奴隷でもお買いになられたのですか?」

「違う。迷っていた我らの案内を頼んだのだ」

「はあ、さようですか。では、もう用済みですな。おい、駄賃をやるから、直ぐに失せろ」


 この男は、がちがちの貴族野郎みたいだな。こっちを蔑みのこもった目で睨んでいる。


「セリド! 彼らは客人としてもてなす。口を慎め」

「な! そのようなこと、許しませんぞ! なにを考えておられるのですか! このような薄汚い者共――」

「黙れと言っている。我らの恩人だぞ?」

「ぐ……!」


 ざまあみろ! こっちには双子が付いてるんだぜ! セリドとかいう侍従は、憎々し気な顔でこっちを睨むと、踵を返して去って行ってしまった。


「済まなかったな。有能なのだが、融通が利かなくてな」

「別にかまわない」


 子供たちも、あまり気にしてなかった。むしろ、貴族としては普通の反応だろうし。あんなものじゃね? 的な様子だった。

 

「お主はどうする? 良ければ、泊って行ってもらいたいが」

『どうせ風呂もない安宿だし。ここに泊めてもらおうぜ?』

「ん。世話になる」

「おお、そうか! では、早速部屋を用意させよう! 王子たちにも知らせて来なければ!」


 という事で、俺達は王子たちが貸し切りにしている高級宿に1泊することになったのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 気合の掛け声とか結構大声みたいだし、覚えのある声だと思って出てきたんじゃない?
[気になる点] 王子達はなにやってるの? 牢屋の中にいた時点では侵入者が敵味方かの判別なんてつかないはず。護衛だったのは結果論で、出てくるまでは確認できない。でも出てきたら邪魔になる可能性が濃厚。じゃ…
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