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88 アサシンフラン

『いくぞ』

「ん」


 住民が完全に寝静まり、酔客さえ帰途についた、深夜2時頃。


 俺たちは、例の2人組から聞き出した、闇奴隷商人のアジトの脇にいた。ウルシの闇魔術と、隠密、気配遮断を併用しているので、おいそれと発見されることはないだろう。一応覆面で顔を隠しているし、準備は万端である。


 アジトは港湾地区に面する、1階が倉庫、2階が住居の地味な建物だ。入り口の見張りは1人だけ。


『時間をかけてたら気づかれるぞ』

「ん。速攻」

「オン」


 そして、フランが動き出す。サイレンスで音を消し、一気に見張りを切り捨てる。見張りはフランの影さえ目に入れることはなかっただろう。そして、死体は即座に収納だ。


『さて、上からいくか』


 馬鹿正直に正面から突入することもない。


「ん」


 空中跳躍で屋根に上がったフランは、屋根裏の窓を斬り裂き、内部に侵入する。勿論、サイレンスで音を遮断して。


 中にあるベッドでは誰かが眠っているが、こちらに気づいた様子はなかった。鑑定してみると、闇奴隷商人の一味だ。


『敵だ』

(ん)


 フランは無造作に俺を心臓に突き立てる。


「――!」


 男は激痛に目を覚ますが、サイレンスのせいで声も出せなかった。そして、血が噴き出す間もなく死体を収納すれば、証拠も残らない。完全にアサシンプレイだな。


『さて、奴隷は地下らしいが』

「じゃあ、まずはこの階を掃除する」

『まあ、奴隷を助けるにはその方がいいだろう』


 汚物は消毒だ! という事で、俺達は暗殺者と化し、奴隷商人たちを殺戮して回った。ほとんどの奴は、以前にアレッサで倒した青猫族のギュランよりも強かった。まあ、全員寝ていたから、何の苦労も無かったけどね。


 それに、アンデッドの巣窟で成長した俺たちにとったら、正面から戦ったって問題ないだろう。隠密行動を取っているのは、あくまでも騒ぎを大きくしないためだ。


『ここが最後だ』


 6人程葬り、2階で最後の部屋の前までやってきた。この間5分だ。


 ただ、この部屋からは灯が漏れている。中の気配は一人だけだな。


『ウルシ、やれるか?』

(オン!)

『じゃあ、静かにな』

(オウ――)


 数十秒後、ウルシが戻ってくる。さすがだな、待っている間、ほとんど物音がしなかった。


『他の部屋と感じが違うな』


 どうやら、書斎の様だ。執務机に寄りかかる様に、青猫族の男が事切れていた。少し良いものを着ているな。どうも、幹部クラスの様だ。


『ちょっと机を漁ってみるか』


 なにか面白いものがあるかもしれない。引き出しの中を漁ってみると、様々な書類や、資料が出て来た。レイドス王国へ送った奴隷の数なんかが記されているな。


 できれば、しかるべきところに持ち込みたいが……。まあ、今は取りあえず仕舞っとこう。


 あと、部屋の隅には金庫も置いてあった。鉄製の、いかにも貴重品が入ってそうな金庫だ。男の死体を探ると、懐に鍵が入っていた。金庫から魔力は感じられないし、罠の類もなさそうだ。


 何が入っているのか。フランが鍵を使って金庫を開ける。


『おおー』

「お宝」


 現金が10万ゴルド程。あとは宝飾品類が入っていた。まさしくお宝だ。盗賊のアジトみたいなものだし、いただいても構わんだろう。俺たちはいそいそと金庫の中身を次元収納に仕舞いこんだ。


『2階にはもう誰もいないな』


 さて、次は1階なんだが、人の気配も多いし、皆起きているだろう。しかも倉庫らしいし、身を隠す場所も少ないかもしれない。一番まずいのは、フランの顔を見られたうえで、逃げられること。できれば、襲撃者が子供だと知られることも避けたい。


 捕まっている奴隷が居るから、広範囲殲滅はできない。地下には脱出用の隠し通路があるらしく、大きな騒ぎを起こしたらそこから逃げ出す奴もいるだろう。反響定位、赤外線視覚、気配察知、色々駆使して、階下の情報を調べる。1番厄介なのは、大部屋にいる5人だな。こいつらは最後にしよう。あとは、小部屋に2人、1人、1人で分かれている。


 俺たちは一旦外に出た。そして、ある部屋の窓の外にコッソリと回り込む。


『やるぞ』

「ん」

「オン」


 俺がサイレンスで音を消し、フランが窓を斬り裂いて侵入する。再度サイレンスで部屋の中の音が漏れないようにし、ウルシが叫び声を上げようとして口をパクパクしている男に止めを刺した。


 同様の方法で、1人の部屋と、2人の部屋を片づける。


「この部屋、なんか色々ある」

『ジャンの研究室に似てるな』


 様々な素材が置かれており、調合用の器具なども備え付けられている。色々な薬を作っているようで、棚にはライフポーション、毒薬、滋養強壮剤など、色々な薬が置かれていた。


『この器具は使えそうだな』

「いただく?」

『これがあれば、旅の最中でもポーションとか作れそうだしな』

「ん、じゃあしまう」


 いやー、金に調合器具に、お宝の山だな。当初の目的を忘れそうだ。


『じゃあ、このまま一気に殲滅しちまおう』


 残るは5人だけ。地下にどれくらいいるかは分からんけどな。


 基本はサイレンスと、ウルシの闇魔術ブラック・ベールだ。これで相手の視界を奪い、逃げられる前に一気に倒す。


 無音の暗闇の中、気配察知を持つフランと、生命感知を持つウルシが暴れ回る。男たちは何もできずに皆殺しにされた。


『1、2階は制圧完了だ』

「あとは地下」

『昨日聞いた構成員の総数は24名。つまり、あと4人はいる可能性があるってことだな』

「ん」


 忍び足で階段を下りる。どうやら、地下牢になっているみたいだな。その入り口に見張りが2人いたが、これは瞬殺だった。そもそも、やる気なさげにカードゲームをしていたし。


『これで、奴隷を助けるだけだ』


 事前の情報通り、7人の子供が牢の中に捕えられていた。全員、既に奴隷の首輪が付けられてしまっている。


「……誰だ?」


 突然子供が入ってきて、驚いているのだろう。7人の中で最年長と思われる少年が、こちらを見て恐る恐る声をかけて来た。かなりいい身なりをしているし、貴族かな? 生意気そうだ。後ろに庇っている少女と顔がそっくりだ、双子かな?


「正義の味方」

「え?」

「助けに来た」

「だが、上には人さらいたちが……」

「もう倒した」

「お前が倒したのか?」

「ん」

「……」


 少年少女たちが顔を見合わせる。うん、そりゃ信じられないよな。下手したら自分たちよりも年下の少女が、20人近くの犯罪者たちを倒したって言ってるんだから。


「離れて」

「え?」

「危ない。檻から離れる」

「あ、ああ」

「ふっ」


 キィキィン


 フランが俺を振るい、檻をあっさり切断する。 


「えぇ?」

「うそ?」


 床に転がる鉄製の檻を見て、呆然とする子供たち。どう反応していいのか分からないようだ。


「怪我してる?」


 双子の少女が、足を怪我している様だ。布を巻くだけの雑な手当てをされており、このままでは感染症を引き起こすかもしれない。


「――ミドルヒール」

「え? 治った?」

「魔術師?」

「すごい」


 子供たちがざわつくが、フランが応えることはなかった。


『フラン!』

「ん! 誰か来た」


 建物に侵入してくる気配があったのだ。奴らの仲間が帰ってきたか? まずい、異変に気づかれる前に倒さなくては。


 突然天井を見上げて黙ってしまったフランを見て、不安そうな子供たち。


「ど、どうした?」

「中に隠れてて」

「え? え?」

「戻るまで、出ちゃダメ」


 フランは子供たちを牢の奥に押しやると、俺を掴んで階段に引き返した。


『1階をウロウロしているな』

「何かを探してる?」

『仲間を探してるんだろ。それよりも、覆面を忘れるなよ?』

「ん」


 階段を上がり、気配の主をそっと盗み見た。うーん、完全武装の男なんだが、かなり強そうだな。気配の消し方も悪くない。俺たちは複数のスキルを併用しているから気配を捕えられるが、そうでなければ建物へ入ってきたことも気が付かなかっただろう。


名称:サルート・オーランディ  年齢:55歳

種族:人間

職業:闇騎士

状態:平常

ステータス レベル:51/99

HP:469 MP:458 腕力:236 体力:219 敏捷:155 知力:210 魔力:244 器用:169

スキル

暗黒耐性:Lv6、暗殺:Lv4、威圧:Lv5、隠密:Lv3、気配遮断:Lv3、剣聖技:Lv1、剣技:LvMax、剣聖術:Lv2、剣術:LvMax、宮廷作法:Lv3、盾技:Lv7、盾術:Lv8、尋問:Lv4、毒耐性:Lv4、毒魔術:Lv3、暴風耐性:Lv6、捕縛:Lv5、麻痺耐性:Lv4、闇魔術:Lv7、生命自動回復、気力操作、魔力操作、腕力小上昇

称号

誓いを捨てし者

装備

暗黒の上質ミスリルロングソード、黒塗りのミスリルの盾、黒塗りミスリルの全身鎧、黒天虎のマント、魔術耐性の腕輪、絆の指輪


 うわ、強い! そして、敵っぽいな。なにせ職業が闇騎士だぞ? 暗殺、尋問、捕縛という、闇稼業っぽいスキルもあるし。称号は誓いを捨てし者だ。


 それに、妙に殺気立っているし。


『フラン、強敵だ、気を付けろ』

(ん)

『ウルシは、いつでも奇襲できるように隠れて待機』

(オウ!)


 やはりかなりの手練れだ。飛び出したフランの気配にいち早く気が付き、直ぐに戦闘態勢を取りやがった。


「何奴だ!」

「しっ」

「くっ! 名乗りもせずに、卑怯者め!」

「はっ」


 フランは相手の言葉を無視して攻め立てるが、男は剣と盾を巧みに使い、フランの攻撃をなんとかいなしていく。


「ぬぅりゃあぁ!」

「はぁ!」


 それどころか、斬り返してきやがった。剣聖術のレベルはフランの方が高いが、相手は盾も使う騎士だ、防御はかなり堅い。しかも、戦闘経験は圧倒的に男の方が上だろう。簡単に勝てる相手ではない。


 思わぬところで、思わぬ強敵と出会ったな。ウルシの奇襲攻撃か、俺の念動カタパルトを使えば勝つことは難しくないだろうが、できれば殺さずに捕らえたい。これだけの腕を持っているんだ、下っ端ってことはないだろうし。


『フラン、なんとか殺さずに捕まえるぞ』

(ん。分かった)



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[良い点] 人質や逃亡を許さない迅速かつ確実な暗殺。 [一言] 魔獣やダンジョンなど、知性があろうが有害な敵を殺して有益なものを手に入れることが当たり前の世界なんだから犯罪者も一緒でしょ。 奴隷商だ…
[良い点] 勇者行為は気持ち良いZOY! [気になる点] 容赦なく殺してるけど、本当に全員が犯罪者だったのだろうか。 [一言] まぁ、この世界ではもっと大量に人を(直接的・間接的に)殺してる人多いだろ…
[一言] 黒天虎のマント?
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