857 ワンゴンとゲフ
獣人と竜人の抗争現場へと到着した俺たちが見たものは、直径20メートルほどの広場で対峙する、総計50人は超えるであろうアウトローたちの姿であった。
獣人よりも竜人の方が数が多い。20対30ほどだろう。
広場を囲む建物に駆け上がり、そこから見下ろす。
20メートル近い場所から見下ろすと、その布陣がよく分かった。
どうやら、獣人たちはある建物の入り口を守るように壁を作っているらしい。
竜人たちはそれを囲むように、広場中央に陣取っている。
大声で罵り合うその姿は、小さな空き地でガンを飛ばし合う昭和ヤンキーのようだった。
「ドルーレイ、いない」
『そうだな。ただ、ベルメリアとフレデリックはいるぞ』
「ん」
竜人たちの端っこの方で、できるだけ気配を消しているのが分かった。
竜王会に潜り込んで情報を得ようとしているあの2人は、こういった抗争の時に付いてこないわけにはいかないのだろう。
止めたいのは山々だが、大っぴらに動けば竜王会の信用を失う。そのため、逃げることもできず、小さくなっているしかないのだ。
あれでは、戦闘を止めるどころではなさそうだ。力を貸してもらうわけにもいかないだろう。
ガズオルとドルーレイがいれば。話を聞いてもらえたかもしれないんだけどな。
獣人たちを率いているのは、犬の獣人だった。大剣を背負った、赤犬族の戦士である。かなり強いのが、ここからでも分かった。
「おう、蜥蜴どもぉ! ここは獣人会のシマだ! 何の用だゴラァ!」
「てめえらんとこに、うちの壁役が世話んなってんだろ? それを返してもらいにきただけだ!」
「はあ? 知らねぇよ!」
「嘘つくんじゃねぇ! 犬っころが! 調べはついてんだよ! キャンキャン吠えてんじゃねぇよ!」
「ああ? てめぇ、舐めた口利いてんじゃねぇぞ? 俺が、血牙隊第二席、ワンゴン様と知ってのことか? 今謝るなら見逃してやってもいいんだぞ?」
強そうだと思ったが、血牙隊の第二席であるらしい。つまり、ドルーレイよりも格が上ってことなのだ。
実際、凄まじい威圧感がここまで伝わってくる。
だが、先頭に立つ竜人は、ワンゴンに怯えた様子はない。というか、竜人じゃなくて半竜人だな。
この大陸に来て、竜人が半竜人を差別するようなことはないと分かったが、それでも竜人を率いている半竜人というのは初めて見た。
黒髪の優男だが、ワンゴンと言い合いをするその口は非常に悪い。フランが汚い言葉を覚えなければいいんだけど……。
「見逃してやってもいいっていうのはこっちのセリフだ馬鹿野郎! とっとと腹見せて降伏しろや、ワンちゃんよぉ! このゲフ様が腹をなでなでしてやるよぉ!」
こっちはガズオルの同僚、邪道のゲフだったのか。いったい、どんな理由で邪道なんて異名が付いているんだ?
「あれが邪道?」
『ああ、半竜人。しかも、フレデリックと同じ半邪竜人みたいだな。邪道の異名はそこから来てるのかもしれん』
「どんな戦い方するのか、楽しみ」
フランが少しワクワクした顔で呟く。
ゲフやワンゴンの戦闘力が気になっているようだ。だが、2人の強さをしっかりと確かめられるようなことになっていたら、完全に殺し合いに発展しているだろう。
『……できれば止めたいんだからな?』
「そうだった」
忘れてたな。
なんてやっているうちに、広場でひと際大きな怒声が上がっていた。
「ブチ殺す!」
「やってみろやぁ! 返り討ちにしてやるぜぇ!」
両者の魔力が急激に高まる。
『まずい! フラン!』
「ん!」
跳び上がったワンゴンが大剣を振り下ろし、低空で前に出たゲフが槍を突き出した。両者の攻撃には完全に殺気が乗っている。
どちらが怪我をしても、それが抗争のきっかけとなるだろう。俺たちは、咄嗟に魔術を使っていた。
「ぬぁ? なんだぁ?」
「魔術か!」
2人は攻撃をぶつけ合うことなく、その攻撃が宙で弾かれてしまう。
俺とフランが両者の間に張った風の防壁が、その攻撃を防いでいたのだ。俺が4枚、フランが2枚である。
かなりの魔力を込めた。簡単には突破できないだろう。
竜人たちも獣人たちも、突如出現した風の防壁を軽く叩き、戸惑った顔だ。
そのまま周囲を見回し、そして対峙する相手を睨みつける。
俺たちの姿が発見できない以上、相手がやったと勘違いしたんだろう。
「トカゲェェ! 俺とやり合うのが怖くなったかぁ?」
「ああ? こっちのセリフだボケッ!」
最初の攻撃を防いだくらいでは、大人しくならないか……。こりゃあ、このまま両者を分断し続けて、頭が冷えるのを待つのがいいかね?
だが、ワンゴンとゲフは、俺たちの想像以上の実力を持っていた。
「覚醒ぃぃ!」
「竜人化ぁ!」
当然ながら、どちらも進化している。防壁をぶち破る気か? だが、ちょっとやそっとの攻撃じゃ、破壊できんぞ?
俺たちが自信満々であるように、向こうも自信があるのだろう。ワンゴンとゲフが同時にニヤリと笑うと、それぞれの構えを取った。
『いいぜ! やってみろよ!』
ただ、少し補強しておこう。俺はさらに風の魔術を発動し、防壁をさらに4枚増やすのであった。
少し忙しく、次回は8日更新です。
レビューを2ついただきました! ありがとうございます!
作者のツリ文句に誘われてしまいましたか……。あらすじを修正した甲斐がありますね!
バトルシーンをお褒めいただき、とても嬉しいです。
だいたいが盛り上がりのシーンなので、気合を入れて書いておりますので!
他の部分のクオリティも高評価で、レビューを読みながらニヤニヤ笑いが止まりません!
あらすじのツリ文句に誘われたレビュワー第二号様です。いらっしゃいませ~。
読者さんに度々「あらすじがちょっと……。修正したら?」と言われていたのですが、本当だったようですwww
ウルシの進化シーンは、私も結構好きなんですよね。
そこを褒めていただくと、書いてよかったなーと思えます。
これからもウルシが大活躍する予定の当作品を、よろしくお願いいたします。




