82 ポーション作り
ダンジョンを脱出した俺たちは、ジャンの研究所まで戻ってきていた。
「では、ステファンは逝ったのだな?」
『ああ、満足げだったぜ?』
「ならば良い。それが、アンデッドにとって最良のことであるからな」
ジャンは冥王の祝福を使った消耗が未だに回復していないようだ。軽く話をした後は、床に臥せってしまった。意識を失ったわけではないが、起き上がるのも億劫そうだ。
その状態でカレーを喰いたいと言われては、出さない訳にはいかないんだよな。
フランも涙を呑んで、許してくれた。
客間は好きに使ってくれていいと言ってくれたので、数日はジャンの研究所に滞在する予定だ。
『なあ、この辺のアイテムとか、本当に貰っちまっていいのか? ダンジョンで拾ったものだし、雇い主のジャンに権利があると思うが』
「構わぬよ。我には必要ないものだ。持ってゆくがいい」
『じゃあ、遠慮なく』
これで依頼は完了だ。ジャンからの報酬は予定よりも多い40万ゴルドと、ダンジョンで入手したアイテムの半分である9つのアイテムだった。いやー、太っ腹だ。
報酬でもらったのは、レジェンダリースケルトンから得た魔剣・デスゲイズ。冥王のマント。
名称:魔剣・デスゲイズ
攻撃力:880 保有魔力:600 耐久値:400
魔力伝導率・B+
スキル:即死:3%の確率で斬った相手が即死
名称:冥王のマント
防御力:40 耐久値600/600
効果:腕力+10、体力+20、知力-20、器用-10
強いんだけど、使いどころが難しいな。冥王のマントとか、どんな脳筋装備だ。
あと目ぼしいものは、ヤギの角を更に捻じって、S字に成形したみたいな変な形の笛に、美しい装飾の小さな指輪だった。
名称:衝撃の角笛
効果:魔力を込めて吹くと、衝撃波を発生させる笛。ただし、4%の確率で破壊される。
名称:悪夢の指輪
防御力:8 耐久値:200
効果:装備者は夢見が悪くなる。
おいおい、衝撃の角笛はともかく、悪夢の指輪とか完全に呪いのアイテムじゃねーか。嫌いな奴に送り付けるとか、それくらいしか使い方が思いつかん。
それ以外は、上級ライフポーション×1、上級マナポーション×1、中級爆発ポーション×1、アンデッド寄せの香×1、魔毒薬×1。って感じだ。
ポーション類は、それほど凄いもんじゃないな。いや、店で買ったら結構高いはずなんだけど、俺達はスキルや魔術で事足りるからな。あって損するもんじゃないし、貰っとくけど。
そうやって戦利品の確認をしていたら、フランとベルナルドが一緒に現れた。
なんか、不思議な取り合わせだな。
『どうしたんだ?』
「ん、薬の作り方を教えてもらう」
「ぽーしょんノつくりかたヲ、しりたいというノデ」
「ワタシ、オシエル」
「これハ、ぴーたーでス」
「ヨロシク、ワタシ、ピーター」
このピーターというスケルトン、製薬スキルと錬金術を持っているぞ。いやー、ジャンの配下は色々いるな。
『そんな簡単に教えていいのか?』
「はイ、ほうしゅうモありマすシ」
『報酬?』
「カレーのレシピ」
おいい! そんな勝手に!
というか、ジャンもカレーのレシピ程度でポーションの作り方教えちゃうとか、どんだけ気に入ったんだよ。
「モちろン、だれニモいいマせんかラ」
『まあ、別にいいけどさ』
俺が開発した訳じゃないし。こっちの世界でレシピが広まって、どんな新種のカレーが生み出されるかも興味はある。
「これで、ジャンにカレーを取られずに済む」
『ああ、そういう事ね』
「大事なこと」
しかし、ポーション作りか。スキルは持ってるんだけど、使ったことはないな。
『なあ、俺もいいか? 面白そうだ』
「かマいマせン」
という事で、ポーション作りを習うことになったんだが……。
「飽きた」
『早いなおい!』
いや、気持ちは分かるよ?
地味な草を、静かにゴリゴリとすり潰して、エキスを抽出する間ジッと待つ。うん、フランには無理だよな。
「ウルシお願い」
「オン?」
「はい」
「ホン!」
ついにはウルシに擂り粉木を渡してしまった。ウルシも、前足ですり鉢を押さえつつ、口に咥えた擂り粉木で薬草を潰している。
「ホフ、ホンホホ」
『いや、器用だなウルシ』
「ホン!」
俺も負けちゃいられん!
『うおりゃぁぁ!』
「ホホン!」
「2人ともがんば」
フランはジュースを飲みながら、応援モードだな。いいけどね。
次は、エキス抽出だ。すり潰した薬草を水と混ぜ合わせて、フラスコに似た器具に入れて火にかけると、もう片方にエキスだけが出てくるらしい。
普通なら、ここで1時間くらいかかるらしい。でも、それじゃ芸がないと思わないか?
『ということで、魔術で工夫をしてみよう!』
料理だって魔術で工夫することで、工程を省略したり、味を良くしたりできるんだ。ポーション作りも同じな気がするんだよ。
まあ、失敗してもいいように、半分は普通に作るさ。
水は魔術で出した蒸留水、火魔術で温度調節、風魔術で圧力を調整し、時空魔術で時間を早めてみる。ふっふっふ、完璧だ。
「師匠、ずる?」
『工夫と言いなさい』
結果として、質の良いライフポーションが造れた。自分の才能が恐ろしいぜ。ピーターが普通に作ったポーションの方がより高品質だったけどね。
しかし、面白いな。俺ってば、料理とか調合とか、そういう地味な作業に向いているのかもしれない。スキルレベルを上げることは難しいが、工夫次第では色々作れそうだ。これは研究し甲斐があるな。町とかでレシピを集めるのもいいかもしれない。
フランは途中で完全に飽きたのか、ウルシに任せて外に遊びに行ってしまった。うーん、猫だねぇ。そして、必死に擂り粉木を回すウルシ。うんうん、完全にフランの言いなりだ。
その後も、マナポーション、解毒ポーション、死霊ポーションなど、10近いレシピを教えてもらったのだった。
カレーのレシピと引き換えじゃ貰いすぎな気がするけど、フランとジャンはまだ足りないと言っていた。互いに納得してるんならいいんだが、カレー狂い共の価値観が恐ろしいことになっているぜ。
「ししょうさン、あるじがおよびでス」
夜、食事を終えた頃、ジャンに呼ばれる。部屋に行くと、幾分ましな顔色になったジャンが待っていた。
『体調は平気なのか?』
「ふははは、多少なら問題なかろう」
『で? 用件は?』
「うむ、師匠君がステファンに託された日記なのだが、もう読んだかね?」
『いや、まだだ』
俺が渡されたけどさ、最初に読むのはジャンが良いと思うんだよね。だから、まだ読んでない。
「そうか、では、少し借りても?」
『むしろ、ジャンが持ってる方がいいだろ? 俺が読むのは、ジャンが読み終わってからでいいからさ』
「ありがたい」
『急がなくていいぜ? 数日はゆっくりさせてもらうつもりだから』
「分かった、ありがとう」
『おう』
ジャンは俺から渡された日記を大事そうに、手に取ると、ゆっくりと表紙を開くのだった。
さすがに今日中には読み切らないだろう。あと数日、どうやって過ごすかな。ポーション作りも良いけどさ……。そうだ、スキルの検証もしないとな。




