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836 銀の女


 違法都市センディアへと向かっていた俺たちは、その目前で足を止めていた。


『あそこがセンディアだ。想像してたよりもでかいな』

「ん。でも、なんか汚い」

『汚いっていうか、統一感がないな』


 上から見ると、町の外壁は凸凹と歪な形をしていた。


 大きい円に小さい円をいくつもくっつけたような感じだ。元々あった外壁の外に新しい外壁を付け足して、そこに街を作るというようなことを繰り返してきたのだろう。


 形だけではない、外壁は上部と下部で、建材が明らかに違っている部分も多い。最初に低い外壁を作り、後に高く伸ばしたのだろう。それどころか、同じ外壁でも石材の色が明らかに違う場所がある。


 その時々で安い石材を適当に使っているのかもしれないな。とにかく統一感というものがない。


 それは内側に見える建造物も同じだ。色も建築様式も全く違う10階建てマンションのような高層建築が、ぎゅうぎゅうに立ち並んでいる。


 こっちの世界に建築法なんてものはないだろうが、あれは酷すぎだろう。日本人的な感覚だと、耐震性なんて一切感じられない。


 老朽化して傾き始めた建物の横に新しい建物を立てることで、古い建造物を無理やり支えているんじゃないかと感じてしまうレベルの密集度だった。


 ただ、それゆえに異様な迫力があるのも確かだ。歪ゆえの狂気。雑多であるからこそ、何が潜んでいるか分からない恐怖。


 そういった不気味さが、町全体から感じられる気がした。


 異世界版九龍城的な? スラムと暗黒街が組み合わさったような場所なのかもしれない。


 センディアの入り口直前で地上に降りると、徒歩で街へと向かう。だが、途中でフランとウルシがふと足を止めていた。


「何かいる」

「オン」

『女か? でも……』


 町と俺たちの間に、一人の女が立っていた。金属質に見える銀髪が、陽光を反射して輝いている。


 俺たちが戸惑う理由は、女の気配の希薄さだ。いや、希薄というか、気配が全くなかった。


 目には映っているのに、生命の息吹や魔力の波長が一切感じられない。幻や彫刻のようにすら思える。


 俺たちはゆっくりと女へと近づいた。


 身じろぎ一つどころか、わずかな震えや揺らぎすらない。本当に幻影なのか?


 だが、幻覚を見破ろうと色々と試してみても、女はそこにいる。


 近づいてみると、女の周囲でわずかな空気の流れが感じられた。足元をよく見れば、女に踏まれた下草が折れ曲がっている。


 つまり、女はそこに確かな実体があり、質量を持った存在であるということだ。


『こっち見てるな』

(ん。見てる)

『敵だと思うか?』

(……わかんない)

 

 俺たちが戸惑うもう一つの理由が、女の目的が全く分からないということだ。顔に表情はない。それだけではなく、ありとあらゆる感情が感じられなかった。


 敵意や悪意、憎悪もなければ、友好的な雰囲気もない。ただそこにいて、ガラスのような瞳でこちらを見つめている。


 警戒しながら道を進む。何千年もの間、冒険者たちによって踏みしめられ、自然と出来上がった街道だ。


 さほど広くはないのだが、すれ違う程度は問題ない。


「……」

「……」


 距離が縮まる。


 近づくと、その顔の造作がよく分かった。透けるような白い肌と、鈍い光沢を放つ銀髪を持った、怖いほどに整った顔をした女性だ。


 そして、フランたちと銀髪の女性の距離が残り3メートルほどになった、その時だった。


「その剣から、僅かにオーバーグロウスの気配がします。能力を取り込んだのですか?」

「……誰?」

「この大陸の者たちには、銀の女と呼ばれています」

「ナディアに聞いた。ゴーレム?」

「はい」


 女は頷くが、フランは首をかしげている。言われても納得できかねるほど、精巧なゴーレムだった。


 だが、よく見れば瞬きはしないし、心音や血流の音もない。そもそも、熱や魔力が感知できなかった。


 元々気配の薄いゴーレムであるうえ、この大陸で活動するために隠密性能を極限まで高めているのだろう。


 さすが、神級鍛冶師が作り上げた特製のゴーレムだ。


「……何の用?」

「礼を」

「?」

「オーバーグロウスを破壊してくださり、ありがとうございます」

「どういうこと?」

「……私は、存在意義を失いました」

「?」


 フランが首をかしげているが、俺も同じ気持ちだ。存在意義を失ったと糾弾されるのであれば、分かる。


 だが、それで礼? 皮肉だとも思えない。


「どういうこと?」


 しかし、彼女がこちらの質問に答えることはなかった。


「それでは」

「あ、ちょっと!」


 フランが手を伸ばすが、銀の女は頭を下げたまま一瞬で消え去ってしまう。空間転移である。


 銀の女が神出鬼没である理由が、これなのだろう。


『なんだったんだ?』

「分からない」


 とりあえず敵対する様子はなかったが……。


 最後、頭を下げる直前の銀の女の表情。一切変化していないはずなのに、妙に気になった。何故か、笑ったように見えたのだ。


 ゴーレムに感情があるのだろうか?


次回は1/14更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 銀の女視点で「不吉な剣を運ぶ使命から開放されたので好きに旅してまわります」とかいう外伝出たら笑う。 転剣世界のワールドガイド的な話
[気になる点] う~ん・・・? 今後はパシリしなくて済むようになったので有難いってことかな? そりゃ永遠に人から人に剣を配達しないといけないんだから大変だよな それを命令した主人はさぞお怒りだとは思う…
[一言] ゴーレムと言われると、戦機剣チャリオッツが思い浮かぶなぁ
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