834 ノクタへの帰還
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
ナディアとカステルを救うことに成功した俺たちは、無事にノクタへとたどり着いていた。
道中の抗魔は、ドワーフたちが瞬殺だ。いやー、頼もしかったね。
ただ、ノクタへと入った時点で、ある人物たちがいないことに気が付く。
『ソフィがいないぞ』
(えっ?)
フランが慌てて周りを見回すが、ソフィとその護衛たちがいなくなっていた。ただ、勝手にいなくなったわけではないらしい。
キョロキョロとソフィを探すフランに、ジェインが近寄ってきた。
「ソフィなら、さっきどこかに帰っていったわよ」
「どこに?」
「さあ? でも、拠点はノクタじゃないらしいわね。フランに伝言を預かってるの」
「伝言?」
「借りは返した。ですって」
「ソフィ……」
考えてみたら、食い逃げしそうになっていたソフィの食事代を立て替えたことがきっかけだったんだよな。
仲間たちの強化に、俺たちの回復。そしてナディアの抗魔化解除と、八面六臂の活躍だった。
彼女がいなければ悲劇的な結末を迎えていたであろうことは、想像に難くない。
MVPと言ってもよいだろう。
そんな彼女を、一食奢っただけで一時味方につけられたというのは……。安すぎたね。
「騒がれたくなかったみたいだから、引き止めなかったわよ?」
「……お礼、ちゃんとできなかった」
正直、こちらが得をし過ぎだった。フランもそう思ったらしい。いくら借りを返すためといっても、今回の戦いに参加してもらうほどの借りではなかっただろう。
(次あったとき、ちゃんとお礼する)
『だな』
さて、ソフィとは先に分かれてしまったが、オーファルヴたちともそろそろさよならの時間だ。
ここにくるまでに相談していたのだが、ドワーフと魔族は、抗魔の季節が終わるまでノクタを拠点として防衛に専念するらしい。
彼らには目標とするノルマがあったのだが、カステル防衛戦でそれも達成したそうだ。それ故、無理して遠征をする必要もなくなったらしい。
「この町とナディアのことは我らに任せておけ! 何があっても守ってみせよう!」
「ナディアちゃんを守り切ってこそ、ハッピーエンドだからね!」
「ん。お願い」
ナディアが目覚めるまで、そばにいたい気持ちもある。特にフランはそうだろう。
ただ、違法都市センディアの闇奴隷商人も放ってはおけなかった。
ジェインの情報によると、抗魔の季節の後は出荷される奴隷の量が跳ね上がるらしい。
傷ついた冒険者や、親を失った子供が捕獲されるからだろう。
子供が闇奴隷商人に捕まると聞いた時のフランの顔と言ったら、まるで怒っている時のドナドロンドのようだった。
そんなフランが、違法町に巣くう闇奴隷商人を無視していられるわけがない。
結果、ナディアを信頼できる相手に預けて、俺たちはセンディアに向かうことにしたのであった。
とりあえず、百人隊とオーファルヴ、ジェインを伴って冒険者ギルドへと向かう。他のドワーフたちは、ノクタに確保した拠点へと帰還するそうだ。
ギルドでは、大勢が一気にやってきたということで騒然としていた。フランは特に気にした様子もなく、カウンターで依頼の顛末を報告する。
すると、即座にギルマスたちが飛び出してきた。彼女らも、色々と気になっていたらしい。
「それじゃあ、依頼達成ねぇ? うふん、すごいわぁ」
「……ん」
「では、参加者の皆さまには依頼料のお支払いを行わせていただきます」
ギルマスとサブマスに挟まれながら、依頼達成手続きを行う。所持金ががっつり減ってしまったが、抗魔ポイントを大量に稼いだので生活に問題はない。
なんと、今回の戦闘だけで300万ポイントほど稼げていた。カステル防衛戦参加者の中で断トツだ。
2番目がオーファルヴの100万ほどだと考えると、捻じれ角のポイントが相当多かったのだと分かる。
ノクタの一番いい宿のスイートルームに3食+おやつ付で泊まるのに1000ポイント必要なことを考えると、3000日はスイート暮らしができてしまう計算だ。
すさまじい稼ぎだろう。
「フランちゃん! 無事に帰ってきたか!」
「ムルサニ」
「よかった……!」
ギルドに飛び込んできた人影はムルサニだった。
フランの姿を見つけると、泣き笑いの表情で抱きしめてくれる。
最初は静かだったのだが、感情が昂ったのだろう。号泣し始めた。
メッチャ見られているが、誰も声をかけてはこない。微笑ましい光景を邪魔したくないという想いもあるだろうが、号泣するオッサンにどう声をかけていいか分からないというのもあるのだろう。
そんな中、口を開いた勇者がいた。
「あんたがそこまで取り乱す姿は珍しいな、ムルサニさん」
「ゼ、ゼーハルドさんですか……。グスッ。お、お恥ずかしいところを見せました」
ムルサニも、ここがどこだったか思い出したらしい。ようやくフランを離してくれた。まあ、フランは嫌がってなかったけどさ。
「護衛の任務ご苦労様でした」
「ははは。このお嬢ちゃんは大した冒険者さ。俺たちなんて役に立ってねぇよ。最後はドワーフの女王様方に助けられる有様だったからな」
自嘲気味に笑うゼーハルドに、他の冒険者も似た笑いを浮かべた。それは、竜人や傭兵、騎士たちも同じである。
オーファルヴたちの救援がなければ、危険であったと理解しているのだ。全力を尽くした末に、助けられた。
それが、彼らが素直に喜べない原因だろう。
「役に立ってないなんて、そんなことない!」
その気持ちを否定したのは、フランだ。
「役立たずなんて1人もいなかった。誰か1人が欠けてても、きっと失敗してた。最高の仲間」
「嬢ちゃん……」
「それに、みんながいなかったら、私は間に合わなかった。ナディアを助けられなかった」
それは事実である。彼らの援護がなければ、赤い竜や親衛隊に足止めされ、捻じれ角との戦いに間に合わなかっただろう。
フランがいつになく真摯な表情で、ゼーハルドだけではなくみんなに語りかける。
「ありがとう。みんな。私たちを助けてくれて」
フランはそう言って、深々と頭を下げた。それを見た皆の反応は様々だが、暗い雰囲気はなくなったな。
フランが心の底から礼を言っていることがわかり、自分たちを否定するような空気が消えたらしい。
「まあ、俺たちも、この部隊に参加できてよかったよ」
「俺もだ」
「私も!」
そう言っているのは、指揮官たちだけではない。彼らに率いられて参加した者たちからも、明るい声が漏れている。
誰1人死なせることなく戻ってこれて、本当によかった。
次回更新は1/8の予定です。
レビューを2つもいただきました。ありがとうございます。
初レビューが当作品だなんて、嬉しいです。
しかも作者のことまで褒めてくださるとは……。
私を惚れさせて何をしようっていうんですか!?
これからも、親バカ目線でフランを見守ってくださいませ。
中弛みしないというお言葉、非常に嬉しいです。
停滞や中弛みしないようにというのは、ずっと心がけていることですので。
これからもフランはどんどん成長していくので、応援お願いいたします。
フォールンドは……いつか再登場しますので、それもお楽しみに。




