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833 抗魔殲滅完了


 ナディアを救い出した俺たちは、未だに抗魔の群れと戦い続けていた。


 本来であればナディアを救い出し、逃げ出すつもりだったのだ。しかし、ドワーフや魔族たちが逃げ出そうとしない。


 彼らに守られている状態の俺たちも、逃げることはできなかった。物理的にも難しいし、精神的にも自分たちだけで逃げ出すなんてできないのだ。


 わずかに回復してきた百人隊も、戦闘に参加し始めている。


 広範囲の攻撃を連打しないのは、消費を抑えるためだろう。魔力タンクである俺のいるフランと違って、他の皆は節約せねばすぐに魔力が尽きるだろうからな。


 気にせずバンバン攻撃しているのは、オーファルヴ、ジェインだけだ。


「進め! 抗魔どもを蹴散らすのだ!」

「ここまできたら、殲滅だぁ! ワタクシたちで抗魔を根絶やしにするんだから!」


 ナディア相手に極限の戦いを演じていたというのに、一番元気だった。


 さすが、7賢者に数えられる2人だ。


 そうなんだよね。思い出したんだけど、魔族の国の王も7賢者に入っていたはずなのだ。つまり、ジェインのことである。


 そりゃあ、強いはずだ。これまで出会った7賢者は、全員がとてつもない実力者だったのである。


 ハイエルフのウィーナレーン。ドワーフの女王オーファルヴ。魔王ジェイン。


 残りは神剣の持ち主3人と、最狂の戦闘種族である蟲人の王という面子であることを考えると、弱いわけがなかった。


 ランクS冒険者に対抗するために、ギルドと反目している権力者たちが勝手に決めて言い始めたと聞いたが……。きちんと実力も伴っていた。


「ふはははは! 温いぞ! 抗魔どもよ! もっと死ぬ気でかかってこい!」

「あはははは! アンデッドにもなれない無価値なゴミは、せめてワタクシの糧となりなさい!」


 アクとクセの強さも、ランクS冒険者並みかもね。



 そして、半日後。


「うむ! 勝利の後に呑む酒は、絶品だな!」

「オーファルヴ殿。ワタクシ、戦闘の1分後にお酒飲むのは、いくらなんでも早すぎると思うの」

「我らにとってこの程度の酒、水と変わらぬよ。おぬしらが運動後に喉を潤すのと同じだ」

「それが火酒じゃなければ、頷いてもよかったのだけれどねぇ」


 俺たちは長い戦いの末、抗魔どもを殲滅することに成功していた。


 体力お化けのドワーフたちも、さすがに疲れたらしい。腰のアイテム袋から水筒を出して、中身をゴクゴクと呷っている。


 ジェインが突っ込まなければ、水だと思っていられたのに。まさか火酒とはね……。


 魔族たちもほとんどが座り込んでしまった。精鋭魔術師である彼らも、体力と魔力が尽きた状態では立っていられないのだろう。


 百人隊も似た状況だ。いや、さらにきついかな? 一度精魂尽き果てるまで戦い、少し回復してから再び長時間抗魔と殺し合いをし続けたのだ。


 疲労困憊、満身創痍。そんな言葉が、彼ら以上に似合う存在もそうそういないだろう。


 フランも、途中で起き上がり、みんなと並んで戦っていた。仲間が必死に戦っているのだ。動かずにはいられなかったのだろう。


 10万を超える抗魔で埋め尽くされていた平原は、静寂に支配されている。あれだけ群れていた抗魔は姿を消し、戦の喧騒が夢であったかのようだ。


 抗魔は死体も血も残さないせいで、いなくなると戦場が急に広々と感じられた。


「ナディア、起きない」

「相当無理してたんでしょ? ワタクシ、仕方ないと思うな」

「ん……」

「とりあえず、この子を安静にできる場所に連れて行かないとねぇ。どこがいいかな?」

「ここから近い町というと、ノクタではないか? 我らもそこで話を聞いたのだ」

「そうねぇ」


 オーファルヴたちは、百人隊がノクタを出発した直後に依頼のことを知ったらしい。そして、取るものも取らずに、街を出発したそうだ。


「オーファルヴ殿に、いいから付き合えって強引に誘われちゃってさぁ。まあ、楽しそうだからオッケーしたけど」

「ジェイン殿の広範囲補助がなければ間に合わなかっただろう。感謝している」

「いいのよ。実際、愚息の知人を救えたし、ポイントも経験値もがっぽりだったから」

「ふははは、そうか!」

「あははは! そうなんだよ!」


 オーファルヴとジェインは気が合うらしい。こんなノリと勢いで死地に同行させられる配下は大変だな。そのおかげで助かったんだけどさ。


 こういう時に突っ込んでくれそうなトートは、沈黙したままだ。というか、骸骨のペンダントから、力が失われていないか?


「トート、へいき?」

「力を使い果たして、送還されただけよ」

「英霊召喚は強力だが、活動時間が短いのが欠点であるな」

「そこは仕方ないわ」

「英霊召喚?」

「死霊術師の奥義の一つよ」


 高位の冥府魔術で、過去の英雄を短期間喚び出す魔術であるらしい。トートは思念だけの状態でペンダントに宿ることで、活動期間を延ばしていたそうだ。


 しかし、完全に召喚され受肉したことで、一気に活動限界が訪れてしまったらしい。


 結局、一行はノクタへと戻ることになった。大人数を受け入れてくれそうな大きな町が、そこしかなかったのだ。


 センディアという違法都市も近くにあるらしい。だが、受け入れてもらえるか分からなかったうえに、奴隷商人の隠れ蓑になっているという噂があったので今回は見送ることとなった。


 ノクタへの途上、俺はフランとウルシのステータスを確認する。


 当然ではあるが、レベルが1つ上がっていた。フランは67、ウルシは68レベルだ。


 あれだけの抗魔を倒して1つしか上昇しないのかと思ったが、それも仕方ない。


 60以上ともなれば、ランクA冒険者以上のレベル帯である。普通は何十年もかけて到達する段階だ。


 それが、たった半日でレベルアップする方が異常なのである。むしろ、この大陸にきて短期間でレベルが上がったと驚くべきところだろう。


(師匠。センディアって……)


 やっぱ覚えてたか。奴隷商人が暗躍しているって聞いた時から、思いつめた顔をしていたからな。


『場所はすぐに調べられると思う。でも、完全に回復してからじゃないと、ダメだぞ?』

(ん。わかってる)


 久々に、分かってない「わかってる」を聞いたな……。フランの目は、確実に敵対者について語る時の眼をしていた。


今回が年内最終更新す。次回は1/1更新予定となっております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次はセンディアか いいねえ、奴隷組織壊滅かな? [一言] >残りは神剣の持ち主3人と、最狂の戦闘種族である蟲人の王という面子であることを考えると、弱いわけがなかった。 こういう七賢人や神…
[一言] 一気に読ませてもらいました 今年はこんなにいい物語を読んで終えられて嬉しいです! 今後も楽しみにしてます! 良いお年を!
[気になる点] 街の名前がゼンディアとセンディアでブレています
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