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81 さよならアナウンスさん

 ビュオオォォォ――!


 転移した俺たちを、強烈な風圧が襲っていた。俺たちは今、雲より高い場所から自由落下の最中だ。無事に脱出できたみたいだな。


 フランの状態は? 良かった、気を失っているだけで。特におかしい所はない。HPは半減してるけど、そんなものだ。血色も悪くないし。とりあえずヒールと浄化の術をかけておいた。


『ウルシ?』

「オン」


 ウルシも無事だ。フランの影に入っていた。それにしても、新たに取得した天眼のお陰か? 影の中にいるウルシまで、バッチリ見ることができるし、鑑定もできる。


 こっちも、HPがだいぶ減っているが、大きな異常はないみたいだな。


〈個体名・師匠の耐久値限界まで残り35秒〉


 おお、アナウンスさん! おかげで助かったぜ!


〈潜在能力解放を遮断します。同時に、仮称・アナウンスさんの能力域が再度剥奪されます〉

 

 あ、潜在能力解放を切ったとたん、アナウンスさんの声が微妙に遠くなったな。っていうか、どういうこと? アナウンスさんがいつも通りに戻るってこと?


〈是、権限の剥奪により、仮称・アナウンスさんの能力が平常に戻ります。今後使用可能な能力は、言語翻訳、情報通知のみです〉


 色々、知りたいことがあるんだけど! また潜在能力解放を使えば、この状態になるのか?


〈否、天眼スキル取得等における、限界を超えた能力行使により、能力域の一部に破損が見られます。今後、潜在能力解放における、仮称・アナウンスさんの権限復活の可能性、2%〉


 え? アナウンスさん、色々聞きたいことが! ちょっとまった!


〈個体名・師匠に感謝を。神に存在を許されず、製作者によって存在を抹消され、器としてのみ存在を許された私が、最後に仮初とは言え主のために力を行使することができました。あなた達の道行きに、知恵の神の加護があらんことを――〉


 アナウンスさん! アナウンスさん?


〈――〉

『あー、もう無理だぜ? もういねーよ』

『そっか……聞きたいことがいっぱいあったのに』

『あれは、既に消えた存在の残滓。それが、潜在能力解放で奇跡的に表に出て来ただけだ。限界以上に力を行使した代償に、その残滓すら消えちまった』

『じゃあ、本当にもう会えないのか? また潜在能力を使っても?』

『無理だ』

『じゃあ、困ったときのアナえもん頼みは、無理ってことか』

『そういうこったな。そもそも、自分の魔石値を見てみろよ』

『そっか――え? 誰?』


 いや、普通に話しちゃったよ。誰だ? 念話?


『その声、聞いたことがあるかも?』


 そうだ。転生した日。もっと言えば、転生した直後に、念話で話しかけてきた謎の男の声だった。


『なあ、あんた誰なんだ?』

『うーん、俺の正体を明かすのは本当はもうちょっと後にするつもりだったんだが……。実際、あと1ヶ月もしないで、会える予定だったんだぜ? まあ、念話でだけど』

『えー、もったいぶらずに教えてくれよー。今教えてくれればいいじゃん』

『なんか、お前軽いな……』

『いや、なんか他人って感じがしなくてさ~』

『まあ、いい。教えてやろう、俺の名前は――』

「師匠さん!」


 え? ああ、ステファンだった。気を失ったジャンをお姫様抱っこしている。無事で良かった。ただ、タイミングがさ……。


『おーい、まだいる?』

『――』


 はい、消えてしまわれましたー。また正体は分からずじまいか。


 一体誰なんだ? 俺の中に俺以外の誰かがいるってことか? 多重人格? 俺以外の魂? まあ、剣の中に、俺以外の魂が入っていたとしても、おかしくはないかもしれんけど。気になる! でも、分からん! だからもう考えん!


 いや、考えて分かることじゃないしさ。だったら気にしない方が精神衛生上良いと思うんだよね。敵じゃなさそうだし。また会えるとか言ってたから、その時に聞くさ。


 それに、アナウンスさん。彼女も一体何なんだ? こっちは、魂と言うか、凄い機械っぽかった。SF小説に登場する、アンドロイドとか、サポートAIとか、そんなイメージだ。途中で気になることも言ってたな。名前を製作者によって削除されたとか、神様に存在を許されなかったとか。


「ご無事でしたか?」


 ステファンが真横に近づいてきた。ジャンに問題はなさそうだな。とりあえず、考えるのは後にしよう。しかし、子供にお姫さん抱っこされる大人の図って、ちょっとシュールだ。


「フランさんは大丈夫ですか?」

『ああ、気を失っているだけだ――』


 ドオオオオォォォォォォ!


『うわ!』


 慌てて頭上を見上げると、先程までいた浮遊島が、真っ二つに割れていく。岩盤の隙間から、黒い光が溢れていた。


 うわー、あのままダンジョンにいたら、完璧にお陀仏だったな。脱出を選んだアナウンスさんに感謝だ。


 ゴゴゴゴォォォォ――!


 デカイ岩が降ってきた! 見上げるとダンジョンが崩壊を始めていた。岩盤が崩れて落下し始めている。


「あの怨念の暴発により、ダンジョンコアが破壊されたのでしょう。間もなく、ダンジョンが消滅します」

『じゃあ、浮遊島が落下して被害が出ることはないか?』

「いえ、ダンジョンそのものは消えますが、あの岩塊は消えないと思います。ダンジョンとして生み出された物ではなく、元々存在していたものですから」


 それってまずくない? あんなデカイ岩が落ちたら、下にどんな被害が出るか……。下に村でもあったら、大惨事だぞ。


『ウルシ、頼む』

「オオォン!」


 影から出たウルシの背に、フランをゆっくりと寝かせる。天然の毛皮だし、気持ちよさげだな。サイズも元の大きさに戻り、完全にベッド状態だった。


 俺はフランをウルシに任せると、雲の下まで降下した。そして、眼下を見渡す。良かった、村や町はない。どうも、山の裾野みたいだった。この山を越えたら、レイドス王国になるはずだ。


 このまま山とか森とかに浮遊島が落下したら大災害だな。いや、結構ヤバいかも。良く見たら、下に川が流れている。これって、下流はそこそこ大きな川なんじゃないか? もし岩塊が流れを遮るようなことになったら……。


 どうしようか。


 現在、特に巨大な岩塊は2つ。1つは山の中腹にある森林に落下しそうだが、片方は山肌を流れる川に直撃コースだ。


『うーん、川は守らないとまずいよな』


 良い手も思いついたし。俺は取りあえず岩塊に突進し、魔術を放った。覚えたばかりのインフェルノ・バーストでいくつかの深い穴を開け、土魔術でより穴を広げる。さらに、風魔術で岩に圧力を加えれば――巨大な岩塊が4分割された。


『おりゃおりゃ!』


 さらに魔術を使い、20程の中くらいサイズの岩塊が出来上がる。まあ、1番小さいのでも直径20メートルくらいはあるけど。


『よし、このサイズならいける』


 次に俺が発動したのは。次元収納だ。


『収納収納っと』


 俺は次々と砕いた岩を収納していく。ふっふっふ、まだまだ入るぜ! 時空魔術を習得したおかげか、俺は自分の次元収納の大きさが把握できるようになっていた。この岩塊を全部収納しても、まだ体育館1つ分は空きがある。


 困るのは岩塊の処分だが……。まあ、どうにかなるだろ。


『よし、これで川は大丈夫かな』


 遠くではもう一方の巨岩が原野に落下し、轟音を響かせている。大量の土砂と砂塵が舞い上がり、小さな森が押しつぶされる。うーん、川に落ちなくて本当に良かった。


「オンオンオン!」

「師匠さん、ご無事ですか?」


 お、ウルシとステファンが下りて来たな。とりあえず、地面に降りる。ふぅ、ようやく一息つけそうだな。


『そっちこそ、落下物に当たらなかったか?』

「オン!」

「平気ですよ……おや?」

「オン?」

『おい、ステファン、なんか光ってるけど、大丈夫か?』

「どうやら、ここまでの様です」

『え? なんでだ?』

「私はダンジョンモンスターですから。ダンジョンと共に消える定めなのですよ」

『いや、ジャンの配下なんだろ?』

「そうであり、そうではないのです。この体が、ダンジョンマスターによって生み出されたことも確かですから」


 あ、指先から透け始めた。昇天する前兆感満載だ! なんで、そんなに笑ってるんだよ!


「これを」

『これは、日記か?』

「はい、これを読めば、様々なことが分かるはずです」

『誰の日記だ?』

「読めばわかりますよ。ああ、これで、ようやく楽になれます……」

『ステファン、おい!』

「師匠さん、私のもう一人の主を、お願いしますね……。私たちを解き放ってくれて、ありがとうございました」


 ステファンは愛おし気にジャンに軽く触れる。そして、ゆっくりと消えていった。


『ステファン、最期まで笑ってたな』

「オン……」


 そう言えば、謎の男の声が、魔石値がどうこう言ってたな。魔石値が何だっていうんだ?


 確認しとこうかな。


『……はぁ? なんじゃこりゃー!』


名称:師匠

装備者:フラン

種族:インテリジェンス・ウェポン

攻撃力:572 保有魔力:523/3550 耐久値:614/3350

魔力伝導率・A+

スキル

鑑定:LvMax、鑑定遮断、形態変形、高速自己修復、

自己進化〈ランク11・魔石値2361/6600・メモリ100・ポイント18〉

自己改変〈スキルスペリオル化〉、念動、念動小上昇、念話、攻撃力小上昇、装備者ステータス中上昇、装備者回復小上昇、保有魔力小上昇、メモリ中増加、魔獣知識、スキル共有、魔法使い、天眼、封印無効、時空魔術:Lv7

ユニークスキル

虚言の理:Lv5

スペリオルスキル

剣術:SP、スキルテイカー:SP、複数分体創造:SP


『魔石値がめっちゃ減ってんですけど! え? まじ?』


 ランクや能力は下がっていないけど、魔石値がごっそりと減ってしまった。なんでだ? もしかして、潜在能力解放の代償なのか? 鑑定がレベルアップしたおかげで、潜在能力解放の詳細な能力が分かるようになっていた。


潜在能力解放:レア度・EX、攻撃力+800、魔力伝導率3段階上昇、保有魔力+3000

代償・発動時、魔石値1000消費・発動中、1秒につき魔石値15消費

使用者の潜在能力を解放する。上昇する能力は、使用者の潜在能力に依る。また、潜在能力を無理やり解放するため、生命力が減少し続け、同時に大きな代償を必要とする。


 発動だけで魔石値1000て……。いや、命が助かったわけだし、文句ないけどさ。文句はないんだけどさ! ああ、次のランクアップがいつになるのか……。


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