表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
822/1337

820 ナディアとの共闘

 フランとナディアが顔を見合わせ、ニヤリと笑い合う。そして、同時に抗魔へ向かって突進した。


「たぁぁ!」

「どらぁぁぁ!」


 抗魔たちがフランたちを迎え撃つために身構えた瞬間、フランたちが交差するように跳んで互いの獲物を入れ替える。


 何の事前打ち合わせもなくこれだけの動きをするとは、驚くほどの息の合いようだ。


 だが、相手の鉤爪騎士も雑魚ではない。このくらいの奇襲であれば、即座に対応して迎撃の動きを見せていた。


 腕の盾で受け止めるつもりなのだろう。


『本命はこっちだがな!』


 しかし、それも想定済みなのだ。一瞬でも気を惹ければ、十分だった。


 俺の放った鋼糸が、鉤爪騎士たちの足に巻き付く。糸を幾重にも束ねた、太く強い縄――ではない。


 むしろ、細かった。


 細く。ただひたすら細く。目視することが困難で、頼りないかどうかを論じるに値せぬほどに細い。そんな糸を生み出してみたのだ。


 あっさりと切れてしまいそうだが、そんなことはなかった。抗魔の足にしっかりと食い込んでいる。


 ありったけの魔力を流しているのだ。ちょっとやそっとで切れる訳がなかった。


 それに、ただ強靭なだけではない。


「ギィィィ?」

「ギャガッ?」

『成功だ!』


 細い糸が抗魔たちの足に食らい付き、深々と切り裂いていた。人間であれば、肉を裂いて骨に巻き付いているような感じだろう。


 まあ、抗魔どもに骨格なんざないけどね。


 残念ながら切り落とすことはできなかったが、その動きを阻害することはできている。


 普通の鋼糸を100本生み出すよりも、上級抗魔さえ切り裂ける極細糸を1本作る方がよほど消耗が激しいが、少し無理をした甲斐はあっただろう。


「はぁぁぁ!」

「くらえぇ!」


 バランスを崩した鉤爪騎士を、フランとナディアがそれぞれ斬り捨てる。


 その姿を見ていて、俺は不思議な一致感を覚えた。フランとナディアの姿が、なぜか被って見えたのである。


 2人の構えは、何故か非常に似ていたのだ。


 同じ黒猫族だからか?


 しかし、武器のサイズも、重さも、本人たちの身長も違うのだ。それで、ここまで似た印象を受けるだろうか?


 同じ流派というわけじゃない。そもそも、フランはどこかの流派の剣術を使っているわけじゃないし、それはナディアも同じだ。


 いや、今は戦闘に集中せねば。


「ルウウウウオオオォォオォォ!」

「ぐがっ!」

「ナディア!」


 フランたちが2体の鉤爪騎士を倒した直後、ナディアの体が大きく弾き飛ばされていた。いつの間にか接近してきたボス――捻じれ角の攻撃を受けたのだ。


 オーバーグロウスで受け止めたのでダメージはないようだが、鉤爪騎士の追撃を受けている。あのままいくと劣勢に追い込まれるだろう。


 こちらには1体だけだ。


 しかしフランは、焦ってナディアを助けに行こうとはしなかった。


「師匠! お願い!」

『おう!』


 ナディアがやつらを引き付けてくれている今がチャンスなのだ。俺たちが助けに入る前から、ナディアはこの状態で生き延びていた。


 ならば、すぐにやられてしまうことはないだろう。


『今のうちに、ボス以外を倒す!』

「ん!」


 今の捻じれ角の動きを見ただけで、戦闘特化型と言われていた意味が分かった。あの指揮官個体は、凄まじく強い。


 剣王術に迫るレベルの剣術に、今のフランやナディアと変わらぬ速度。そして、腕力や強靭さ、体力は圧倒的に上だろう。


 そんな相手を倒すには、まずは周囲の邪魔者を排除することが先決だ。それが結局、勝利への近道となるだろう。


『ナディアの顔……。抗魔の部分が少し広がったか?』


 ここまで一気に駆け抜けてきたが、それでも数分はかかった。ナディアの残り時間は確実に減っているだろう。


《個体名・ナディアが完全抗魔化するまで、推定6分43秒》


 多少のリスクは呑み込んで、速度と効率を重視するべきだった。


(師匠、おっきくなれる? それで、いっきにやる)

『なるほど。了解だ。まずは俺が仕掛けよう。フランはこいつを頼む!』

「ん!」


 フランのやりたいことを瞬時に理解した俺は、目の前の抗魔の相手をフランに任せ、再び飾り紐へと魔力を流し込んだ。


 まるで生き物のようにブルリと震えた飾り紐が、天へと向かって伸びていく。


 そして、十数メートル上空で一気にバラけて、一気に地上へと落下していた。まるで、晴天から降り注ぐ狐の嫁入りのように、数百の糸が地上を襲っている。


 狙いは捻じれ角以外の抗魔たちだ。ただ抗魔たちは、鉤爪と障壁でさほど苦労せずに防いでいる。


 まあ、1本1本の威力は低いし、個別に操っているわけでもないからな。仕方ないだろう。


 そもそも、この攻撃は抗魔を仕留めるための攻撃ではないのだ。


(師匠、さすが)

『いつでもいいぞフラン!』

「ん! はぁぁぁぁ!」


 頷いたフランがその場で俺を腰だめに構え、僅かな溜めの後に一気に振り切った。


 その瞬間、俺の刀身が一気に巨大化する。その長さは15メートル程だろう。


 以前海賊相手に使用した、斬艦モードである。まあ、今の方が長いし、使い手のフランも成長している。威力も速度も段違いに上だ。


 あの時は扱える限界が10メートルだったが、今のフランなら15メートルでも完璧に振るえるのだ。


 その証拠に、巨剣から繰り出されたその一撃は、普段と変わらぬ神速の太刀筋であった。


 未だに降り注ぐ糸と遊んでいる抗魔たちは、上に逃げることができない。しゃがめば躱せるだろうが、それをしては糸の餌食だ。


 地面に潜り込めば回避できるかもしれないが、そんなことをする余裕など与える訳がなかった。


「ギイイイィィィィ!」

「ギオオォォ!」


 この斬撃で、目の前にいたやつと、もう1体を仕留めた。1体は無理やり上に飛んで、俺を躱したな。糸は致命傷にならないと判断したのだろう。


 しかし、甘いのだ! 俺は即座に練り上げていた魔術を発動した。白い極雷が降り注ぎ、糸に絡みつかれて動きの鈍った抗魔を呑み込む。


 収束させたカンナカムイが大地に深い穴を穿ち、衝撃が地面を揺らす。


 凄まじい放電が収まった後には、抗魔の姿は欠片も残っていなかった。


 いくら魔術耐性が高いと言っても、俺が本気で放つ収束カンナカムイは防げないらしい。


 これで、斬艦モードの攻撃範囲内にいた抗魔たちは狙い通りに仕留めたな。本当はもっと長くもできるんだが、それをするとナディアまで巻き込んでしまうのだ。


「残りは、ボスだけ」

『おう! このままナディアと一緒にボスをやるぞ!』


次回は11/30更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 戦乙女のスキル(?)は使っているのでしょうか? 統合時に消えたのでしょうか? パッシブなのでしょうか? [一言] ここまで一気見しました。戦闘の描写がわかりやすくて読みやすかったです。…
[一言] 目指せ150m!どぅぶれあ!
[一言] 魔力が保つのか心配
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ