表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
818/1354

816 歌姫


 敵の本隊と思われていた、赤角騎士と黒い抗魔たち。赤角騎士は脅威度C相当。黒い抗魔たちは脅威度Dの下位。


 それが何千といるのだ。


 この軍勢だけで、小国なら滅んでしまうレベルである。


 しかし、抗魔たちにとってはこれでもまだ、本気ではなかったらしい。


「グルウウゥゥゥ……!」

「グラァァ!」


 地の底から響くような唸り声とともに現れたのは、全身真っ赤な、竜のような姿の抗魔であった。


 獣を模した抗魔、牙獣型の上位種だろう。


 フォルムは翼を持たない地竜に似ているが、その体はより細く、しなやかだ。地竜に猫科の獣の良い部分を足したという感じだろう。


 抗魔としては珍しく、感情が読み取れる。明らかに怒りの表情だ。


 それとも、竜の姿を真似するために、感情があるように見せているだけか?


 どちらにせよ、凄まじい迫力だ。


 体長3メートルほどの、この世界の獣としては決して大きいとは言い難いその体からは、本物の竜と勘違いしてしまいそうな存在感が放たれている。


 牙獣型は、この大群にはほとんど参加していなかった。序盤の、下級抗魔たちに交ざっていた程度だ。


 やはり密集した陣形において、人型の抗魔と連携を取るのが難しいからだろう。


 実際、他の場所でも牙獣型は、同種の群れや、少数の混成で現れることが多かった。


 周囲の抗魔たちが僅かに後退し、距離を取る。遠巻きにこちらを囲み、赤い竜たちを迂回するように動き始めた。


 フランたちの相手を赤い竜たちに任せ、他の抗魔は後衛を襲うつもりであるらしい。


 数の優位をわざわざ捨てたのだ。そこまでしてでも出てきたということは――。


「ガアアアァァ!」

「赤い角の騎士より、はやい!」


 この抗魔の大群でも、とびっきり強い切り札という事なのだろう。


 そんな赤い小竜が5匹。フランたちの前に立ちふさがっていた。


 消えるほどの速度で飛び掛かってきた赤い獣を、フランが剣で弾き飛ばす。しかし、相手にダメージはない。


 フランが本気で振るった俺を、その牙で受け止めやがったのだ。フランのパワーで弾かれたように見えたが、実際は赤い竜が自分で跳んだだけである。


 それぞれ、フォルムや特徴が微妙に違っている。多分、能力にも差があるだろう。似ているだけで、戦闘方法などが全く違うという可能性さえあった。どう考えても特殊個体だ。


「フラン、1匹は任せなさい!」

「竜人の誇りにかけて、紛い物には負けぬ!」

「熊の俺が竜を倒すだなんて、考えただけでワクワクしてきやすねぇ!」

「騎士が守りだけではなく、攻めも得手であるということを証明してみせましょう!」


 残った4匹には、それぞれの代表者たちが向かっていく。単純に強さだけで選べば、竜人の副長や、コルベルトでもいいんだが……。


 彼らは大人しく他の抗魔への対処に回る。4人それぞれが、誇りを持って前に出たのだ。ここは、彼らに譲ったのだろう。


 他の者たちは、左右から迂回しつつ迫ってくる抗魔の相手だ。こいつらだって、弱くはない。


 なにせ、先程までフランたちと激戦を繰りひろげていた、赤角騎士や黒抗魔たちなのだ。


「フランたちが、赤い竜に集中できるように、こっちは俺たちだけでやるぞ!」

「任せておけ!」


 コルベルトの言葉に、コゾンが自信満々に言い返す。ここで弱気を見せることが、仲間たちのメンタルに与える影響を分かっているんだろう。


「皆さん。私の力を本気で使います。しばらく動けませんから――任せますよ?」

「私の傍にいればいいわ。私もちょっと本気で歌うから、動けないし」

「オン!」

「狼さん、よろしくお願いしますね」


 あっちの守りは、ウルシとソフィの部下たちに任せるしかないだろう。それにしても、さっきまでソフィもツァルッタも本気じゃなかったんだな。


 となると、さらに凄まじい効果が? どうなるのか、ちょっと怖いぜ。


 俺がそう思った直後、再びソフィが演奏を始めた。


「魔楽奏・死せる勇士への葬送」


 ソフィの歌声が戦場を包み込む。


 先程よりもより悲壮で、抒情的だ。第一声を聞いただけで、無い胸が締め付けられるように感じた。


 望郷の念や、亡き友人への想い。そんな、心淋しさに似た、強い寂寞。酒でも入ってたら涙が止まらないかもしれないな。


 曲名の通り、それは葬送の詩なんだろう。過去の英霊たちの力が百人隊の面々に宿り、力を貸そうとしている。そんな風に思えてしまった。


 効果も驚異的だ。先程も凄まじいと感じたが、今回はそれ以上だ。


 段々と、胸を締め付ける苦しさが消え、安心感と自信が湧いてくるのが分かった。そうなのだ。この歌、俺にまで効果があるのである。これは有り難い。


「傷が、塞がる……!」

『それだけじゃない。魔力も少しずつ回復しているぞ』

《能力値上昇。回復力の増加。能力行使の補助。精神高揚効果が認められます》


 ステータスが上昇し、生命力と魔力がリジェネ状態で、スキルや魔術を発動しやすくなり、精神が高揚して戦闘に集中しやすくなる。


 先程の能力増加も残っているのに、さらにこれだ。


《ただし、戦闘後に反動が出る可能性98%》

『反動って、大丈夫か?』

《命の危険はないと思われます》


 なら、仕方ないか。むしろこれだけの効果を得られて、多少の反動がない方がおかしいだろう。


「はあああぁ!」

「ギャアルオオォ!」


 おっと、戦闘後の心配ばかりしていられないな。


「とっととこいつを斬る!」

『ああ、やってやろう!』


 ソフィの歌の効果だろう。相手がどれだけ強くとも、負ける気がしなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 運も力だね
[一言] これが廃墟化した村での出来事じゃなければ… 他の地域で同様以上だと魔境過ぎる
[一言] 逆に反動が起こらない2%ってどういう状況やねん
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ