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811 移動速度


 ノクタを出撃した100人の混成部隊は、小走りで平原を進んでいた。


 基礎能力が高い者たちばかりとはいえ、フランが全速力で走ってしまえばあっという間にぶっちぎってしまう。


 ついてこれるのはヒルトたち数人くらいだろう。


 それに、その進みは想定よりもかなり速い。


 理由の1つが、ソフィーリア――ソフィの範囲強化だ。


 彼女はRPGの吟遊詩人職のように、魔力を乗せた音楽で様々な現象を起こすことができたのである。バフデバフだけではなく、攻撃や回復まで可能であるそうだ。


「魔奏・地人の行進」


 出発直後、ソフィが小型のハープをポロンポロンと爪弾き始める。


 すると、彼女から温かい魔力が放たれ、100人を包み込んでいた。


 誰もが聞き惚れる。さすが演奏家だ。特殊な効果などなくても、この演奏を聞けただけでテンションが上がるだろう。


 だが、演奏の真価はそれではないのだ。ソフィが数分の曲を演奏し終わったとき、全員の内から力が湧くのが分かった。


 曲を弾いている間ではなく、演奏を終えると魔術的な効果が発動するらしい。演奏や歌唱が、呪文詠唱の代わりなんだろう。


「魔奏・疾風の如く」


 たて続けに奏でられた2曲目は、敏捷を僅かに上昇させる効果があるようだ。1曲目の体力増強と併せれば、進軍速度がかなり上がっただろう。


 驚くべきは、100人全員を同時に強化し、さらに長時間効果を維持し続けられるということだ。範囲型の補助魔法ですら足下にも及ばないのである。


 これほどのスキルを連続で使用していながら、ソフィは大して疲れた様子も見せない。実力の底が知れなかった。


 ともかく、これは予想外の拾い物と言えるだろう。あの時にソフィの分まで食事代を払ったフラン、グッジョブだ。


 まあ、そんな彼女自身はあまり速く走れないので、魔術職たちと一緒にウルシの背に乗っているが。


 もう1つの理由は、フランが新たに手に入れた称号にある。


 それは、集まった皆を率いてノクタを出発しようとした、その時であった。


《フランが称号、進軍の戦乙女を獲得しました》


 アナウンスさんの声が聞こえたのである。称号ゲット? だが、これって、獣人国で戦ったワルキューレが持っていた称号だよな?


 ワルキューレの種族固有称号じゃなかったのか?


『アナウンスさん、どういうことだ?』

《個体名:フランが、スキル構成、統率配下人数の条件を満たしたことで称号を獲得しました》


 どうやら、種族というよりも戦乙女スキルが重要であるらしい。あれも、ワルキューレの種族固有スキルだからな。


 それプラス、歩行補助や指揮などのスキルを所持し、一定以上の数の部下を指揮するというのが条件であるらしい。


 想定外だが、今はこの称号は非常に有り難い。



進軍の戦乙女:条件を満たした戦乙女に与えられる称号。

効果:100名以上の軍勢を率いた時、戦乙女の持つ隠密系、移動系スキルの効果が軍勢全てに及ぶ。直接指揮しない場合、その効果は大幅に減少。



 進軍速度が段違いに上がるだろう。その分、ナディアを救える確率は上がるのだ。


 フランたちにとっては小走り。だが、普通の冒険者から見れば恐ろしいほどの全力疾走ペースで、部隊はカステルを目指す。


「素晴らしい行軍速度ですな!」

「この分では、想定よりも大分早く到着できそうだ!」


 副官的な立場のヤーギルエールとチェルシーが、感嘆の言葉を口にしている。普段から大軍を指揮する彼らからすると、この速度は異常なのだろう。


 ただ、この速度は彼ら2人のおかげでもあった。


 フランを部隊の長と考え、身分も権力もある2人がしっかりとその下に付くという姿勢を見せてくれたことで、他の冒険者たちもフランの部隊であるという認識を持ってくれたのだ。


 それにより、複数勢力が入り交じるこの部隊において、指揮系統がしっかりと確立されていた。


 称号を得ることができたのも、参加者がフランをボスと認識してくれたからだろう。


 簡単にこの部隊の役割を語るなら、大将フラン。副官、ヤーギルエール、チェルシー。特攻隊長ヒルト。後方支援ソフィ、ツァルッタ。舎弟ディギンズ。冒険者のまとめ役コゾン。そんな風になっている。


 ああ、輜重隊長兼索敵もフランだな。


 ムルサニがこれでもかと持たせてくれた大量の食糧と薬品類が、フランの次元収納に仕舞われている。多分、この部隊だけなら1ヶ月くらいは戦えるんじゃなかろうか?


 道中、群がってくる抗魔たちを相手に、連携を確認していく。


 基本は、フランやヒルト、チェルシーたちが前衛に出て、それを他のメンバーがサポートするような形だ。


 戦士はフランたちの背後を守り、魔術師が遠距離攻撃をしてくる敵を狙い、ソフィが後ろから演奏と回復で支える。


 我の強そうな者ばかりが集まった即席混成部隊にしては、驚くほど統制がとれているだろう。


 それと、ツァルッタの所持している例のスキルについても検証を行わせてもらった。


 こっそり教えてもらったスキル名は、『邪神の夜話』。能力は非常に単純で、邪気を持つ者を眠りに誘うという効果があった。


 純粋な邪人ではないため、抗魔に対しては完全な力を発揮しない。しかし、眠気によって動きが鈍るだけでも十分強力だった。


 ソフィの魔曲演奏と、ツァルッタの邪神の夜話。さらに、チェルシーやヤーギルエールのもつ部隊強化スキル。


 それらが合わさることで、この百人隊は凄まじい戦闘力を発揮することができるだろう。


「この部隊なら、きっとおばちゃんを助けられる」

『ああ、そうだな』


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― 新着の感想 ―
後世、フランは 幾つの二つ名で語られるのだろう? 『魔剣少女』 『黒雷姫』 『黒猫聖女』 『進軍の戦乙女」 ・・・ まだまだ増えそうですね!
[一言] 今ここで戦乙女のスキルってところがエモい
[一言] 前回と合わせ、フランと師匠(あとウルシもなー)が歩んできた道程が感じられる良い巻ですね!
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