810 揃う縁
「……腰抜けと言われちゃ、俺たちも黙っているわけにはいかんな」
そこにいたのは、口調とは裏腹の楽し気な表情を浮かべた冒険者だ。
「……宴会の時の」
「コゾンだ。お嬢ちゃん」
ノクタでも有力者の一人と言われていた、ランクB冒険者のコゾンであった。
「飯を食い、一緒に歌えば友だ。ならば、友のために俺たちも参加せねばなるまい?」
そう言って、コゾンがニヤリと笑う。
「コゾン。あなたたちは――」
「サブマス、こんな時期なのに済まんな。だが、ナディアさんにはルーキーの時に散々世話になったんだ」
そうか、今は抗魔の季節なんだ。冒険者たちにとっては、今の住まいであるノクタの防衛をせねばならない。
カステルの依頼なんて受けている場合じゃないってことか……。
それでもコゾンら数名が立ち上がったのは、義理や恩以外の理由はないだろう。だからこそ、その気持ちが嬉しい。
元々、依頼を受けてくれるつもりだったらしく、準備が万端だ。
「よろしく頼むぜ、肉の嬢ちゃん!」
「俺たちもいくからな!」
「ん。一緒にがんばろ」
「「「おう!」」」
ノクタの冒険者が15人加わり、およそ80名。戦力的には十分だが、数は――。
「ねぇ。人数足りてる?」
「え?」
またまた、ギルドに人が入ってきた。誰かがギルドの前からこっちを覗いているのは分かってたんだが……。もしかして、入るタイミング窺ってたのか?
数人の集団の先頭にいるのは、見覚えのある少女である。
「あなたは……?」
サブマスも少女の顔を知らないらしい。首を傾げている。やはり、彼女はこの町の冒険者じゃないんだろう。
「私のことはソフィと呼んで」
颯爽と現れたのは、食い逃げ少女ソフィーリアであった。彼女の背後には、大柄の戦士たちが控えている。
明らかにソフィに付き従っている様子だ。
「あなたのこと探してたら、冒険者ギルドで無茶な依頼を出してるっていうじゃない? ちょうどいいから、私が力を貸してあげるわ」
「……いいの?」
「借りを返すだけよ」
ソフィーリアはそう返すが、背後の男が慌てている。
「お、お待ちを! せい――ソフィ様! 激励にきただけなのでは?」
「違うわ。私も一緒に行く」
「あのような危険な依頼を受けるなど! 許されません!」
男が必死な形相で訴えるが、それを聞くソフィの表情は冷めきっていた。
「誰が許さないというの? 私は誰かの部下でも配下でもないわ」
「あの方に知られれば、我らが怒られてしまいます!」
「道具の意思など、考慮するに値しないってことかしら?」
「そ、そのようなことは! なぜそのような聞き分けのない事を……! あの方の言うことをお聞きになっていればよいではないですか!」
やはり、いいとこのお嬢様か? 男はソフィを完全な上位者として扱っているが、それ以上に憚る相手がいるらしい。
「……もう、いいわ。別に最初から期待していないし」
ソフィが失望するように溜息を吐く。
「嫌ならあなたたちだけで帰りなさい。それとも、無理やり連れ帰る?」
「……わ、我らもお供します!」
「というわけで、10人くらい増えても構わないかしら? 頼りなく見えるかもしれないけど、役に立ってみせるわ」
「……ん。大歓迎」
「ならよかった」
おいおい、身内のゴタゴタを持ち込まれるのは勘弁だぞ? まあ、男たちもそれなりに強いし、後衛の護衛役にすればいいか。
これで90名。戦力的には申し分ないが、ここまできたらあと10人欲しいな。
100人いれば、ナディアに対して一切後ろめたいところなく、救援に向かえるのだ。
そんなことを考えていたら、10数人の集団がギルドの前で足を止めたのが分かった。これは、もしかして――。
「やはりこうなりましたか」
「ムルサニ!」
「3日ぶりですね」
やってきたのは、ムルサニであった。一緒にいるのは、屈強な冒険者たちだ。
「フランちゃんは、昔のナディアによく似ています。自然と人を惹きつける何かがある。こんな時期であっても、人が集まってしまうのではないかと思っていたんですよ……」
悲しそうな、困っているような。しかし、どこか嬉しそうな顔で、ムルサニが呟く。
「彼らは、私の商会で雇った冒険者たちです。連れて行ってください」
「よろしく頼む。ゼーハルドだ」
巨大な槍を背負った黒肌で長身の男が、ムルサニの連れてきた冒険者たちのリーダーであるらしい。
意外にも人懐っこそうな笑顔で、握手を求めてくる。
「ムルサニさんから依頼料もたんまりだからな。しっかりと働かせてもらうぜ?」
「生きて帰ってきてください」
「ん。勿論」
「ゼーハルドさんたちも、彼女をくれぐれもよろしくお願いしますね?」
「おう。最悪、この10人だけだと思ってたんだ。それがこの大所帯だぜ? 任せとけ」
フランが少人数でカステルに向かってしまうことも考えて、他の町などから有力な冒険者を連れてきたらしい。
彼らをフランの護衛として、同行させるつもりだったのだろう。
その数は10人。これで――。
「100人超えた!」
『ああ。そうだな』
済まん、ナディア。うちのフランは、想像以上に人望と人脈と運があったらしい。こうなっちまったら、もう止まらないぞ? 大人しく、救出されてくれ。




