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79 怨念

 ジャンの配下にダンジョンの施設を破壊され、リッチが激怒している。


 顔は髑髏なのに、怒っていると分かるのが不思議だ。


『弱体化したんなら、付け入る隙はあるかもしれない!』

「ん!」

「なんだその面は? もしかして。吾輩を倒せるなどという、甘い希望を抱いているのではあるまいな! 良かろう、冥途の土産に見せてやる。どうやら、鑑定を持っている様であるしな!」


 どうやらリッチが、鑑定の邪魔をしていたスキルを解除したようだ。見えていたステータスに変化が起きる。



種族名:リッチ:死霊:魔獣:ダンジョンマスター Lv71

HP:4863 MP:7467 腕力:934 体力:737 敏捷:666 知力:2369 魔力:4312 器用:1207

スキル

詠唱短縮:LvMax、風魔術:Lv7、鑑定妨害:Lv5、恐慌:Lv9、恐怖:Lv7、再生:LvMax、時空魔術:Lv7、呪言:Lv6、瞬間再生:Lv4、死霊支配:LvMax、死霊魔術:LvMax、精神異常耐性:Lv9、生命感知:Lv6、生命吸収:Lv7、大海魔術:Lv3、体術:Lv7、大地魔術:Lv3、土魔術:LvMax、読心:Lv4、毒魔術:Lv8、火魔術:Lv6、魔力感知:Lv7、魔力吸収:Lv7、水魔術:LvMax、冥府魔術:Lv8、闇魔術:Lv5、詠唱破棄、状態異常無効、死霊強化、封印無効、魔力操作

ユニークスキル

怨念吸収、怨念変換、鑑定偽装

エクストラスキル

大怨霊、不浄の理:Lv8

称号

大罪人、復讐者

装備

恨みのローブ



『……やばい。フラン! 絶対に気を抜くな!』

「ん!」


 甘かった! これほどの強さだったとは! 奴が本気になったら、瞬殺もあり得る。


 だが、スキルが明らかになったおかげで、こっちの攻撃を透過させていたスキルが分かった! いや、正確には、ジャンが看破した。


(師匠君、分かったぞ。時空魔術だ。時空魔術のディメンション・シフトという術だ)


 ディメンション・シフトはその場で短時間、異空間に転移し、敵の攻撃を躱す術らしい。消費が大きすぎるため、連続使用はできないはずなのだが……。リッチの魔力と詠唱破棄スキルがあれば、いくらでも使用可能だろう。


「オーバーロード・アンデッド・サモニング」


 リッチが配下を召喚する。今までの様な様子見のアンデッドではない。いや、今までだって十分強かったが、現れたのは強力な魔道具で身を包んだ、10体のレジェンダリースケルトンたちだった。さすがに潜在能力解放は持っていないが……。


「嬲り殺せ!」


 リッチの命令で一斉に襲い掛かってくる骸骨たち。今までよりも数は少ないが、個々の技量は段違いに高い上、連携も出来ている。


「ハイ・アンデッド・サモニング」


 さらに、間髪容れずリッチが呼び出したのは、無数の蟲型アンデッドだった。骸骨と戦うフランに、無数の蟲が集ってくる。


『くそっ! こっちくんな!』


 風魔術で吹き飛ばしても、全然減る様子もない。少しずつフランの動きが阻害され始める。


「ヘル・ブラスト!」

「ヴェノム・バレット!」

「グラビティ・プレッシャー!」


 しかも、リッチが詠唱破棄で高位呪文を連発し始めた!


「ぐぅ!」


魔力障壁にありったけの魔力を込めるが、ダメージを防ぎきれない。


『フラン、躱すんだ!』

「ん」

「カカカカ!」


 呪文を躱そうとするが、アンデッドたちに阻まれて逃げることも出来ない。あっと言う間にフランのHPが半減してしまった! ヒールが間に合わん!


「――ハイ・アンデッド・サモニング!」


 追い込まれたフランを助けるため、ジャンが配下を召喚した。


「出でよ、ステファン!」


 おお! 敵のレジェンダリースケルトン達にも劣らない、強い魔力! 鑑定遮断を持っているのか、鑑定はできないが、魔力の強さは確実に脅威度Bだ。


 骸骨たちもそちらを警戒してか、動きが鈍った。


 ただ、外見はあまり強そうじゃないな。なにせ、人間の子供みたいな姿だし。目が真っ黒で眼球がないことと、ジャンが死霊召喚で呼び出したのでなければ、アンデッドだと分からないかもしれない。


「その個体は……! 吾輩も知りたいものだな。どのような手妻を使った?」


 リッチも怒りとは違った、驚きの混じった声を上げる。驚きすぎて、攻撃の手が止まったほどだ。


 なんと、ジャンが召喚したのは、死霊喰らいだった。え? すでに所有済み? リッチだけじゃなく、俺達まで驚きだよ。


 この死霊喰らいは、このリッチの配下として生み出された個体らしい。なのに、今ではジャンに従っている。


 アンデッドを支配するには、死霊魔術や、死霊支配スキルを使えばいい。だが、相手は強大な魔力を持ち、遥か格上のリッチに支配されている死霊喰らいだ。いくら優秀とは言え、ジャンが支配できる様な相手ではない。


「これでも、死霊術師の端くれなのでね。死霊喰らい対策は色々と準備していたのだよ」


 ステファンと言うのは元々、対死霊喰らい用に用意していたレイスの名前らしい。そのスキルは、死霊耐性、吸収耐性、侵食融合の3つだけ。その戦法は至極シンプルだった。


 まずは、わざと死霊喰らいに食べられる。普通は、そこで死霊喰らいに吸収同化されてしまう訳だが、ステファンは死霊耐性、吸収耐性を持っていた。この2つのスキルで吸収されることを防ぐのだ。そして、侵食スキルで、逆に相手を侵食して支配する。


 まあ、以前このダンジョンに来たときはあっさりとステファンが死霊喰らいに食べられ、しかも死霊喰らいがステファンに侵食される様子もなく、ジャンも計画が失敗したと思っていたらしい。


 しかし、ステファンは負けたわけではなく、数年かけてゆっくりと死霊喰らいを侵食し、支配に成功したのだ。


 そして、再びダンジョンに訪れたジャンに、念話でコンタクトを取ってきたという訳だった。


「くかか! 面白い! 良かろう。貴様は殺した後に、配下として使ってやる! その発想力、吾輩の悲願達成に生かすがいい!」

「断るよ」

「貴様に拒否権などないわ!」


 ジャンが時間を稼いでいる間、俺達は死霊喰らいと連携して、スケルトンたちを半減させていた。


 死霊喰らいの強さが凄まじい。いや、対死霊戦の場合は、無敵なんじゃないか? ちょっと触れたら、それで死霊の魔力がごっそり削られ、死霊喰らいの魔力が跳ね上がるのだ。相手もうかつに攻撃できない。


 注意がジャンに向いているせいで、リッチの動きが止まっている。スケルトンの圧力も半減した。今しかない。


『ジャン、俺が奴の時空魔術を封じる。杖は使えるか? もし、杖を使うのが危険なようなら――』

(問題ない)

『じゃあ、起動してくれ。こっちが合わせる』

(分かった)


 俺はリッチの動きに集中する。そしてジャンが、再び杖を頭上に掲げた。


「冥王の祝福、起動」

「ほう。またその杖か。吾輩には効かぬぞ? それとも、スケルトンどもを倒すか? 構わん。それで貴様の命が尽きるのであれば、状態の良い死体が手に入るしなぁ!」

「怨嗟と恩讐に囚われし、救われぬ魂に――」

『スキルテイカー!』


 成功だ。奴の時空魔術:Lv7を奪ってやった!


「――安らかなる眠りを。冥王の祝福よ、あれ」

「無駄無駄……! なにぃ! 何故だ!」


 リッチの奴、慌ててやがるな。そして、そんな無様な姿をさらすリッチを、冥王の祝福から発せられた光が包みこんだ。


「馬鹿な! 吾輩が、こんなところで!」


 光の向こうから、リッチの断末魔の声だけが聞こえてくる。まだ消滅しないのか。

 

「ぐあああああ、浄化されるぅ! 我が怨念がっ! 消える! ぬぁぁぁぁぁぁああああああ――!」


 さすがリッチ、耐えるな。それだけ怨念が強く、昇天させるのに時間がかかっているのか?


 そして、光が消えた時、そこには未だに健在なリッチの姿があった。


『野郎、耐えやがった!』


 だが、様子が変だ。


「ああああああああああああ――」


 大量の魔力が、リッチに流れ込んでいた。ダンジョンマスターとしての能力か?


「なんか、変?」

「周囲から怨念を吸収しています」

「どういうこと?」


 フランの疑問に応えたのは、ジャンではなかった。ジャンは息も絶え絶えで、地面に倒れ伏している。フランがスタミナポーションで回復してやっているが、危険な状態だろう。


 代わりに応えたのは、死霊喰らいのステファンだ。言葉も流暢で、マジで人間みたいだな。


「奴の持つスキルの効果です。不浄の理は、他のアンデッドから怨念を吸い上げ、自らの力に変えるスキル。それで、怨念炉から解放された怨念の残滓を、かき集めているんです。私には、抵抗があるのでほとんど効果がありませんが」


 怨念炉と言うのが、ステファンが破壊したダンジョンの施設らしい。その名の通り、アンデッドが放つ怨念を動力とし、魔力を生み出す装置だ。このダンジョンのアンデッドたちから怨念を集めた結果、凄まじい魔力が蓄えられていたようだ。それも、破壊されて散り散りとなってしまったが、蓄えられていた怨念は消えることもなく、このダンジョンに漂っていたらしい。


 リッチは不浄の理と言うスキルで、その怨念を吸収し続けているのだ。怨念を浄化し昇天させる、冥王の祝福に対抗するために。


リッチにはユニークスキル怨念吸収、エクストラスキル大怨霊という、怨念を自らの力に変えられるスキルがあり、吸収すればするほど力が高まっていくのが感じられた。


「ぐがががががががががあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――」

『ちょっと、様子が変じゃないか?』

「一度に大量の怨念を吸収し過ぎたのでしょう。何万もの怨念が集合して、とてもではないですがまともな意思などない状態です。おそらくリッチ自身も、最早まともな思考は残っていないものと……」


 それって、不味くないか? 暴走状態ってことだろ?


『もう1回、冥王の祝福だ!』

「無理です。主の命が持ちません」

『お前は使えないのか?』

「ネームドアイテムは、認められたものしか使えないのです。主以外には……」


 ジャン専用のアイテムってことか! くそ、魔術を撃ちこんでみるが、黒い瘴気のようなオーラに弾かれ、全く効果がない。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――」


 やばい! リッチの体から怨念が溢れだした。黒いオーラが、凄まじい勢いで膨れ上がっていく。危機察知を使うまでもなく、あれがやばいものだと分かる。


「実体化するほど濃密な怨念です。生者が呑み込まれれば、あっと言う間に命を失うでしょう」


 言われなくても分かってるよ! 転移の羽は――だめだ! 奪ったばかりの時空魔術:Lv7は……これもだめだ! リッチの奴は封印無効スキルを持っていたから、時空魔術が封印された部屋でも問題なかったんだろう。


 倒れたままだったジャンは、ステファンが抱きかかえている。


「主は私が何とかします! ただ、あなた方までは……」

『なんとかならないか!』

「すいませ――」


 少しだけ前にいたジャンたちが飲み込まれた!


『フラン、魔力障壁を全開にしろ! それで、浄化魔術で結界を張れ!』

「ん!」

『形状変化!』


 俺は自らの形状を大盾状に変化させた。厚みは薄くなるが、今はフランを覆い隠せることが大事だった。そして、魔力障壁を全開にする。俺とフランの二重の障壁で怨念を防ぐ! 勿論、魔法使いスキルでオーバーブースト済みだ。


『ぐううううう』


 障壁が軋む。やばい、このままじゃ障壁が破られる! 俺自身の耐久値も、凄まじい勢いで減り始めたぞ!


「し、しょう」

『フラン!』


 怨念の勢いが強すぎる! フランの障壁にも凄まじい圧力がかかり、それを維持するフランにも凄まじい負担がかかっていた。

 

 このままでは遅かれ早かれ障壁は破壊され、怨念に飲み込まれるだろう。

 

 何かないか? 現状を打開できるスキルは? 自己進化ポイントもまだ残っている。物理障壁? 浄化魔術?


 いや、1つ使っていないスキルがあった! これで障壁が強化出来れば、浄化魔術に。それでも強度が足りなければ、物理障壁にポイントを振ろう!


『うおおおぉぉぉ! 潜在能力解放ぉぉぉ!』


 その瞬間、俺の中から膨大な魔力が溢れだした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 犯す、なんてまるで生者みたいな発想するアンデッドだねこのリッチー。
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