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78 VSリッチ

 光が収まると、目の前に強大な魔力を放つ死霊が居た。その存在を目の当たりにするだけで、肌が泡立つような寒気を覚える。


 悪霊の王、リッチ。最悪にして最強の死霊だ。



種族名:リッチ:死霊:魔獣:ダンジョンマスター Lv23

HP:863 MP:2467 腕力:134 体力:337 敏捷:366 知力:1009 魔力:1098 器用:366

スキル

詠唱短縮:Lv7、恐慌:Lv4、恐怖:Lv4、再生:Lv6、死霊支配:LvMax、死霊魔術:LvMax、冥府魔術:Lv4、怨霊、魔力操作

装備

ボロのローブ


 リッチと言えば。最も有名なアンデッドにして、最強と名高い。


 だがステータスを見て、俺は内心で首を傾げた。本当にこの程度のステータスなのか? 発せられる威圧感。感じる恐怖。脅威度Aと言われても納得できる。アンデッドは個体差が大きいとはいえ、本当にこんなものなのだろうか。これでは、せいぜいが脅威度Bの範疇だ。


「オーバーロード・アンデッド・サモニング」


 転移を封じられた衝撃で未だに混乱中の俺たちを余所に、リッチはアンデッドを召喚する。


「まずは、こ奴らが相手だ。あっさりと死んでくれるなよ? くかかかか!」

「オオオオオォォォ」

「ウァァァ」

「グルオォ!」

「――――」

「――」

「――」


 10体ものアンデッドが、同時に召喚される。しかも、1体1体が脅威度Cを超えていた。半分は脅威度Bに達している。あれだけ苦戦したレジェンダリースケルトンと同格のアンデッドだ。


『フラン』

「ん、最初から本気」


 俺たちは決死の覚悟で魔力を練り上げる。先制攻撃で、数を減らす。そして、隙をついてリッチを倒す。


 だが、そんな俺たちを制したのは、スッと前に進み出たジャンだった。


「ここは我に任せるがいい!」

『……大丈夫なのか?』

「うむ、この杖の力があればな」


 ジャンは相変わらずの太々しい笑みを浮かべている。だが、どこか悲壮というか、覚悟を決めた様な印象があった。なんでだ?


「ふはははは、我が切り札を受けるがよい!」

「オオオオォォ」

「ウオォ」


 ジャンは向かってくるアンデッドたちの前に立ちふさがる。


「――――冥王の祝福、起動せよ!」


 ジャンの言葉とともに、杖の髑髏が怪しく煌めいた。そして、その口がカパッと開かれる。


 オオオォォオオオオォォォオォォオォ――


『うわっ!』

「う?」

「オン……」


 声……。いや、歌? どっちにも聞こえるな。杖から響いたのは、まるで歌のように聞こえる呻き声だった。神秘的でもあり、不気味でもあり、讃美歌のようでも、怨嗟の叫びの様でもある。


 ただ、妙に聞き入ってしまう、不可思議な音だった。


オオオォォ――


「怨嗟と恩讐に囚われし、救われぬ魂に安らかなる眠りを。冥王の祝福よ、あれ」


 ジャンの紡ぐ言葉と共に、杖から青白い光が溢れだした。


「ウガア……」

「アオオォォ」

「む! 僕ども、逃げよ!」


 光が部屋を満たす。リッチの命令でアンデッドたちは逃げ出そうとしたが、どこにも逃げ場はない。


 そして、光が収まったとき、そこにアンデッドたちの姿はなかった。


『え?』

「すごい!」

「吾輩の僕たちが一瞬か! くかかかかか。その杖、一体何なのだ!」

「それは、我が聞きたい、のだがね」

「ほう? 何をだね?」

「ふはは、はは。これは、どのような死霊をも、確実に昇天させる、神具。なぜ、リッチである君が、健在なのだ――がはっ!」

『ジャン!』


 ジャンが大量の血を吐き、片膝をつく。おいおい、顔色は土気色で、ジャン自身がアンデッドみたいになってるぞ!


「肩かす」

「助かる、よ」

「くかかか、どうやら、広範囲に高位の昇天呪文を放つような道具らしいな! あれだけのアンデッドを浄化したのだ、ただでは済むまいて! ほうほうほう。生命力が枯渇寸前ではないか!」


 そういう事か! アンディをアセンションで昇天させるだけでも凄まじく消耗してたのに、あのレベルのアンデッドを同時に浄化したんだ。ヤバいレベルの消耗をジャンに強いていることだろう。それこそ、寿命を削ってるんじゃないのか?


『今ヒールを――』

「無意味だ。傷では、ないからな」

「じゃあ、これ」

「ああ、助かる」


 フランが疲労を回復させるスタミナポーションを取り出し、ジャンに飲ませる。HP回復系ではなく、こういった生命力を直接癒す方がいいみたいだ。


「それで、どうするかね? 切り札は吾輩に効かんようだが?」


 そうだ、アンデッドを無条件で浄化する能力を喰らって、何で無事なんだ? アンデッドじゃない? いや、リッチと表示されているし、種族も死霊だ。


「多少強力な道具の様だが、吾輩クラスの存在には無意味なようだな!」


 そうなのかもしれない。相手は死霊の王と言われるリッチだ。いくら強力な魔道具でも、効かない可能性はある。


「かはははは、絶望したかね?」


 リッチの言葉が俺たちに降り注ぐ。だが、そのくらいで絶望してたまるか!


「じゃあ、斬ればいい」

『おう! そうだな』


 またアンデッドを召喚される前に、近づいて斬る!


「はぁぁ!」

「くかかかか! 無駄だ!」


 は? 剣がすり抜けた? そんなスキル持ってないじゃないか!


「らぁぁ!」

『――ファイア・アロー!』

 

 フランが属性剣を、俺が魔術を試すが、やはりすべての攻撃はすり抜ける。幻影の様なものかとも思ったが、魔術を使ってたし……。何より、すり抜けた瞬間に攻撃をされた!


「がふっ!」

『――ミドルヒール!』


 単純な拳打だが、一瞬でフランのHPを半減させる。やっぱり幻影じゃない!


 しかし、攻撃力が異常じゃないか? 奴の腕力は134。はっきり言って、弱いレベルだ。魔術やスキルを使っていた形跡もない。なのに、フランのHPが半減?


『何か秘密があるぞ』

「ん、強い」


 ステータス以上の何かがある。いや、ステータスが嘘ということもあるか? 俺たちの持つ鑑定偽装と同系統のスキルを持っていれば、説明が付く。


『厄介だな』

(どうする?)

『奴がこっちの攻撃をかわしている絡繰りが分かれば、スキルテイカーで奪えるかもしれないが……』


 鑑定がきかないんじゃ、正確に分からない。


『ジャン?』

(無理だ。魂魄眼は、アンデッドには、使えん)

『何か策はあるか?』

(策と言うほどではないが、時間を稼いではくれないか?)

『それでどうにかなるのか?』

(まだ、分からん。だが、信じてほしい)


 何か当てがあるようだ。自信なさげだが、今は藁にもすがりたい。いいぜ、やってやるさ。


(……分かった)

『どうせ、戦ってりゃ長引くだろうしな』

(ありがとう)



 1時間後。


 俺達は何度目かになる、アンデッドの大軍と戦っていた。


「どうした! 動きが鈍ってきたようではないか! 限界かね?」

「まだ、まだ……!」

「オウォン!」

「良いぞ良いぞ。その希望が絶望に反転した時、どのような顔をするのか、今から楽しみだ! 汝らからは、良き僕が生み出せるだろうなぁ! くかかかかか!」


 相変わらず、リッチにこっちの攻撃は当たらない。リッチの召喚したアンデッドと戦いながら、隙をついて攻撃を撃ちこんだり、浄化の結界を張ったり、いろいろと試しているが、全て奴をすり抜けてしまう。


 それでも俺たちが敗北せずにいられるのは、奴がこっちを嬲って楽しんでいるからだった。フランが回復魔術を使うのを、何もせずに待っているほどだ。


 どうも、フランとジャンとウルシの心を折って、配下に加える気らしい。まあ、この3人だったら、かなり高位のアンデッドになるだろうし。ジャンクラスの死霊術師だったら、リッチにも届いちまうんじゃないのか?


 ただ、そのおかげでジャンの言っていた時間稼ぎができているのだ。むかつくことに。


「ほれどうした。動きが止まっているぞ? 吾輩の召喚術が間に合ってしまうなぁ?」

「ウオウン!」


 ウルシの闇の槍がリッチに降り注ぐが、やはり通じない。


「そうそう。攻撃の手を休めない方がいいぞ? さあ、次はどんな策を見せてくれるのだ?」

「絶対に斬ってやる」

「くかかか! やれるものならやってみるがいい!」


 俺の魔力は既に半分程度に減っている。フランもジャンもウルシも、同様だ。


『ジャン、まだなのか?』

(まだ――いや、来た!)


 ジャンとの幾度目かのやり取り。そして、ついに待ちに待ったその時が来た。


 ドォゴゴゴゴゴゴォォォォォォンンン!!!


 腹に響く凄まじい爆発音と、震度5の地震に匹敵しようかという揺れ。何だ? ダンジョン内で爆弾でも爆発したか?


「が……っ! 貴様ら! 一体何をした!」


 リッチの仕業じゃないみたいだ。今までの余裕ぶった態度とは一転して、怒気のこもった声で叫んでいる。


「成功したようであるな」

「ジャンがやった?」

「わが、配下がな……」


 いつの間に。どうやら、配下のアンデッドに破壊工作をさせていたようだな。ジャンが待っていたのはこれなんだろう。


「怨念炉の魔力が……! 吾輩の悲願が! 消える……消えていく……! ぬあああああああああああああああ!」

『これで、奴はどうなる?』

「弱体化するはずだ。奴の強みの一つが、ダンジョンからの、魔力供給であるからな。その大本を、破壊した」

『だったら、先に言ってくれれば良かったのに!』

「……すまん。目標の施設を破棄するには、どうしてもリッチが邪魔だったのだ。誰かが、囮をしなくては、破壊できなかったであろう」

「つまり?」

「敵を騙すには、まずは味方からということである。何より、奴が記憶や心を読む術を持っていないとは限らぬ故な」

「貴様らぁぁ! 許さんぞ! 最早配下になどいらぬ! 手足グチャミソに潰して、アンデッドどもに死ぬまで犯させて、生まれて来たことを後悔させながら、嬲り殺してやるわ! 死後すら安寧が訪れるとは思うなよ!」



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