788 ノクタ到着
騎士たちのところに戻る途中、抗魔カードを確認してみた。
『今のだけで2500ポイント近く増えてるな』
「ん」
港の付近で戦ってみた感じ、下級抗魔は2体で1ポイント。騎士型は1体で50ポイントというところだったはずだ。
ただ、強さにも個体差があり、ポイントも微妙に違うようなので、何体倒したから何ポイントと正確に計算するのは難しいだろうが。
今回得たポイントから考えると、下級抗魔2000体で1000ポイント。騎士型5体で250ポイントくらいのはずである。
つまり、魔砲型1体と指揮官個体1体で1250ポイントもゲットできたという計算だった。
上位個体はさすがにポイントが凄まじいな。
そのまま騎士たちに合流すると、皆が心の底から嬉しそうに出迎えてくれる。
「おお! ご無事でしたか!」
「ん」
「貴女のおかげで皆が救われました。ありがとうございます」
「別に。抗魔を倒すのが仕事だから」
フランがやや困った様子で口を開く。ツンデレ発言いただきました!
「それでも、我らが救われたことは事実。礼を言わせてください」
「好きにすればいい」
「ありがとうございます」
指揮官が頭を下げるのと同時に、他の騎士や兵士たちも頭を下げた。
まだ怪我人は多く、支え合っている者も多いのでその仕草はバラバラだが、彼らが心の底から感謝しているのは伝わってきた。
フランがやや困惑した様子である。
冒険者の気安い接し方や、舎弟感のある接し方とも違うからだろう。明らかに貴族っぽい感じの人間たちから、これほど下手に出られることに慣れていないのだ。
しかも、全員が礼儀正しく、悪意の一欠けらも感じられない。フランでなくても、冒険者であれば居心地悪く感じるかもしれなかった。
「して、これからどちらに向かわれる予定なのですかな?」
「ノクタ」
「おお! 奇遇ですな! 我らもノクタを拠点にしておるのですよ!」
ノクタは委員会に管理された、完全空白地帯にある都市という話だった。この辺で活動している者たちの多くは、ノクタを拠点にしているだろう。
「では、御一緒に――いえ、ノクタまで護衛をしていただくわけにはいきませんか? 当然、先程ご助勢いただいた分とは別に、報酬をお支払いさせていただきます。いかがですかな?」
素直に護衛と言えるところに好感が持てるね。フランだけではなく、俺も彼らを気に入ったぞ。
(師匠。いい?)
『ああ、構わないぞ。向かう先は同じなんだし』
「ん。別に構わない」
「これは心強い。では、道中よろしくお願いいたします」
「ん。それと、私の仲間を紹介しておく」
「仲間ですか?」
指揮官が周囲を見るが、当然誰の姿もない。そこに、ウルシが現れた。影からニュッと顔だけを出している。
「オン!」
「おぉぉ? 影から!」
「仲間のウルシ。よろしく」
「オン!」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
指揮官はウルシにも丁寧だった。
こう言ってはなんだが、騎士にしては威厳が足りなくないか? 偉そうにしろと言っているわけじゃないが、騎士ってもう少し威張った感じがあるものじゃないか?
こういう指揮官だから、部下たちもフランに丁寧な態度で接するんだろう。だが、指揮官だけではなくて、部下たちも気の良い奴らなのだ。
囮役の斥候兵たちの生還を涙ながらに喜んでいる姿を見ると、仲の良さがよく分かった。
道中は非常に順調だ。
フランの治癒魔術で全員を回復させたことで、行軍速度も上がったうえに、少数の抗魔は瞬殺なのだ。
思っていた以上に、手練れの多い部隊であった。彼らは腕が立つからこそ前線を担当し、より酷い怪我を負っていたのだろう。
少し無理をして全員の怪我を治してやれば、フランなしでも抗魔を駆逐できたかもしれない。まあ、その場合は少なからず怪我人死人が出ただろうが。
出発から1時間後。
「見えた! ノクタだ!」
「あれが」
「はい! そうです!」
指揮官の嬉しそうな声に、皆からも歓声が上がる。一時は戻ってくることも危ぶまれた場所だ。そこに帰還できたということで、感慨もひとしおなのだろう。
「おっきい」
「オン」
ノクタは、俺たちが想像していたよりもかなり規模の大きい都市であった。アレッサを凌ぐかもしれない。
抗魔の襲撃があるこの土地で、あれだけの規模の都市を作り上げるとは……。先人の苦労が偲ばれるな。
町へと向かうと、思ったよりもあっさり町へ入れてしまった。ゴルディシアでは、都市に入れなければ野垂れ死ぬ可能性が非常に高い。
しかも、少人数で行動する冒険者の多くが、訳ありである。それこそ、他の大陸では賞金首だったりする人間も少なくない。
それを全て断っていたら、成り立たないのだろう。
とりあえず都市の中に入れて、そこで馬鹿をしたら排除。もしくは犯罪奴隷にして肉壁に使う。そういう考えであるらしい。
「フラン殿。この度は助かりました」
「報酬も貰ってるから」
「それと感謝を伝えぬということは、別でありますよ。ああ、冒険者ギルドは、こちらの通りをまっすぐ行けばあります」
「わかった」
「我らセギルーセル王国第三騎士団。何かあれば必ずやあなたの力となりましょう」
最後まで爽やかな奴らだったな。まあ、だからこそゴルディシアにいるのかもしれんが。
国の顔なのだ。人格的にも能力的にも優れた者たちでなくては、国の名前に泥を塗ることになる。
そういう意味では、彼らほどゴルディシアに相応しい派遣部隊はいないのだ。港でもそうだったが、この大陸の騎士や兵士は、信頼度が高そうだった。
『ギルドに行くか』
「ん」
月末に、転剣の原作10巻、コミカライズ8巻、スピンオフコミック1巻が発売されます。
キャンペーンなどもありますので、よろしくお願いいたします。




