783 邪神王ガーディニアの伝説
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西の港へと戻る道中。
フランはツァルッタと話をしていた。
意気投合したというよりは、互いの求めるものが噛み合ったのだろう。
ゴルディシア三家やカメリア家の能力について知りたいフランと、説明とかするのが好きっぽいツァルッタ。
一度話が弾めば、後は止まらなかった。今は、カメリア家に伝わる古い神話を教えてもらっているところだ。
ゴルディシア三家の誕生物語であるらしい。
「数千年前、この大陸はエルフたちが大勢住んでいたそうです」
「竜人は?」
「竜人や人間は少数で、村を作ってひっそりと暮らしていたと言われていますね。その時代にも邪神の欠片の封印は存在していましたが、ほとんど知られてはいなかったそうです」
神々によって秘匿され、多くのエルフたちは足下に邪神が眠っていることなど知らなかったわけか。
「しかし、あるエルフがその存在を知り、邪神崇拝を始めます。彼は精霊から好かれず、逃げられてしまう特殊な体質の持ち主だったそうです」
精霊使いが尊ばれるエルフだ。そのエルフは、かなりひどい扱いを受けていたらしい。虐待といってもいい扱いであったそうだ。
なぜ自分には精霊を使役できないのか。なぜ、精霊に嫌われてしまうのか。樹木の神は自分を見捨てたのか?
自暴自棄になり、働きもせずに部屋に籠って邪神を崇拝するようになった彼は、ついに村を追い出されてしまう。そうして森の中をさまよい歩き、邪神の封印へとたどり着いた。
それが偶然であったのか、邪神の導きであったのかは分からない。
ただ、彼は言われるがままに邪神の欠片の封印を弱め、邪神の加護を得ることとなる。
どうも、彼は精霊に嫌われていたわけではないらしい。生来持つ『精霊食い』というスキルのせいで、精霊が怖がって寄り付かなかっただけのようだ。
それを見通せる強力な鑑定の力を持ったものがいれば、不幸な結末は回避できたのだろうか?
ともかく、彼は眠っていた精霊食いの力と、邪神の加護によって、凄まじい力を手に入れた。だが、彼は安易に復讐には走らなかったという。
別に、エルフを許したとか、そういうわけではない。そうではなく、もっと時間をかけてゆっくりとエルフを滅ぼそうと考えただけだ。
彼は邪気を抑える術を習得し、エルフの国へと舞い戻る。そこで軍部へと入り込むと、メキメキと頭角を現していった。彼が実権を握るまで、10年とかからなかったらしい。
そして、彼の復讐の日がやってくる。当時はまだ研究段階であったキメラ製造技術を利用し、ゴルディシア大陸に封印されていた4つの邪神の欠片と自らを同化させたのだ。
数千人のエルフと邪神の欠片を取り込んだ彼は、人を超えた存在へと昇り詰める。
『邪神王ガーディニア』。本当の名前の記録が残っていない彼が、新たに名乗ったのがそれであった。
当初は、その力でエルフを洗脳しつつ、他のエルフを狩り出していくということを繰り返していたガーディニアだったが、ある時に暴走を始めてしまう。
その当時はまだ知られていなかった、キメラの暴走現象である。結果、エルフや周囲の生き物を食欲のままに食らいながら成長する、化け物が誕生してしまった。
全てのエルフや精霊を食らい尽くす勢いで成長するガーディニア。
だがある時、怪物と化した邪神王は姿を消してしまう。
暴走しても、エルフへの復讐心は残っていたのだろう。海を渡って他の大陸のエルフの国を目指したらしい。
大陸から姿を消したガーディニアについては、カメリア家にも詳しい話が残っていない。
ただ、数年後に、何故かエルフの姿に戻り、すっかり邪心の消えたガーディニアが戻ってきたそうだ。それでいながら、邪人を操る不可思議な力は健在だったという。
その時、すでにエルフの国は滅び、竜人の国が興っていた。だが、ガーディニアは竜人に迫害されていた人間たちをまとめ上げると、大陸の端にひっそりと集落を築いてそこで暮らし始めた。
しかし、穏やかな時間は長く続かない。
ある時一人の女性エルフが現れたのだ。ガーディニアのせいで親族を失った、復讐者であった。
ウィーナと名乗ったそうだが、素性はハッキリとは分かっていないという。当時のエルフにはよくある名前だったそうだ。
ガーディニアはその復讐を甘んじて受け入れ、死を選ぶ。彼が人の心を取り戻した理由が、ウィーナの双子の妹にあったからであるらしい。
そもそも、彼はこんな日がくることを理解していたのだろう。彼の中にあったキメラの大元となる魔魂と、3分割した邪神の欠片は、集落の周辺に封印済みだった。
死の直前、彼は自分の3人の息子に力を分け与えると、邪神の欠片の封印を守るように伝え、消滅したという。
それが、ゴルディシア3家の始まりであった。
「しかし、いつしか邪神やキメラの脅威は忘れ去られ、竜人の王トリスメギストスがそれらに目を付けます」
あとは、トリスメギストスの伝説の通りだった。邪神の欠片と、キメラの魔魂。さらに多くの素材を使った、最悪の魔獣『深淵喰らい』を誕生させ、神罰を受けることになる。
ツァルッタの話の中で、俺たちが最も気になった部分。それは、やはりガーディニアに復讐を果たしたというエルフだった。
(ウィーナって、あのウィーナ?)
『その可能性は高いと思う』
遥か昔、ベリオス王国に姿を現し、レーンの犠牲によって封印された大魔獣。それが、ガーディニアだったとしたら?
ガーディニアがエルフの姿を取り戻して、ゴルディシア大陸に戻ってこれた理由は分からないが、封印される直前に一部を切り離した可能性はあるだろう。
それを追ってきたウィーナが復讐を果たした。十分あり得る。邪神の聖餐についての知識があったのも、それなら納得できた。
まあ、本人に聞いてみないと本当のところは分からんが。
そんな風に話をしながら歩けば、西の港はあっという間であった。ツァルッタともここでお別れだ。
彼女らは港から少し離れた場所にある、竜人居留地に住んでいるらしい。
大陸の東西南北に、港とは別に竜人居留地があるそうだ。
「北の居留地の竜人には気を付けてください」
「北の竜人?」
「はい。あからさまに他種族を見下していますから。最近は特に好戦的で、最初から喧嘩腰の場合もあります。ただ、その分戦闘力が高くて、この大陸の竜人全体に顔が利くのも確かなんです」
まあ、敵対するには面倒な相手ってことなんだろう。教えてもらってよかった。
「わかった。気を付ける」
「はい。では、またお会いしましょう」
「ん」
前書きのお知らせをするために、急遽書き上げました。
次回は9/5に更新させていただき、そこからはいつも通りの更新間隔に戻せると思います。
また、スピンオフがコミックライド様で好評連載中! 少しお待ちいただくと、ニコニコ様などで無料公開されると思います。
 




