表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
781/1337

779 騎士型撃破


 フランたちは速度を落とすことなく、抗魔の群れをかき分けて進み続けていた。


 指揮官個体である騎士型まではもうすぐだ。剣士型に対して倍近い身長があるので、多少離れた場所からでもその姿が確認できた。


 それに、気配も違う。魔力も強いし、邪気も感じられる。邪神の欠片を素材に生み出された深淵喰らいは、当然ながら邪気を発している。


 この大陸の結界内に踏み込んだ時から、常に微量の邪気が感じられるのだ。


 そんな深淵喰らいから生み出される抗魔も、当然ながら邪気を保持していた。騎士型にもなると、ミノタウロスや上位オークに匹敵するレベルの邪気を纏っている。


「もうちょっとで指揮官個体」

「へい!」


 このままでは、フランたちが奴を倒せるかどうかは微妙なところだ。実力が不足しているわけではない。フランなら瞬殺だろう。


 そうではなく、反対側からヒルトたちが迫っていたのだ。


 向こうもこちらに気付いているらしく、騎士型へと突き進む速度が僅かに上がったのが分かる。


『このままだと、ヒルトたちに持ってかれそうだな。どうする? 俺かフランが一気に仕留めちまうか?』


 周辺の魔力を探ってみたが、生きている人間はいない。だろうとは思っていたが、バシャールの部隊は既に全滅したのだろう。


『バシャールの奴らはいない』

(そう……)


 心底残念に思っているフランとは裏腹に、俺は安堵の思いが強かった。バシャールの人間と対面したって、ろくなことにならなかったのは確かだろうしな。


 ただ、この状況だったら大技を放っても許されるはずだ。俺のカンナカムイで、ここから騎士型を消滅させたっていい。


 しかし、フランはその行動を選択しなかった。この部隊で勝つ。そう考えたのだろう。


「ディギンズ!」

「へい!」

「私が道を作るから、騎士型はお前がやる」

「うす! 任せてくだせぇ!」


 敵のボスに1人で突っ込めと言われているのに、ディギンズは即座に頷いた。


 何も考えずに舎弟感を出しているわけではなく、フランを信頼しているのが分かった。短い間に、ディギンズの信頼を勝ち取ったようだ。


「みんなは道を作る!」

「「「はい!」」」

「ソード・ソニック!」

『ゲイル・ハザード!』


 フランによって放たれた衝撃波が、途上にいた30体ほどの抗魔を薙ぎ倒しながら飛んでいく。


 次いで俺が放った風魔術が抗魔たちを吹き飛ばし、フランがこじ開けた隙間をさらに広げた。


 さらに冒険者たちの遠距離攻撃が放たれ、騎士型まで30メートルほどの細い道ができ上がる。


 それを見たディギンズが咆えた。


「うるあぁぁ! 覚醒!」


 ここでとっておきを発動だ。


 ディギンズの種族が黄熊から、黄玉熊に変化した。


 外見として最も大きい変化は、その毛の色だろう。元々は、派手な黄色だったんだが、そこに硬質的な輝きが加わった。


 その種族名通り、トパーズのような美しい体毛である。


 体の大きさなどは、ほとんど変化はない。多少パンプアップされた程度だろう。


 しかし、確実にパワーアップしている。


「ぐらぁぁぁ!」


 強化された筋力を推進力に変え、凄まじい速度で突き進んでいくディギンズ。あっと言う間に騎士型との距離が詰まっていった。


 道中で邪魔する抗魔は、目にも留まらぬ速さで振られた金棒によって粉砕されていく。


 腕力の強化も相当だろう。棍棒が唸るたびに、数体の抗魔が吹き飛んでいた。


 さらに驚くのはその防御力だろう。抗魔の武器が何度も当たっているはずなんだが、一切傷ついた様子がない。


 どうやら、あの毛が見た目以上に硬いらしかった。


 騎士型はもうすぐそこだ。


 ただ、騎士型の真後ろから、フォボス君が迫ってきているのが見えた。


 向こうもヒルトが全てを片付けるのではなく、弟子に見せ場を作ったのだろう。


 さすがその才能を見込まれている、デミトリス流のホープ。超前傾姿勢のまま、抗魔の間を縫うように駆けてくる。地を這う蛇のように、滑らかな動きであった。


 ディギンズもフォボス君の気配に気付いたようだ。互いに、残りは10メートル程度。どちらが先に辿り着くかは、微妙なタイミングである。


 それを悟ったのだろう。ディギンズは決意の表情で、左手を大きく振りかぶった。


「ごああぁぁぁぁ!」


 ディギンズの咆哮が轟き、その左腕が大地目がけて振り下ろされる。


 ドゴォォォン!


 突き立てられた爪が大地を穿ち、衝撃が土を舞い上がらせた。


 当然ながら、それがこの攻撃の目的ではない。一見すると、地面を無駄に攻撃しただけに見える。


 だが、魔力を感知できる者ならば、理解できるはずだ。大地の下を走る、強烈な魔力の波に。


 ディギンズの拳が振り下ろされた場所を起点にして、騎士型に向かって濃密な魔力が放たれていたのである。


 そして、騎士型の足下が大きく陥没した。


「リイィォオォ?」


 歪な鈴を強く鳴らしたかのような不協和音が、騎士型から発せられる。あれが奴の鳴き声なのか? 生物の鳴き声とは全く違った、不可思議な声であった。


 悲鳴のような音を上げる騎士型が、その穴に腹まで呑み込まれる。


 騎士型は咄嗟に手を突っ張って落下を阻止するが、ディギンズの攻撃はまだ続いていた。


 穴の左右の大地が壁のように屹立すると、そのまま騎士型を押し潰すように挟み込んだのである。


 この壁は、ただの土壁ではない。ディギンズの魔力が大量に練り込まれているのだ。それ故、騎士型の外殻に負けることもなかった。


 獲物に食らい付くトラバサミのように、大地が騎士型に襲い掛かる。


 ギリィイン!


 壁に勢いよく挟まれた騎士型は、金属同士がぶつかったような甲高い音とともに砕け散っていった。


 周囲に騎士型の破片がばら撒かれ、溶けるように消えていく。


「よっしゃぁぁ! やりましたぜ黒雷姫さん!」

「あーっ! 先越されたぁ! ヒルト様に怒られるぅぅ!」


転剣のスピオンオフコミックの連載が始まりました。

最速で読みたい方はコミックライドをチェックしてみてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] とっても面白いんだけど、一回しか星5がつけられないのが凄く悲しい(そこじゃない)
[一言] 黄熊と聞いた瞬間から脳内で「プー」とフリガナを当てているのはわたしだけじゃないはず
[一言] ディギンズの舎弟感がいい味を出している ワンポイントのキャラとしてはちと惜しい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ