76 苦闘
潜在能力を解放したレジェンダリースケルトンの力は圧倒的だった。
振るう一撃一撃が高等剣技のように鋭く、その動きは目に留まらぬほどに速い。しかも、自動魔力撃の威力までも底上げされており、レベルをMaxまで上げた魔力障壁でさえも、防ぎきることはできなかった。
ウルシは倒れ、ジャンの魔術もこの相手には効かない。
「はぁ!」
「カ!」
次第に防戦一方に追い込まれていくフラン。HPが減り続けている奴も、力尽きる前にフランに止めを刺すべく、嵐のような攻撃を続けていた。
それでもフランは紙一重で致命傷を避け続けていた。それどころか、その眼は全く死んでいない。逆転を諦めていない目だ。
『スキルテイカーを使うぞ!』
「ん!」
本当は、この後に控えているであろうボス戦に残しておきたかったが、そうも言ってられない。フランのスキルテイカーを使い、俺のスキルテイカーは残せばいいか。それに、秘策はもう一つある。
問題は、潜在能力解放を奪ったとして、既に上昇したステータスが下がるのかどうかだ。しかし、他のスキルを奪っても、このステータス差ではどうしようもない。ここは使ってみるしかなかった。
『やっちまえ!』
「はぁ!」
「カ?」
フランがスキルテイカーを発動させる。対象は奴の潜在能力解放だ。これでステータスが下がってくれれば……。
〈対象のスキルは、スキルテイカーの対象外です。奪取に失敗しました〉
え? どうしてだ!
スキルテイカーの能力はこうだ。
スキルテイカー:LvMax・レア度10以下、かつLv10以下のスキルを100%の確率で奪う。同一対象に1度のみ使用可能。スキル再使用には18日必要。射程はスキルレベル×1メートル。
接近戦なのだ、射程は足りている。潜在能力解放にレベルがないので問題にならない。と言うことは、レア度か! レア度10を越えてる? それとも、エクストラスキルは奪えないのか……。
「カッカカ!」
「くぅ! スキルは?」
『失敗した!』
「もう一回――ダメ!」
失敗も、使用済み扱いにされてしまうらしい。フランはもうスキルテイカーを使えないのか!
俺のスキルテイカーは……。いや、ここはもう一つの秘策を使う!
『フラン! あれをやるぞ』
「ん!」
俺は自己進化ポイントを剣聖術につぎ込んだ。一気にLv5までレベルを上げる。これが、道中にフランと考えた、対強敵戦の切り札だった。不意を突くのが目的なので、レベルは5で留める。
「カカ?」
「はぁ!」
「カ、カ?」
フランの動きが目に見えて変わる。より剣術への理解を深め、より精密な動きに。今まで互角だったはずのフランの剣が、急激に成長したのだ。
俺たちの経験上、スキルレベルが3違えば、覆せないレベルの差が生まれる。今のように4も違えば、ステータス差を埋める程の技量差があるはずだった。それでも、不死身の体を持つスケルトンが有利ではあるが。
驚きか、困惑か、それとも計算が狂ったことによる誤作動か。ともかく、奴の動きが僅かに鈍った。
これが、最後にして最大のチャンスだ!
「はぁぁ!」
フランがLv1:剣聖技、インパクト・スラッシュを発動する。技後硬直があるものの、1撃の威力に秀でた横薙ぎの技だ。フランの魔力収束、俺の魔法使いスキルによる風属性剣のオーバーブースト。正に渾身の一撃だった。単純な破壊力と衝撃は、これまでの攻撃の数倍はあるだろう。
ギイィィン!
だが全霊を込めたその攻撃も、スケルトンに受け流されてしまった。化け物め!
さすがに奴の腕も弾かれているが、向こうの方が動き出しが早いだろう。このままで危険だ。
まあ、普通ならな。
『俺達だって、これで決まるとは思ってねえんだよ!』
「ん」
『フラン、すまん』
「構わない!」
インパクト・スラッシュは本来、振り切った後に腰を90度捻り、一瞬の硬直がある隙の多い技だ。
だが、俺は溜めていた念動を使い、インパクト・スラッシュの動きを無理やり止めた。技後硬直をキャンセルするためだ。だが、フォロースルーによって逃がすはずの衝撃や圧力が、フランの腕に集中する。
結果――。
ブチブチブチゴキ
フランの腕の筋肉が断裂し、骨が折れる音が響いた。くそっ、嫌な音だ! 俺のせいだっていうのが、もっと嫌だ!
だが、俺は激痛に喘ぐフランに、さらなる追い討ちをかけなければならない。
『フラァァン!』
「うあぁぁ!」
腕の激痛を我慢しながら、フランが渾身の剣技を発動する。Lv1剣技、ヘビー・スラッシュ。そこに、魔法使いスキルを使い、ありったけの念動を込めて技を加速させる。フランの腕からメキメキと骨が割れる音がするが、ここで手加減するわけにはいかない。
初撃のインパクト・スラッシュによって体勢を崩されたスケルトンの体勢は、まだ立ち直っていなかった。
「あああああぁ!」
「カッカ!」
この野郎! 完全に体勢を崩されているくせに、首だけを僅かに後ろに引きやがった! まずい、間合いが足りない!
何かないか? 今すぐ間合いを伸ばす方法は……! いや、あった!
『うおぉぉぉぉ! 形状変化ぁ!』
刀身の幅が細くなり、20cm程全長が伸びる。今の俺はロングソードというより、長いエストックの様な形状だろう。これだけの変化で魔力を200も使うんだから、割に合わん! 今は感謝するけどさ!
「カ――!」
スケルトンはもう何もできない。俺達の技が奴の頭蓋を綺麗に袈裟切りにしていた。魔石を両断した手応えがある。
「カ、カ」
動きを止める、レジェンダリースケルトン。
「カカカカカ――」
そして、笑い声のようにさえ聞こえる不気味な叫びを残し、スケルトンは崩れ落ちていた。今の今まで動いていたことが幻であったかのように、そこには真紅の人骨が横たわっている。
だが、骨からは未だに妖気が立ち上っているな。さすがに脅威度B。
「ぐぅぅ……」
『フラン、今治してやるからな! ――グレーター・ヒール!』
「だいじょうぶかね!」
「オンオン!」
激闘だったな。だが、それに見合うだけの成果もあった。魔石値が300も得られた上、感知妨害、自動魔力撃、死霊支配、魔術耐性という、有用そうなスキルもゲットできたのだ。
そして、エクストラスキル、潜在能力解放。起死回生の切り札に成りうるスキルだろう。
使用者によって効果が変わると言うが、フランや俺にはどれほどの効果があるのかね? HPが減り続けるうえ、何か他にも代償が必要らしいし、再使用に24時間もかかる。おいそれと実験もできないな。
「……だい、じょぶ」
『本当に平気か? どっか痛いところは?』
「ん。へいき」
「オンオン?」
ウルシがフランの腕をペロペロ舐める。ウルシなりに心配してるんだろう。
「ありがと」
「オン!」
ジャンはスケルトンの骨を回収していた。
『何かに使えるのか?』
「死霊魔術の触媒としては、凄まじい価値があるな。これが手に入っただけでも、今回の収支は黒字だろう。くはははは、感謝するぞ!」
『じゃあ、これで心置きなくポーションとか使えるな』
「剣や鎧はどうするかね?」
『どうするって、どうする?』
「魔剣とマントは必要ないから、進呈しよう。その代わり鎧はこちらがいただくのはどうかね? オリハルコンは魔術師にとっても有用な素材なのだよ」
『別にかまわないけど。いいのか?』
むしろ、依頼主はジャンなんだし。全部ジャンの物って言われても、納得しただろう。まあ、貰えるんなら有り難くいただくけどさ。




