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773 ドワーフたち

「ルオオオオオォォ!」


 ドワーフたちが構築した陣地に、甲高い咆哮を上げながら抗魔の群れが迫る。その数は2000程だろう。


 前衛に剣士型。後方には弓士型と、指揮官の騎士型の姿が見える。


 数では劣っているが、陣地の中にいる戦士たちの中に悲壮な顔をしている者は1人もいなかった。


 抗魔から飛んでくる魔力弾を戦槌で叩き落としながら、ドワーフたちがやり返すように剛弓から矢を放っていく。


 逸ることも猛ることもなく、ただ黙々と冷静に。その姿は職人的でさえあった。


 あっと言う間に抗魔たちの数が減っていく。運よく矢嵐を突破した抗魔たちも、壁を越えることはできなかった。


 壁の上のドワーフが振るう戦槌に体を砕かれ、討ち取られていくのだ。


『俺たちもいこう』

「ん!」


 このままだと、ドワーフに美味しいところを全部持っていかれてしまう。それではブルネンに怒られてしまうだろう。


「私たちも出ますよ」

「了解です」


 フランと、ヒルトたちが同時に陣地から飛び出し、抗魔たちの中心で暴れ始める。


 それからはあっという間であった。


 競うように抗魔を殲滅しながら、敵の後衛に向かって攻め上がっていく。弓士型の激しい攻撃も、フランやヒルトには通用しない。


 危険なのは、フォボス君くらいかな?


 必死の形相で敵の攻撃をかわしながら、ヒルトたちの最後尾を付いてきている。コルベルトがフォローしているので、放っておいても大丈夫だろう。


「はぁぁ!」

「ヒルトやっぱりすごい」

『あの視野の広さは見習いたいな』


 ヒルトの戦いを横目で見ながら、フランが感嘆の呟きを漏らす。雑魚ばかりなので範囲魔術で殲滅してもいいと思うんだが、今回はヒルトたちと並んで戦うことにしたらしい。


 まあ、確かに勉強になるだろう。


 ヒルトの動きには無駄がなかった。


 魔力の弾丸を放って攻撃する際にも、必ず抗魔を複数貫く軌道で放ち、近接戦では吹き飛ばした抗魔が後ろを巻き込むような攻撃を放つ。


 周囲の流れを全て把握しつつ、完璧な位置取りをしなくてはこうはならない。フランも同じことをやれなくはないが、ヒルトほど完璧にはできないだろう。


 対大軍戦の経験の差が出た形である。コルベルトたちも似たことができているのだ。デミトリス流の修行の中に、そういったものがあるのかもしれない。


 そうして剣士型の群れを粉砕しながら突き進むフランたちによって、10分とかからず指揮官である騎士型が倒されていた。


『へぇ。ボスがやられても逃げたりしないんだな』

「でも、もっと弱くなった」

『騎士型がいないと、戦術的な行動はとらなくなるってことだろう』


 それまでは陣形を組んで軍のように動いていた抗魔たちが、烏合の衆となり果てる。逃走もせず、周囲の敵にむやみやたらに襲い掛かるだけだ。


 こうなっては、敵ではない。ドワーフたちの遠距離攻撃によって、あっと言う間に全滅していた。


 陣地に戻ると、オーファルヴが楽し気に笑いながら出迎えてくれる。


「さすがだな! 我らの出番がなかったぞ!」


 そう言えば、オーファルヴのスキルを見せてもらうって言ってたのに、あっさり倒してしまったな。


 だが、それで見せ場がなくなったわけではなかった。


「西から、さらに抗魔! その数、約4000!」


 周辺にいた抗魔はさっきので全てではなかったのだ。ベリオスの斥候兵が伝えた通り、新たな軍勢が迫ってくるのが見えた。


 フランが再び駆け出そうとするが、それをオーファルヴが止めた。


「まあ、まて。ちょうどいい、次は我らがやる。そちらは援護をせよ」

「わかった」

「了解いたしました」


 女王の言葉に、フランもヒルトもあっさり従う。先程の戦いでは暴れる役を譲ってもらったし、次はあっちの番だと分かっているのだろう。


「よし、では我らの力を見せてやろうぞ!」


 オーファルヴが陣地の外に歩き出すと、全てのドワーフがその後に続いた。


 そう、彼らは折角作り上げた陣地をあっさりと捨てたのだ。


 文句も言わず、素早く横一列の陣形を作る。


 500人のドワーフが2列。それだけのシンプルな横陣だ。しかも、前列の中央。最前線に女王であるオーファルヴがいた。


「さてと、あの程度に本気で当たる必要もないが、フランにスキルを見せると約束してしまったからな。者ども、ゆくぞ!」

「「「応」」」


 ドワーフたちは、叫んだわけではない。しかし、彼らの口から同時に放たれた短い重低音が、周囲の空気を確かに震わせた。


 一斉に武器が構えられる。片側が斧、片側が槌になったポールウェポンだ。全員が、同じ武器、同じ鎧を着込んでいる光景は、壮観である。頼もしさがハンパないのだ。


 配下のドワーフたちの動きに満足げな顔をするオーファルヴが、静かにその言葉を口にする。


「エクストラスキル勇往邁進、発動」


 オーファルヴがそう声に出した瞬間、全てのドワーフたちから魔力の光が立ち上った。強化系の能力なのだろう。


 しかも、ただの強化ではない。ドワーフたちから感じられる威圧感は、倍増したと言っていいほどだ。ステータス面での強化も相当なものだと思われた。


 勇往邁進。エクストラスキルと言っていたが、自軍の能力を大幅に強化できるというのは、確かにエクストラに相応しい。


 配下の能力にもよるだろうが、ドワーフの戦士団であればその効果は絶大である。


「前進!」

「「「応」」」


 先頭に立つオーファルヴの号令の下、ドワーフたちがザッという音を立て、一糸乱れぬ動きで一歩を踏み出した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] まさに”いぶし銀”という印象の精鋭ドワーフ兵 ポールウェポンには浪漫を感じます フランがヒルト達の立ち回りを勉強しているのが良いですね 試合で勝っても天狗にならず、相手への敬意を忘れない…
[良い点] なるほど、個人の戦闘力ではデミトリスやウィーナレーンみたいな超人に劣るけど、軍勢を恐らくそれらと対抗できるレベルまで引き上げられるなら最強の一角と呼ばれるにふさわしいですね。 ただ、この手…
[一言] 統率力を求められるスキルだからフランには縁がないかな
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