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772 酒神の寵愛

 オーファルヴ女王はコルベルトたちとも挨拶を交わした後、再びフランに向き直った。


「ふむ……くんくん」


 何やら鼻を動かしている。も、もしかして臭い? いやいや、毎日お風呂に入っているし、装備だって浄化してるんだぞ? 大丈夫なはずだ。


 ただ、オーファルヴの態度を見て、何故か後ろに控えていたドワーフたちまでそわそわし始めたぞ?


 それまでは彫像かと思うほど、表情一つ変えずに女王の後ろでジッとしていたのに……。今はオーファルヴとフランをチラチラと横目で見ながら、鼻息を荒くしている。


「どうしたの?」

「フランよ。お主、酒を……それも相当いい酒を持っておるな!」


 目を輝かせて、そう叫ぶ。間違いなく、エルフの古酒のことだろう。


 だが、何で分かった?


「どうして?」

「ふははは! 我の鼻を誤魔化すことなどできぬわ!」


 わ、僅かにフランに残っていた酒の匂いを感じ取ったっていうのか?


「これのこと?」

「ぬなああああぁ!」


 フランが何気なく取り出した瓶を目にした瞬間、オーファルヴがとんでもない悲鳴を上げた。


 それまでの威厳のある態度が嘘であったかのような、驚愕の表情だ。その顔でフランが持つ酒瓶を見つめて、プルプルと震えている。威厳なんか欠片もない。


「そ、それは……。せ、聖樹の実を使ったエルフ酒……。しかも相当古いな?」


 見ただけで言い当てた。


「300年ものだって」


 フランの言葉を聞いた周囲のドワーフたちが、ゴキュリと喉を鳴らすのが分かった。オーファルヴと護衛たちだけではない。


 いつの間にか、兵士たちが遠巻きにこちらを見ていた。全ドワーフの目が、酒瓶に集中している。


 フランが軽く酒瓶を左右に動かしてみると、彼らの視線も一斉に動いた。異様な光景なんだが、これだけ動きが揃っているとちょっと面白く見えるから不思議だ。


「ち、ちなみにだが……。その酒を我に売るつもりはないか? 300万ゴルド出そう。どうだ?」


 メッチャ高い。だが、ドワーフにとってはそれだけの価値があるのだろう。


「本当はもっと出したいのだが……」


 いやいや、これ以上って……。どれだけ古くて希少価値があったとしても、300万だぞ?


 しかし、オーファルヴの顔は真剣だ。他のドワーフたちも、300万の言葉に驚いた様子がない。むしろ当然といった顔だった。


「国法で、300万までと決まっておってな」

「どういうこと?」

「ドワーフにとって、酒とは命の水だ。当然、美味い酒を飲みたいと思う」

「ん」

「王ともなれば、動かせる金もそれなりに多いわけだが……」


 ドワーフというのは、他の種族に比べて物欲、金銭欲が少ないと言われている。


 別に欲がないわけではない。種族的にワーカホリックの傾向がある彼らは、満足のいく仕事と、その後の美味い酒を欲しているだけだ。


 仕事で稼いだ金を全て酒につぎ込むなんて職人、珍しくもない。そして、美味い酒を欲するのであれば、それなりに金がかかる。


 希少なうえに、長期熟成されている物などになれば、値段に上限など存在しないだろう。


 そして、大昔のドワーフ王の中に、希少な酒を買い漁り過ぎて国庫を空にするどころか、凄まじい借金をこさえた王がいたらしい。


 その時に、年間に酒代として使っていい予算の上限と、1本の酒に対しての提示額の上限が国法として定められたという。


 禁止ではなく、上限を決めるというのがドワーフらしい。


 しかし、300万か。確かに大金だが、そこまで言われるほどのお酒だと思うと、簡単に売ってしまうのは勿体ない気もするな。


 売ることは問題ない。この酒は、報酬の代わりとして貰ったものだ。所有権は俺たちにある。


 ゴルディシアのギルドマスターに渡せば便宜を図ってもらえるとは言われたが、それだって絶対に届けてほしいと言われているわけではない。あくまでも、この酒の使い方の1つとして提案されただけである。


 ここでオーファルヴに300万で売ってもいいんだが……。


(どうする?)

『うーん、今お金に困っているわけじゃないし、これだけの酒は狙って手に入れることは難しいだろう』

(じゃあ、売らない?)


 とは言え、300万だ。たかが貰い物の酒1本と考えれば、十分にお得であろう。というか、貰い過ぎな気がする。


 俺たちが相談していると、オーファルヴが瓶に鼻を近づけてクンカクンカし始めた。


「ああ、我がスキルが疼いておる。この芳醇な美酒の香り……たまらん」

「スキル?」

「我には酒神の寵愛というエクストラスキルがあるのだ。美味い酒を見抜き、美味い酒に関係している人物を匂いで教えてくれるという、ドワーフにとっては最高のスキルだ!」


 エクストラスキルにしちゃショボイと思ったが、ドワーフたちは微塵もそんなことを思っていないらしい。


 むしろ、誇らしげだ。酒を愛する彼らにとっては、ある意味最高のスキルなのかもしれない。


「それが、超強いスキル?」

「うん? ああ、そういうことか。酒神の寵愛に戦闘力はないぞ。酒を探し出す鼻に、酒の熟成を倍に早める収納。注いだ酒の格を上昇させる手に、飲んだ酒の情報を識る舌。それに、酒のみに特化した鑑定能力。徹頭徹尾、酒のためのスキルだ」


 さ、さすが酒神の寵愛。酒の神による酒飲みのための能力だった。酒を飲んだら強くなるとかもなしだ。ただただ、美味い酒を飲むための能力である。


「お主の言っているのは、我の持つもう1つのエクストラスキルのことだろう」

「どんな能力?」

「そこはほれ、分かるであろう? なあ?」

「……このお酒あげたら教えてくれる?」


 いやいや! そこは酒を売る時に、スキルの情報も付けてもらうとか、交渉しないと!


「タダはいかん!」

「じゃあ、これを売るから、スキルのことも教えて」

「それならばよかろう!」


 オーファルヴが律儀なドワーフで良かった。


 そんな風にオーファルヴと酒の扱いについて話していると、ドワーフの兵士が近寄ってきた。


「女王様。抗魔の群れが近づいております」

「む。そうか。では、話の続きはまた後でだな。どうせならばスキルは実戦で見せてやろう」

「私たちもがんばる」

「ふははは! いいぞ! お主らの力、見せてもらおう!」

「ん!」


 最初はヒヤヒヤしたが、ドワーフとは仲良くやれそうだな。


今月は少々忙しく、次回以降は、7/27、7/31、8/4の更新とさせてください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドワーフギルドマスター、運がなかったね。 もう、飲めなくなっちゃったよ。
[気になる点] これだけ酒に目がないのにやはり最も尊敬されるのは鍛治師なのかな? 酒を醸造できる醸造職人も相当社会的地位、高くても良さそうなものだけど
[良い点] 女王様凄いですね。酒神の寵愛ってドワーフからしたら凄く羨ましいスキルなのでは笑 ついお酒を目で追ってしまうドワーフ戦士達可愛いです。そしてガルスが王族と家族という衝撃事実、驚きました! […
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