756 アマンダの告白
「しぃ!」
「む!」
「いい動きね!」
「ふふん」
フランとアマンダは、本人たちは軽くのつもりだが、傍から見たら殺し合いにしか見えない模擬戦を続けていた。
「鞭技・曼珠沙華!」
「くっ!」
「ギャン!」
場所は、アレッサから少し離れた場所にある丘だ。草原に木々がまばらに生えている。
珍しい動植物もなく、魔獣も少ないことから冒険者もあまり来ることがない、穴場であるらしい。
他の目を気にせずに模擬戦をするには適しているだろう。
「らぁ!」
「ガウ!」
「くっ! ウルシとの連携が前よりも……!」
2時間ほど、汗を流しただろうか。
満足したフランたちは、手頃な岩に腰かけて休憩をしている。
「もぐもぐ」
「オムオム」
「これ美味しいわねぇ。カレーにも驚いたけど、師匠は凄いわ」
『はっはっは、カレー師匠と呼ばれちゃいるが、デザートだって作れるのだよ』
フランたちが食べているのは色々な味のフルーツゼリーだ。汗をかいた後は、さっぱりしたものがいいからな。
こっちの世界の果物で作っているので、中々に個性豊かである。
爆発する木の実とか、下処理が大変だった。
飲み物も、俺お手製のレモネードモドキだ。
こっちの果物で、柑橘類に似た風味の物を使っている。色が真っ赤な果物なので、色はトマトジュースみたいだけどね。味はレモネードに似ているはずなのだ。
「ふぅー……」
レモネードモドキを飲みながら、アマンダが軽く息を吐く。その顔には微妙に憂いがあるように思えた。
『もしかして、好みに合わなかったか?』
「え? いえ、美味しいわよ。むしろ大好き」
『ならいいが』
「……昔から大好きな味なの」
呟くアマンダの視線は、フランを向いている。
「?」
「美味しい?」
「ん!」
「そう……。良かったわね」
なんだろう。模擬戦の途中から、ちょっと様子が変だったんだよな。戦闘中の軽口で、ゴルディシアに行くって言ったあたりからだと思うんだが……。
危険な場所だから、心配している? ただ、それともちょっと違う気がするのだ。
「ねぇ、フランちゃん。次、ゴルディシア大陸に行くのよね?」
「ん! ベリオス王国の依頼を受ける」
「本当に、行きたいの?」
「ん。神剣を持ったランクS冒険者がいる。それに、師匠のためにも、ゴルディシアに行ってトリスメギストスに会わなきゃいけない」
「師匠のため?」
『あー、トリスメギストスが、インテリジェンス・ウェポンを持ってるって話があってさ。俺の同類だし、会って話を聞きたいんだよ』
俺の精神が狂うかもしれないなんて話をして、アマンダを心配させる必要はないだろう。
ああ、俺を心配するんじゃなくて、俺を失ったフランのことを心配するだろうからな。
「そう……。そうよね」
「どうしたのアマンダ?」
「……フランちゃんは、パパやママのことを覚えてるかしら?」
「? 勿論覚えてる。忘れない」
「うん……。ねぇ、私の話、少しだけ聞いてもらって良いかしら?」
「ん」
いつもと様子が違うアマンダの言葉に、フランが真剣な顔で頷いた。
「私は、昔から孤児院を開いて、クランゼル王国内の孤児たちを引き取ってきたわ。ダンジョンで両親が亡くなった子もいれば、私が闇奴隷商人から助け出した子なんかもいた……」
「ん」
「当然、色々な種族がいた。人間、エルフ、ドワーフ。そして獣人……。黒猫族の子たちもいたわ」
「黒猫族?」
「ええ……。男の子と女の子で、とても仲のいい2人だった。ヤンチャで、向こう見ずで、冒険者になるっていつも言っていたわ」
黒猫族で冒険者か。それは、相当苦労をしただろうな。フランの親と同じだ。きっと、進化を目指していたんだろう。
「結局、私が冒険者になるのを禁止していたせいで、孤児院から飛び出していってしまったけどね」
それは本当に無茶だ。しかし、フランを見ていると確実にあり得ると思ってしまう。フランがその立場でも、同じように行動しただろう。
「でも、ある日、数日間だけ戻ってきてくれたことがあるの。自分たちの子供を見せにね」
アマンダがそう言って、嬉しそうに微笑む。その時のことを思い出しているのだろう。
しかし、すぐにその笑顔が消え、悲しさがその顔に影を落とす。
「あの時、引き止めるべきだったのかしら? 今でも後悔することがある」
「それって……」
「あの子たちが殺されたと聞いたのは、それから8年後のことよ。私は彼らから届いた手紙を頼りに、住んでいた村にすぐに向かったわ。でも、そこには何も残っていなかった。あの子たちの遺体はなく、あの子たちの子供の姿もどこにもなかった」
これが、アマンダがフランに構う理由なのかもしれないな。
子供好きというだけではなく、フランにその黒猫族たちのことを重ねているのかもしれない。
「今でもまだ、あの子たちの笑顔や声が思い出される。守れなかった、可愛い子供たち。2人の名前は――」
アマンダがそこで軽く言葉を止めた。そして、意を決したように先の言葉を吐き出す。
「あの子たちの名前は、キナンとフラメア。そして子供の名前はフラン」
「!」
『え? えぇ?』
レビューをいただきました。
ユーザー名繋がりで興味が増したということで、そんなご縁もあるんですね。
しかも、作者の健康と精神状況まで気遣っていただきまして……ありがとうございます!
ギリギリの戦闘描写は作者のギリギリな状況が投影されている説。あるんですかねwww