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752 ゴルディシアのこと


 レイドス王国の暗躍や、デミトリスのハッチャケによって二転三転し、色々と台無しになってしまった閉会式がなんとか終了した。


 冒険者ギルドが主導してパパッと終わらせた感じである。


 追い出されるように闘技場から出された観客や来賓から文句の声が上がるかと思ったら、意外と平気だったらしい。


 それよりも、大事件の目撃者になった興奮のほうが勝ったのだろう。むしろ、凄いもの見れた的な反応のほうが大きかったようだ。


 俺やフランもすでに闘技場を後にし、冒険者ギルドに移動してきている。


「さて、色々あり過ぎて今さらかもしれないけど、優勝おめでとう」

「ありがと」

「いやー、文句なしの最年少優勝だろうね」


 ディアスがそう言いながら、小さな勲章を取り出した。その横に、中からジャラリと音がする革袋を置く。


 優勝者を示す金のウルムット勲章に、賞金20万ゴルドであった。


『去年の3位の勲章よりも豪華だな』

「ん。こっちのがキンキラ」


 さすがに1位用なだけあって、彫刻も複雑で、金メッキが施されている。


「いやー、ほんとうは閉会式で授与したかったんだけど、貴族連中の動揺が酷くてね。特に大臣たちなんかは頭を抱えて右往左往さ」

「ランクSが敵国にいっちゃったから?」

「戦力的な問題だけじゃない。デミトリスはあんなんでも、民衆人気は抜群だった。各地で暴れる高位魔獣を、50年以上ひたすら狩り続けていたからね」

「なるほど」

「一般人には優しいところもある。自由人だからこそ、自分の良心にも素直だ。貴族を相手取って、弱者を守ろうとすることも多い」


 デミトリスの傍若無人さの被害を受けるのは貴族や冒険者が多いので、民衆からすると良い部分しか見えないのだろう。


「それが敵国に行ったとなると、民衆から不満が出てしまうかもしれない。ギルドとしても、超高難易度依頼を進んで受けてくれるあの人には非常に助かってたんだけどね……」

『そりゃあ、自分から進んで死地に赴くような冒険者、そうそういないだろうな』

「でもさ、僕にどうにかしろって言われてもねぇ。無理だと思わないかい?」

「ん。無理」

『無理だな』


 あの老人の行動を制御できる者なんか、いないだろう。


「だよねぇ。まあ、この話はこれくらいにしておいて、君はこの後どうするんだい? ヒルト君とゴルディシアへ渡るような話をしていたけど」

「ん……」

「おや? 何か悩んでるみたいだね」

「ん。もしかして、この国とレイドス王国は戦争になる?」

「もしかして、参加するつもりかい?」


 ディアスが探るような目つきで、フランを見ている。俺もそこは気になっているのだ。正直、戦争なんて参加してほしくない。


 俺たちが見守る前で、どこか困り顔のフランがおもむろに口を開いた。


「……わかんない。レイドス王国は嫌い。でも、戦争するのは違う気がする。ただ、攻めなくても、守ることはできる。アレッサとか」

「戦争なんて、君みたいな齢の子が参加するもんじゃないよ。まあ、アレッサの防衛なら、そこまで酷いことにはならないと思うけど……。それに、しばらく戦争にはならないさ」

「そうなの?」


 今回、国としても顔に泥を塗られた形のはずだ。レイドスに報復をするのは、国としては当然な気もするが……。


「冒険者同士の喧嘩じゃないんだ。しようと思って、即座にできるものじゃない。やるならレイドス以外の国と足並みを合わせなくちゃならないし。まあ、外交と準備だけでも数ヶ月はかかるかな? 何もしないってことは絶対にないだろうけど」

「そう……。なら、いい。私はゴルディシアに行く。ウィーナレーンの代理」

「いいと思うよ。武闘大会で優勝したことで、うるさい勧誘も増えると思うし。その点、ゴルディシアに渡っちゃえば少しはましになる。それに、ちょうどいいよ」

「?」

「君のランクアップについてさ」

「ランクアップ! Aになれる?」

「いや、流石に今すぐは無理だよ?」


 そりゃそうだろう。ランクAになるには、戦闘力以外にも色々な経験が必要なはずだ。


 以前も言われたが、貴族との交渉や、戦闘指揮の経験。冒険者としての知識に実績。後進の指導。様々な要素が加味されるだろう。


 むしろ、戦闘力以外の部分が重要なのだと思われる。


 その点、フランは戦闘力以外がほぼ足りていないような状況なのだ。


 いくらランクAに勝利したとしても、それだけでギルドマスターたちの承認が得られるとは思えなかった。


「君の場合、戦闘力は文句なし。ただし、実績が足りていない。まあ、これは以前も全く同じ話をしたかもしれないね」

「ん」

「で、冒険者ギルド的に評価が高い依頼っていうのがいくつかあるんだ。脅威度A以上の魔物の討伐や、希少霊薬の材料集めなんかだね。そんな高評価依頼の中に、ゴルディシアでの活動っていうのがあるんだ」


 世界的に貢献するような依頼は、冒険者ギルドの評判を上げることにもなる。そういった依頼は評価が高く、ゴルディシアでの戦闘もその内に入るらしい。


「ちょろっと行く程度じゃダメだけど、ある程度の戦功を上げれば、ギルドとしても評価せざるを得ない。それだけでランクAに上がれやしないけど、目指すならこなしておいて損はないと思うよ」

「わかった。がんばる」

「頑張って。それで、少し相談があるんだけど、いいかな?」

「相談?」

「ああ。多分だけど、君はゴルディシア大陸に到着したら、かなり自由に行動できると思うんだ。ベリオスの冒険者運用は、昔からほぼ同じだから」

『ああ、それはウィーナレーンからも言われてる。到着後はほぼ自由行動が許されるそうだ』


 ウィーナレーンの後ろ盾があれば、他の国もフランに無理を言えないだろうって話だった。


「できれば、ゴルディシア大陸のギルドで依頼を受けてほしいんだよね。抗魔討伐とは別に」

「ゴルディシアにも冒険者ギルドがある?」

「当然。冒険者あるところに冒険者ギルドもありさ」


 大量の冒険者が統制を失ってバラバラに戦うよりは、ギルドでしっかりと管理をしたほうが効率もいいだろうしな。当然、冒険者ギルドの出張所もあるか。


「ディアスはなんでゴルディシアで依頼を受けてほしい?」

「正直言ってこれは、ウルムット冒険者ギルドの点数稼ぎみたいなものかな」

「?」

「今回の大失態で、僕の進退だけじゃなく、ギルドの評判自体に傷がついた。それは分かるだろ?」

「ん」


 レイドス王国の工作員に良いようにかき回され、大規模な騒乱を起こされたのだ。どう見ても、これはウルムットのギルドの失態だろう。


「ここで、ウルムット武闘大会の優勝者であるフラン君がゴルディシアで活躍したってことになれば、少しは風当たりもマシになるかもしれない。ここは僕らのために、利用されてくれないかなぁ?」

『ず、随分正直にぶっちゃけたなディアス』

「君らには誤魔化さずに、正直に話すほうがいいと思って」


 まあ、俺たちの仲があっての発言だろう。


 ゴルディシア大陸に行って、冒険者ギルドがあればそこで依頼を受けることになると思うし、そこでウルムット冒険者ギルドの名前を出すくらいは問題ないが……。


『フラン、どうする?』

「ん。報酬次第で、利用されてやってもいい」

「あはは、冒険者らしくなったね! ということで、フラン君にはこの紹介状をあげよう」

「誰?」

『イザリオ?』


 宛て先は冒険者イザリオとなっている。ゴルディシアのギルドマスターとかだろうか?


「え? 知らないのかい?」


 ディアスが驚くってことは、有名人なんだろう。そう思ったが、説明してもらうと有名人なんてレベルじゃなかった。


「ランクS冒険者、炎剣のイザリオ。神剣イグニスを所持する、世界最強の人間の一人さ」

「神剣!」

『ランクSだと!』


 そりゃあ、冒険者なのに知らない俺たちが悪いわ。


「デミトリスをランクS冒険者一の問題児とするならば、イザリオは一番の優等生ってところかな? ランクS冒険者で唯一の常識人枠と言えるかもしれない。ま、クセの強さは同じくらいだけどさ」


 そりゃあ、ランクSになるような冒険者だ。これでクセがなかったら逆に驚きだ。


「知り合いなの?」

「彼は遥か昔にウルムットで活動していた時期があってね。僕の紹介状を持っていけば、無下にはされないはずさ」


 さすが長年冒険者ギルドのマスターをやってるだけある。顔の広さが凄まじいのだ。


「稽古をつけてもらってもいいし、話を聞いてもいい。それに、ゴルディシアの主なんて言われる彼と知り合っておくだけでも、あの大陸で活動しやすくなると思うよ。それと、これも持っていくといい」

「これは? お酒?」

『おいおい、マジかよ。なんだこれ!』


 酒は酒なんだが、鑑定すると300年物と表示されたのだ。さすがファンタジー世界。こんなとんでもない酒が存在しているとは!


「僕の秘蔵の、エルフ酒さ」


 ある場所にかつて存在したエルフの国では、彼らだけが育てられる聖樹という樹の実を使い、特別な酒を少量作っていたそうだ。これは、それの古酒で、火山活動で滅んだ大昔の都市の遺跡から偶然発見されたものであるという。


「奇跡的に酒蔵が無事でね。温度調整の魔法陣も動き続けていたお陰で、中の酒も無事だったんだよ。金を積めば手に入るってもんじゃない。市場に流せば、100万ゴルドは下らないだろうね」


 メチャクチャ高いな! だが、地球でも似た話はあったはずだ。引き上げた沈没船に積んでいた古いワインが、数百万円で取引されたり。


「お酒……。おいしいの?」

「フラン君にはまだ早いかな? まあ、これはゴルディシアのギルドマスターに渡すといいよ。彼はドワーフだからね」

『なるほど。下手な紹介状なんかよりも、よほど効果がありそうだ』

「どうだい? 報酬になるかな?」


 悪戯っぽく微笑むディアスに、フランが目を輝かせて頷き返す。


「十分。師匠もこれでいい?」

『ああ。ドワーフ垂涎の古酒に、ランクS冒険者とのパイプなんて、得ようと思って得られるものじゃないからな』

「ありがとう。恩に着るよ」


 さて、次は予定通りにゴルディシア大陸か。



レビューを2ついただきました。ありがとうございます。


レビューへの反応が面白いとか……。ハードルが上がってしまったっ!

「ちっ。全然面白くねーな!」って思われたくないので、今回は真面目に書きましょうかね? 

いえ、いつもは不真面目ってわけじゃないですが。

最初から最後まで褒めちぎっていただいて、嬉しい限りです。ただ、師匠とイメージが被るというのは、喜んでいいんですかね……?



ずっと読んで下さっているそうで、有り難いです。

転剣を読んで小説を書き始められたということで、なんだか嬉しくなりました。

執筆を続けていると様々な苦労がありますが、作品が完成した時の充実感は他では得難いものがあると思います。

無理をせずに頑張ってください。私も、無理をせずに頑張ります。

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― 新着の感想 ―
おさけほしい…
やべえ酒 貴重すぎるにも程があるだろ それをサラッと出すディアスも流石だな……
[良い点] ランクS冒険者の株戻しにきてるとこ
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