73 進撃
ジャンの使役するフライの能力は、俺の想像以上だった。未知の階層だというのに、1階層と同じようにサクサクと進めるのだ。しかも、宝箱などの位置も完璧で。
幽体の回廊を突破した後は、ほとんど立ち止まることもなかった。
うーん、1パーティに1体ほしいな。死霊魔術を上げたら、俺達にも1体譲ってくれんかな?
そんなことを言ったら、ジャンに無理だと一刀両断された。なんでも、高価な魔法薬や道具を惜しみなく使っているので、1体作るのに1000万ゴルドかかっている上、制作に3年以上かかるらしい。しかも、素体となるガスト自体が、影分身を持ったユニーク個体を使っているとか。
金と運と時間、全部が必要ってことか。残念だが、諦めよう。
「暇」
「はっはっは。ダンジョンで暇なのはいいことではないか!」
「でも、暇」
うーん。戦闘も俺が片づけるし、臭くてジメッとしてるし、フランのフラストレーションが溜まってきたな。
「む……」
「う?」
「フライが階段を見つけたらしい」
『もうか!』
「うむ、ただ、その階段の前にガーディアンがいるな。巨大な角を持った、オーガタイプのゾンビの様だ。雑魚もかなりいるな」
「ほんと?」
フラン、そこは目を輝かすところじゃないぞ?
「はっはっは! 頼もしい限りであるな!」
「まかせておいて」
「オオン!」
「ふはははは! では、行くとしようか! いざ、鬼退治である!」
お供は黒猫、剣、狼だけどな。まあ、キビ団子なんかより余程いい物もらえるんだ、死ぬ気で頑張るさ。
途中で宝箱を回収しつつ、ガーディアンの待つという広間の前にたどり着く。そこには集合して合体したフライが待っていた。
「中の様子は――オーガ・ゾンビ1体。ソルジャー系が20体。小型のラットやドッグが100体ほどであるな」
ジャンがアンデッド・サーチで中の状況を探る。
『じゃあ、突入して範囲魔術だ』
「わかった」
「オン」
大きい奴よりも、小型の動物ゾンビにチョロチョロされる方がウザいしな。威力は低いが範囲の広い、Lv8の風魔術、ゲイル・ハザードを使うことにした。広間は30メートル×30メートルくらいはあるらしいが、この術なら全域をカバーできる。フランと連続で放てば、完璧なはずだ。
『ウルシは、ソルジャー系をやれ』
「グルルルゥゥ!」
「ジャンは?」
「我は大型の足止めをしよう。セルカン、フライはここで待機」
「ヴァ」
「――」
『よし、突入するぞ』
「ん」
階層ボス戦開始だ。
『「――ゲイル・ハザード」』
豪風が広間に吹き荒れ、魔獣たちを粉砕していく。
「アオオオォォォォォン!」
ウルシの放った漆黒の槍が、4体のゾンビ・ソルジャーを貫く。
「ふははははは! 圧倒的ではないか!」
余裕綽々で高笑いするジャンだが、仕事はきちんとやっている。ジャンのアンデッド・ジェイルが、オーガ・ゾンビを捕まえて封じていた。
『じゃあ、デカイのはジャンに任せた!』
「まずは雑魚」
「オウ!」
俺たちはゾンビの群れに飛び込んだ。
ソルジャーはゾンビらしからぬ素早い動きと、ゾンビらしからぬ技量で繰り出すカウンター攻撃が厄介な相手である。まあ、一撃で倒す俺達には関係ないんだけど!
フランは火炎属性剣で剣技を使い、まずは腕を切り落としていた。これで反撃ができないからね。そして、頭部破壊後に、体を真っ二つにして、再生不可能なダメージを与えて倒している。炎の属性剣は再生を遅らせる効果もあり、ゾンビに対しては有効なのだ。
一番お気に入りの雷鳴属性の剣が使えていないので少々不満なようだが。これはこれでヒートサーベルみたいで、ガンダム世代の俺にはグッとくるんだけどな。
ウルシはもっと派手だ。闇魔術と牙で、ゾンビの全身を粉々に粉砕していた。うーん、毛皮が汚れてて、ちょっとバッチいぞ。あとで水洗い決定だ。
俺? 俺はもっとスマートだぜ? 魔力感知で魔石の位置を割り出し、あとは突進して貫くだけの簡単なお仕事ですから。
ただ、1階の広間と同様に、死霊が次々と湧き出ているので、また奴らであふれかえってしまったが。ふふん、良い経験値だぜ。
ゾンビどもを倒し続けていると、直ぐに死霊の召喚は途切れ、あっと言う間に残るはオーガ・ゾンビだけとなる。
『おりゃ』
「ゴウゴオオォォォ!」
はい、瞬殺。何せ、ジャンが動きを封じている。念動カタパルトで魔石を貫くのは至極簡単なことだった。
〈自己進化の効果が発動しました。自己進化ポイント50獲得〉
来た来た来た~! ついに来たぜ! このダンジョンでは狙って魔石を吸収できる場面は少なかったが、それでもすでに300以上の魔石値を獲得していたしな。
名称:師匠
装備者:フラン
種族:インテリジェンス・ウェポン
攻撃力:524 保有魔力:3000/3000 耐久値:2800/2800
魔力伝導率・A+
自己進化〈ランク10・魔石値4511/5500・メモリ89・ポイント51〉
スキル
鑑定:Lv7、鑑定遮断、形状変化、高速自己修復、自己進化〈ランク10・魔石値4511/5500・メモリ89・ポイント51〉、自己改変〈スキルスペリオル化〉、念動、念動小上昇、念話、攻撃力小上昇、装備者ステータス中上昇、装備者回復小上昇、保有魔力小上昇、メモリ中増加、魔獣知識、スキル共有、魔法使い
ユニークスキル
虚言の理:Lv5
スペリオルスキル
剣術:SP
ふはははは! これでまた強化ができる! さーて、今度は何を育てようか? いや、ポイントを使うのはダンジョンを出てからにしようかな?
それ以外だと、魔力伝導率が上がった! いいね。これで更なる高みに一歩近づいたって訳だ。しかも、新スキルまで獲得していた。
形状変化:魔力を消費して、望む形に変形可能。
もしかして、剣以外の武器に変形できるってことか? この後出てくる敵によっては、試してみるか。
それにしても、なんか楽勝だったな。上陸までの苦戦に比べて、内部が簡単すぎる気がするんだが……。考え過ぎか?




