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744 ケイトリーとニルフェを探して


 闘技場の外に出た俺たちは、ジュディスら緋の乙女と分かれ、人質にされていると思われるケイトリーとニルフェの探索を開始することにした。


 まず向かったのは、闘技場にほど近いというアジトだ。敵の黒幕なども、そこにいたはずなんだが……。


「やはりいないか!」

「ケイトリーたちもいない」


 アッバーブの証言通り、アジトはもぬけの殻だった。分かってはいたが、可能性は潰しておきたかったのだ。


「さて、ニルフェお嬢さんたちの場所を探さなきゃならないんだが……。ウルシ、お前さんの鼻が頼りだ」

「ウルシ、がんばって」

「オン!」


 フランを背に乗せたウルシが、クンクンと鼻を動かす。昨日など、凄まじく離れた場所にいるアンデッドを探し当ててみせたのだ。


 今回も、期待はできるだろう。


「クンクンクンクン!」


 ウルシがアジトの周囲を歩きながら、地面の匂いを嗅ぐ。時おり立ち止まり、鼻を伸ばして空気中の匂いも嗅ぎ分けているようだ。


「オフ!」


 ウルシが小走り程度の速度で進み始める。その後に付いて、俺たちもウルムットの町を駆けていった。


『混乱というよりかは、騒めいている感じか』

(ん)


 突如町中に出現したアンデッドや、暴れ出したチンピラはもう倒されたらしい。すでに残骸となったアンデッドを前に、得意げな冒険者たちの姿が各所で見られた。


 兵士の派遣が遅れても、この時期のこの町では、一般人に大量の冒険者が混じっている。対処は容易だろう。


 冒険者を知らないレイドスの奴らが立てた計画だから、仕方ないのかもしれないが。


 そうして小走りに町中を進む中、コルベルトが複雑な表情で口を開いた。


「フラン」

「ん?」

「優勝、おめでとう。俺は、お前がお嬢さんに勝利するとは思っていなかった」


 コルベルトの場合、元門弟というのもあるのだろう。やはり、デミトリス流びいきになるに違いない。しかし、フランが負けると思っていた理由はそれだけではないようだ。


「経験の差も大きい。お嬢さんは、剣士相手に場数を踏んでいるからな。それに、相性の問題もある。デミトリス流は、対人に特化している流派だ。まあ、師匠は別格というか、相手が誰でも無敵だが……。やはり、対人戦が一番得意なことに変わりはない」


 受け技なども、結局は武器を持った人間を想定しているようだった。魔獣相手に流用できるが、最も効果を発揮するのが、対人戦なのだろう。


「お前が、他のランクA冒険者に勝ったことは分かっている。去年のゴドダルファ戦は、俺も見ていたしな。だが、あの人は対軍勢や、対魔獣に特化していた。同じランクAでも、得意な戦場が全く違う」


 確かにゴドダルファの能力は、周りを囲まれながら、大技をぶっ放すようなスタイルに向いていた。タイプで言えば、今年フランと戦ったビスコットに似ている。あれをさらに堅く、強くしたのがゴドダルファだった。


「あれからたった1年だ。フランが成長したとしても、武闘大会という条件の中でならお嬢さんの勝ちは揺るがない。そう思っていたんだがな……」


 今でもデミトリスのことを尊敬しているコルベルトとしては、その後継者が負けるというのは複雑な心境なのだろう。


 友人の勝利を祝いたい気持ちと、それを残念に思う気持ち。その間で揺れているらしい。ただ、一つ分かるのは、ヒルトに対して恋愛感情はなさそうということかな?


 あくまでも尊敬する師の後継者。自分以上に才能がある元同門。仲間意識や敬意はあると思うんだが……。


 しかも今回のフランの勝利によって、ヒルトが後継者になるのはまだ先になってしまった。


『うーむ……。ヒルト、頑張れ!』

(師匠?)

『あ、いや。なんでもない。ちょっと、ヒルトはどうしているか気になっただけだ』

(ふーん)



 ウルシの鼻を頼りに進むこと10分。


「オン!」


 不意にウルシの速度が上がった。全速力には程遠いが、普通の犬の全力疾走くらいは出ているだろう。


『匂いが近くなったのか?』

(オン!)


 ウルシは角を曲がり、通りを横切り、一目散に駆けていく。ただ、本当にこれでいいのだろうか?


 ウルシの進む方向が少しずつ曲がっていった結果、闘技場に戻るような進路になってしまっていたのだ。


『本当にこっちでいいのか?』

(オン!)


 間違っていないらしい。


 しかし、ウルシは、結局見覚えのある場所に戻ってきてしまった。


『闘技場だな』

「オフ……?」


 ウルシが目の前の闘技場を見上げながら、軽く首を傾げた。再度鼻をヒクヒクさせ、再び首を捻る。


「ウルシ?」

「オン」


 ウルシが闘技場を見つめたまま、軽く咆える。


「もしかして、闘技場のどこかにいるって言ってるんじゃないか?」

「オン!」


 コルベルトの言葉に、ウルシが「その通り!」って感じの顔で再び咆えた。


 どこかに人質として確保した状態で、デミトリスやオーレルを脅すつもりなのだと思ったが……。目の前に連れていって、盾として使うつもりなのか?


 というか、もしかして俺たちが闘技場を飛び出した時には、すでに黒骸兵団のアンデッドがニルフェたちを連れて闘技場に来ていたのだろうか?


 と、ともかく、今は行動あるのみ!


 俺たちは再びウルシを先頭に、闘技場の中へと突入した。


 アンデッドの姿はない。ここも既に倒されたのだろう。ただ、強力なアンデッドが多かったせいか、至る所で怪我をした冒険者たちが寝かされ、応急処置が行われていた。


 通路を進んでいる最中、前方から大声で話す声が聞こえてくる。慌てた様子の兵士たちだ。


「おい! 閉会式で何か起きてるらしい!」

「何かって、なんだよ!」

「知らん! だが、アンデッド騒ぎといい、ただ事じゃない! 急ぐぞ!」

「わ、わかった!」

「くそっ! 外の騒ぎのせいで、タダでさえ警備兵が足りていないっていうのに!」


 すでに黒骸兵団は閉会式に乗り込んだらしい。これは急がないとマズそうだ。


「ウルシ、急ぐ」

「オン!」


 兵士たちを追うように、ウルシが再び駆け出す。追い抜いた時にメチャクチャ驚いていたな。すまん。


「オンオン」


 ウルシに先導されて幾つかの道を曲がると、見覚えのある通路に辿り着いた。ここを抜ければ、観客席に出るはずだ。


 しかし、ここからでも異変が感じ取れる。閉会式が行われているはずなのに、驚くほどに静かなのだ。


「待った! 一度止まれ!」

「オン?」

「このまま突っ込んでも、何が起きているのか分からん。一度、偵察をするべきだ」

「なるほど」

「オン」


 そりゃそうだ。状況も分からずに無暗に突入しても、どう動けばいいのか分からないのだ。


 だが、フランとウルシは「なるほど、その手があったか!」みたいな顔をしている。お前ら、もしかしてこのまま突っ込むつもりだったのか?


「まず、この先にニルフェお嬢さんと、もう1人の少女はいるのか?」

「オフ」

「なに? いないのか? 両方か?」


 コルベルトがウルシに質問をぶつける。状況をまとめると、この先にいるのはケイトリーだけで、ニルフェは闘技場内の別の場所にいるらしい。


 奪還されにくいように、分けて捕まえているのだろうか?


「なら、私たちも分かれる。ウルシとコルベルトで、ニルフェをお願い」

「待て! 今のフランを1人には……!」

「へいき。無理はしないから」

「だが……。いや、そうだな。俺が行くほうがニルフェお嬢さんも安心するか……。わかった。ニルフェお嬢さんは任せろ」

「オン!」


 ウルシとコルベルトがニルフェの居場所を探しに離れていく。俺とフランがケイトリー担当だ。


 フランは激しい戦闘は無理だし、実質俺担当である。謎の剣操作スキル、操剣演武の出番だろう。


『まずは、閉会式の状況確認からだな』

(お願い)

『おう。ちょっと待ってろ』


 俺は飾り紐を極細の糸に変えて、通路から観客席へと伸ばしていった。俺の場合、糸一本でも視覚は確保できるのだ。


「――さあ! この首輪を自分の首に嵌めよ! デミトリス!」


 観客席へと到達した俺の視覚に飛び込んできたのは、舞台の上で勝ち誇ったように叫ぶ、鉄仮面を被った男だった。



レビューありがとうございます。

なろうで3指に入るとか、ジャンプよりも読んでるとか、褒められ過ぎて怖いwww

医療従事者様ということで、今は特に大変なご職業の1つかと思います。

そんな方に少しでも楽しんでいただけているのであれば、書いている甲斐があります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >ヒルトに対して恋愛感情はなさそうということかな? なんてこった こういう力関係だと大抵、 弱い男の方が強い女に恋してて、 女の方は元からくっそ強い上に現在進行でガンガン鍛錬してて、 更…
[一言] やっぱり、ヒルトが持ち帰る以外に道はない、か不憫な しかし、閉会式で堂々とやるとはいい根性している
[一言] Sランク冒険者を束縛状態に出来ると思ってるあたり使い捨て感が強いな もしかしたらレイドスの風潮でそこまで強くないと思ってるのかもしれん
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