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734 試し斬り


 ヒルトとナイトハルトの試合終了後。俺たちはナイトハルトの見舞いにやってきていた。


 それほど親しい間柄でもないし、最初は止めておこうかとも思ったのだ。ただ、復活したとはいえ、その死に方はかなりショッキングだった。


 様子だけでも確認しておこうということになったのだ。聞きたいこともあるしな。


 だが、医務室に入る直前、扉を開けて出てきたナイトハルトとばったりと出くわす。


「ナイトハルト。もう平気なの?」

「おや、フラン殿ですか? もしかして、僕のために?」

「ん」

「それはありがとうございます。ですが、もう大丈夫ですよ」


 ナイトハルトの声は、本当に大丈夫そうだ。至極冷静な声色に感じた。頭が爆散するという死に方をしたのに、あまりショックはないらしい。これも経験故なのだろうか?


 この状態だったら、気になっていたことを聞けそうだ。


「ねえ」

「なんですか?」

「団長、やめたの?」

「聞こえていたのですか……」

「ん」


 正確には、俺が聞いていたんだが。どうやら本当のことであるらしい。ナイトハルトの声色がやや沈むが、すぐに明るい声で返してくる。


「ははは。まあ、そろそろ後進に席を譲る時期がきたということです。齢のせいか、最近は動きも鈍くなってきましたから」


 もっともらしい理由を口にするナイトハルトだったが、それは全て嘘だった。他に理由があるらしい。


「ほんとに?」

「ええ、本当ですよ」


 色々な事情があるのだろうし、あまり口にはしたくない理由なのかもしれない。


 気にはなるが、隠し事を無理に聞き出せるほど、フランはナイトハルトと親しくはない。


 そもそも、団長を辞めたという話が気になったのはナイトハルトを気にしてというよりは、王都で世話になったエリアンテや、他の団員たちのことが心配だからだ。


 結局、当たり障りのない話しかできなかった。ただ最後に、背を向けて去ろうとしたナイトハルトが思い出したかのように激励の言葉を口にした。


「明後日、色々あるでしょうが、頑張ってください」

「そっちも」

「ええ、勿論です。では」


 色々っていうのは、予想される激戦のことだろうか? それとも、ヒルトのコルベルトへの想いを知っていて、絡み合う色々な因縁のことを指していたのか?


 まあ、最後の激励は、本心だったな。



 翌日。明日は決勝戦だというのに、俺たちの姿は町の外にあった。


『フラン、本当に大丈夫なんだな?』

「ん。もうへいき」


 本当は、明日に備えて体を休めるべきだろう。神属性を使い、激戦を繰り広げた消耗が僅か数日で治るはずがない。


 しかし、フランが外に出たいと言い始めたのである。それは、対ヒルト戦の前に自らの戦闘感覚を研ぎ澄ませ、さらには新たな力の確認を行うためである。


 特に、確認したいのは2点。


 1つは、新たにレベルを上昇させた、肉体操作法スキルの習熟。これは、様々な肉体強化系のスキルが統合された、全ステータス強化が可能な上位スキルである。


 現状、デミトリス流奥義・天を使用した状態のヒルトに対抗するには、潜在能力解放を使うしか策がないような状態だ。


 そこで、俺たちは肉体操作法のレベルを上昇させることにしたのだった。ただ、いきなりレベルマックスにしたところで、使いこなせなければ意味はない。


 とりあえずレベルを2つ上げて、様子を見ることにした。


 もう1つ確認したいのが、俺の加護についてだ。シビュラとの戦いで、俺は神の加護の使い方を覚えた。


 あの時は混沌の神の加護の力だけを引き出したが、それも完璧ではなかったし、知恵の神の加護はまだ意識したこともない。


 ならば、加護の力の使い方を覚えれば、少しは戦力の底上げになると思われた。他にも、剣神の祝福なども、もっとうまい使い方があるかもしれない。


 それらの検証のため、俺たちは町の外のアンデッド退治にやってきたのだ。試し切りの相手にはちょうどいいだろう。


「オンオン!」

「ウルシ、見つけた?」

「オン!」


 アンデッド――特にゾンビを探すならウルシの鼻に勝るものはない。俺たちの探知範囲の外であっても、すぐに発見してくれるのだ。


 ウルシの先導で森の中を歩くと、すぐに目的の相手を発見していた。


「いた」

『数も数匹で、ちょうどいいな』

「まず、私がやる。いい?」

『わかった。でも、無茶はするなよ』

「ん」


 そうして魔獣相手にレベルアップした肉体操作法スキルの試運転を行なったのだが、これがなかなか上手くいかない。


 相手が雑魚過ぎて、瞬殺してしまうのだ。全然ちょうどいい相手ではなかった。


 速度は間違いなく上昇しているが、腕力や動体視力などに関しては全く確認できていない。フランにとっては、巻き藁を斬るのと大して変わらないし、仕方ないのだろうが。


「もう少し強い奴がいい」

『うーん、あまり無理はしたくないけど、さすがにこれじゃあ意味がないしな……。ウルシ、もう少し強そうな相手を探せるか?』

「オフ」


 ウルシが「やってみましょう」とばかりに、軽く吠えた。そして、集中するように目を瞑ると、天に向かって鼻をツンと突き出し、ヒクヒクとさせ始める。


 十数秒後、ウルシがカッと目を見開いた。


「オン!」


 北を向くと、自信満々に咆える。本当に強そうなアンデッドを感知したらしい。


「ウルシ、すごい」

『よくやったな! 案内を頼む!』

「オン!」


 そうして走り始めたのだが、想像以上に遠かった。5分近く走ったのだ。小さな山を一つ越えてしまった。


『おいおい、こんな遠くなのか?』

「オン!」

『いったい――これか!』


 ようやく俺にも相手の存在が感知できた。なるほど、かなり禍々しい魔力が発せられている。


『この山の先だな。ここからは慎重に行くぞ』

「ん」


 これ、試し切りの相手にするにはちょっと強すぎないか? 少なくとも、ランクCはありそうだ。


 まあ、やばければ転移で逃げればいいだろう。ここで強敵とやりあって、消耗してしまったら本末転倒だからな。


『さて、相手はどんな魔獣かね』


レビューをいただきました。ありがとうございます。

戦闘シーンは頑張って書いているので、見どころの一つに挙げていただきとても嬉しいです。

これからもフランと師匠の成長を見守っていてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 虚言の理って普通の会話でも、少し気になったら使っちゃってるんですかね? 特に伏線とかでないとかだったらどうなんだうなぁ、仕方ないのかなぁ、とか思うんですけど。 実は虚言の理自体に自然と使うよ…
[一言] もう強いアンデッドがいるってだけであの国かな?って思っちゃうw
[良い点] ランクCのゾンビ・・・あ・・・(察し) 第一次カレー事変を思い出します こういう展開は大好きだw つい助言するナイトハルト フランは良い子だから、ナイトハルトも良心が痛む事でしょう エリ…
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