729 Side 武闘大会の裏で
Side とある3人組 4
「凄まじい試合だったな。やっぱ、冒険者は警戒しないといけないね」
「そうっすね、姉御。あの爺さん、やばいっすよ。全く見えなかった……」
「ああ。あいつが暗殺者だったとしたら、侵入を防げる人間はうちの国にどれだけいる? 正面から戦うならともかく……。クリッカはどうだい?」
「隠形を見破ることができても、勝つことはできないでしょう。あの老人の凄まじいところは、あれだけの技能を持ちながら、正面からの戦闘でも決して弱くないところです」
「はぁ。他の冒険者たちも一筋縄じゃいかない奴らばかりだしね……。南と東を大人しくさせないといけないか?」
「はい。このまま両国の仲が悪化し、大規模な戦闘に発展した場合、我が国の被害が馬鹿になりません」
「しかし、公爵たちが諦めますかい? 下手したら内乱になっちまうんじゃ……」
「侵略されるよりも、そのほうがましだ。うちの国も、変わらなきゃいけない時期にきたんだろうよ」
「しかし……」
「ビスコット。お前さんが国を大事に思っていることは分かる。あんたは、前団長に可愛がられていたしね。だが、レイドスには光もあれば闇もある。それは分かるだろう?」
「そりゃあ……俺も生まれは研究所ですから。でも、オヤッさんが潰したでしょう? 他の場所も、いくつも潰して回って……」
「中央に近いものはな。だが、東にも南にも、下手したら西や北にだって、似た施設はあるかもしれないんだ。その可能性から目を逸らしていたら、取り返しのつかないことになるかもしれない」
「……うす」
「早く国に戻りたいところだが……。監視はどうだい?」
「あります。ただ、離れての監視ですし、風魔術も使っておりますので私たちの会話は絶対に聞かれていません」
「そこは心配してないよ。脱出するのは、決勝の直後がいいだろう。式典やら何やらで人手も取られるだろうしね?」
「実は、そのことに関し、一つお耳に入れたいことが」
「なんだい?」
「どうも、私たち以外にも、この町に密かに入り込んでコソコソと動いている勢力があるようです」
「本当かよ? てか、どうやって調べたんだ? 俺たち、監視されてるんだろ? 大っぴらに動けないんじゃないのか? そのせいで酒場にもいけないんだぜ?」
「はぁ。あんた、酒を覚えたばかりなのにもう完全に呑兵衛だね」
「いやぁ。体はもうオッサンですからねえ。オヤッさんたちが仕事の後に酒酒うるさかった意味が、ようやく分かったってことっすよ」
「この町にいる間はあたしの酌で我慢しておきな。で、クリッカ、どこからの情報だい?」
「例の彼からの情報ですね。この時点で裏切るメリットがない以上、間違いはないと思います」
「なるほど。アイツからの情報か。なら信頼できるか……。となると、そいつらの動き次第では逃げ出すタイミングが変わるかもねぇ」
「はい。最悪、バルボラから船を使うのではなく、北上して国境を抜ける方法も想定しておかなくては」
「大丈夫なのかよ? フィリアースの勢力圏は厳しいだろ?」
「実家の商人を使えばなんとかなるわ。国外で活動している、数少ない組織だもの」
「いや、お前の家を巻き込むのはできるだけ控えたい。うちの支援者の一つだしね」
「ですが、父も母もシビュラ様のお力になれるのであれば、商路の一つや二つ放棄する覚悟はできております」
「ダメだ。長年行方不明だったお前を実の娘だと即座に見破り、跡取りとして迎え入れるとまで言い切ってくれた人たちだよ? 迷惑はかけられん」
「そうそう。俺たちみたいな研究施設産まれと違って、ちゃんとした親がいるなんて有り難いもんだぜ? 大事にしてやれよ」
「馬鹿のくせに……」
「くく、今回はビスコットの言う通りだよ」
「今回はってなんすか!」
「……ありがとうございます」
「なに。最悪、赤の封印を解けば――赤の剣を使えばいい。お前たち二人とアイツくらいなら、背に乗せて運んでやるさ」
「お? そりゃあ楽しそうだ!」
「だろ?」
「……それは本当に最後の手段です。ですから、絶対に早まらないでくださいませ」
「分かってる分かってる」
「何度、その言葉に騙されたことか……」
「あっはっは。今度はマジだよ」
「……絶対にですよ?」
Side ????
「ひひひひひ。そろそろこの町のお祭り騒ぎも終わってしまいますが……。そっちの進み具合はどうなのです?」
「うむ。ターゲット候補に挙がっていたのは、ギルドマスターのディアスに、獣人のまとめ役であるウィジャット・オーレル。元ランクA冒険者のフェルムス。それに、ランクS冒険者のデミトリス。この4名だったが……」
「絞れたのですか?」
「オーレルとデミトリスだ」
「それはそれは! なんとランクS冒険者に手を出しますか!」
「ああ。この2人にはそれぞれ孫がいる」
「人質に取りやすいというわけですね?」
「そうだ。オーレルは戦闘力だけではなく、その知識も役に立つはずだ。そしてデミトリス。奴をこちらに引き込めれば、一国を手に入れたのと同等の価値がある」
「それは分かりますがねぇ。どちらにも強力な護衛が付いているでしょう? 特にデミトリスの孫ともなれば、相当な手練れが守っていると思いますが?」
「分かっている」
「ああ、私はシャルス王国の者たちへと掛かりきりになりますから、そちらを手助けはできませんよ?」
「我が主から、戦力を借りてきておる。他にもこの町で揃えた戦力もあるからな。それを使う予定だ」
「ほう? どのような戦力なのか、聞いても?」
「ひとつは、拉致した冒険者どもを死霊化した兵士たち。貴様の薬が役に立ったぞ?」
「ああ、あの薬ですか。死霊薬などと、珍しい薬を要求するとは思いましたが……。本当に生きたまま死霊化させることができるのですね」
「簡易的な儀式だったため、生前よりも大分性能は下がってしまうがな」
「それでも、肉壁くらいには使えるでしょう?」
「うむ。そして主戦力となるのが、元ランクC冒険者のグールたちだ。我らのように理性は残しておらんが、主が手ずから生み出しただけあり戦闘力は十分に高い」
「ひひひ。それは面白そうだ。それにしても、こうやって話していても不思議ですねぇ。アンデッドのあなたに理性が残っているのですから」
「我が主と、聖母様の力の賜物よ。デミトリスもオーレルも、アンデッドとなってしまえばあの方々の忠実な僕となる」
「ひひひひひ! ランクS冒険者のアンデッドなんて、きっと凄まじい性能なのでしょうねぇ! 今から楽しみだ!」
「決行は明後日。オーレル、デミトリスが揃う閉会式。そこを狙う」
「了解しました。では、シャルス王国の方々への投薬量を調整するとしますか……」
「分かっていると思うが、シャルス王国にはまだまだ使い道はある。今回は、ただ騒ぎを起こさせるだけでいいからな?」
「分かっておりますよ。あなた方の国にとって、シャルス王国はいい場所に位置していますからねぇ。クランゼル王国を南北から挟撃も可能となれば、戦略の幅もかなり広がる。ここで使い捨てるには勿体ない」
「そうだ。今の国王は側近の言いなりよ。そいつが進言すれば、長年の仇敵とも手を組んでしまうほどにな。それが、我らの送り込んだ工作員とも知らずなぁ。フィリアース、シードランでの工作は失敗したが、シャルス王国を引き込めたのであれば十分よ。やりようはいくらでもある」
「ですが、シャルス王国の貴族たちの中には、かなり不満を溜めている者もいるようですよ? 今回派遣された者たちの中にも、側近の傀儡となっている国王の指示に懐疑的な、まともな者たちがおりますしねぇ」
「そいつらをここで始末するのも、お前の仕事だ」
「承知しておりますよぉ」
「作戦決行までに準備を済ませておけ」
「試してみたい毒が色々とあるのですよねぇ。どれを使いましょうか」
「シャルス王国の者たちを使っての陽動作戦も忘れるなよ?」
「そちらも分かっておりますよ。しかし、これは楽しいことになりそうですねぇ……ひひひひ!」
レビューを2本もいただきました!
作者のもふもふ好きがバレてしまいましたね!
今後もモフモフケモミミが登場するので、お楽しみに!
一番とか次の看板とか、作者が震えてしまうほどの高い評価をありがとうございます。
しかも布教までしていただいているようで、嬉しい限りですね。
今後とも当作品をよろしく願いいたします。
次回は20日更新予定です。




