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69 怨霊

 一夜明けた翌日、俺たちは階段を下りていた。昨日の夜はジャンの小屋に泊めてもらったんだが……。いやー、これほど気が休まらない夜は、転生したての頃以来だったね。


 時折聞こえる謎の呻き声。地下から響く謎の爆発音。部屋の外を通り過ぎる人外の気配。フランはよく寝られるな! 逞しくて俺は嬉しいぞ。


 朝食は紫色の目玉焼きと、黒緑色のスープ。生焼けの謎肉に、真っ青なミルクっぽい飲みものだった。ウルシにも、謎肉と青ミルクが振る舞われた。


 味は悪くないらしいのが、逆に怖い。特に状態異常などにはならなかったけど、本当に大丈夫なのか? フランとウルシに5回くらい確認してしまったぞ。


「こちらへどうゾ」


 その後、ベルナルドに案内されたのは、自称研究所の地下に降りるための階段だった。いや、地下に降りてみると、かなりの設備が揃っている。これは自称と言っては失礼だったな。


「我が研究所の真の姿に驚いておるようだね?」

『ああ、まじですごいな』

「かっこいい」

「オウ」


 中央の床に描かれた巨大な魔法陣。壁にかけられた鎌や杖などの道具。乱雑に並べられたフラスコやすり鉢などの器具。甕や籠からは毒々しい薬草や鉱石が顔をのぞかせ、大きな釜では怪しげな液体がグツグツと煮立てられている。


 いいね! 研究所と言うか、アトリエって感じだが。まさしく死霊術師の秘密の研究室といった雰囲気だ。色々いじり倒してみたい!


「あっちは?」

「気になるかね?」

「血のにおい」

「はっはっは、さすが獣人族。鼻が良いようだ。あっちが死体の保管室。優良な死体が保管されているぞ! あちらが危険な実験を行うための強化壁の部屋であるな。先日も少々死にかけた!」


 死体の保管室とか、やばげな響きだ。さすが死霊術師。ていうか、死にかけた? 俺達は平気だろうな?


「では、準備をするとしようか。君たちは次元収納があるから、色々とアイテムを持っていけるだろう?」

「ん。任せる」


 荷物運びか。まあ、生き残る可能性が上がるんだし、いくらでも持っていくけどな。


「まずはこれと、これと。ああ、これも持っていくか。あれも必要であるな。まてよ、これとこれも持って行ってしまおう。どうせ我が運ぶわけではないしな。うむ。ならば、あれとこれを――」

『多すぎじゃね?』


 あっと言う間に床に小山が出来上がった。ポーションぽい物から、何に使うかよく分からない器具まで、多種多彩だ。中には、髑髏型のおどろおどろしいランプとか、ゾンビを模ったペンダントとか、触るのを躊躇するような道具もあった。


「クンクン」

『こら、ウルシ! やめとけ。何が染るか分からんぞ!』

「クゥ……」


 本気で呪われたりしそうだから笑えない。


『仕方ない、半分ずつ入れていくぞ』

「ん」


 分からない物はジャンに聞きながら、俺達は1時間ほどかけてアイテムを収納し終えた。


「これで準備は万端であるな!」

『いよいよ出発か?』

「やっと」

「うむ。付いてくるがいい」


 ジャンの先導で、研究所を出る。問題は、どうやって浮遊島に行くのかという事だ。


『なあ、浮遊島に行く方法は?』

「転移?」

「ふふん。我は死霊術師であるぞ? そのような無粋な手段は使わん!」


 ということは、死霊魔術か冥府魔術に、空を飛ぶような術があるのかね?


「うーん?」

「ふははは。まあ見ておれ! すぐに分かる! ベルナルド!」

「はイ」

「準備はできているな?」

「はイ、ごメいれいどおりニ。こちらへどうゾ」


 ベルナルドが研究所の裏手に案内してくれる。そこには直径10メートルほどの魔法陣が描かれ、その上に魔石が規則的に配置されていた。


「うむ! 上出来であるな!」

「ありがとうございマス」

「では早速見せてやろう! わが魔導の神髄を! 刮目せよ!」


 そう叫んだジャンは、両手を眼前でクロスさせ、そのままバッと天に向かって突き上げる。そして、朗々と呪文を唱え始めた。


 完璧に厨二の行動だが、今のジャンには凄まじく似合っている。端から見ていて全く違和感がなかった。


「かっこいい」

「オン!」


 うーん。否定できん。オラに元気を分けてくれポーズのまま、呪文詠唱を続けるジャンの周りには薄く輝く魔力が渦巻き、これぞ魔術師って感じなのだ。


「――――」

「――――」


 それにしても長いな。もう3分くらいは詠唱を続けている。詠唱短縮を持っていてこれだし。


 そして、さらに3分後。


「――――オーバースペック・アンデッド・サモニング!」


 力のこもった叫びとともに、魔法陣が漆黒の光を噴き上げる。大地から黒い光の噴水が勢いよく噴き上げているような、圧倒的な光景だ。


「くははははは! 出でよ、我が僕! 汝の名はアンディなり!」

「ゴオォォォォォォォン!」

『うわ! 何だアレ!』

「すごい!」

「グルウウゥゥ!」


 魔法陣から這い出る様に現れたソレを見て、俺達は驚きの声を上げていた。フランは目を輝かせているが、ウルシはかなり警戒気味だ。俺だって、ちょっぴりビビったぞ。


 ジャンが儀式の末に召喚したのは、全長10メートルを超える、巨大なスケルトンだったのだ。多分、ワイバーンだろう。それも、以前俺が戦ったようなレッサー・ワイバーンじゃない。もっと大きくて強力な、純正ワイバーンだと思われた。


「はぁはぁはぁ……くはははげほごほっ! かはは、どうだ! 凄いであろう! げほっ!」


 おいおい、咽とるがな。汗だくで息も荒いし、余程疲れたのだろう。ただ、自慢したいのも分かる。それくらい強力な魔力を帯びていた。かっこいいし。



種族名:スケルトン・ワイバーン・オーバースペック:死霊:魔獣 Lv30

状態:契約、弱点緩和

HP:1034 MP:433 腕力:539 体力:551 敏捷:531 知力:10 魔力:93 器用:55

スキル

威嚇:Lv6、隠密:Lv3、鑑定妨害:Lv3、恐慌:Lv6、再生:LvMax、魔力障壁:Lv5、怨霊、毒無効、猛毒牙


 ステータスがレッサー・ワイバーンをはるかに超えている。あと、見たことがないスキルが1つあるな。


『怨霊? 初めて見るんだが』


怨霊:強い怨念を抱いた上位の死霊が持つ複合スキル。


 鑑定妨害の影響もあって、効果がいまいちわからん。


「怨霊は、幾つかのスキルを統合した合成スキルであるな。効果は、飛行、魔力放出、物理耐性、精神異常耐性、怨念変換、ステータス上昇と、光魔術弱点化、回復魔術弱点化、浄化魔術致命化の弱点スキルを複合したスキルとなる」


 なるほど、色んな効果を併せ持ったスキルってことね。俺の持つ振動弾発射みたいなものだろう。


「飛行などの有益な効果もあるが、弱点も増える諸刃の剣と言えよう。まあ、我が魔術により弱点が緩和されている故、心配はいらんよ」

「弱点緩和?」

『そういえば、そんな状態だな。それに、名前もなんか変だし。オーバースペック?』

「うむ。オーバースペック・アンデッド・サモニングという術の効果だな」


 冥府魔術のLv5で覚える術らしい。メチャクチャ高位の術じゃないか! その効果も、凄まじいものがある。

 

 この術で召喚したアンデッドのHP、MP、腕力、体力、敏捷が+200、再生Lv+5、弱点緩和付与という規格外の性能だ。その代わり、24時間経つと召喚されたアンデッドはきれいさっぱり消滅してしまうらしいが。それでも強い。怨霊の弱点が緩和されてるんなら、防御面でも十分だろうし。


 いや、防御に不安があっても、怨霊のスキルは欲しいな。移動の時だけでも装備すれば、飛行で移動可能だ。


『怨霊スキルは、ダンジョンに行けば手に入るかね?』

「怨霊が欲しいのか?」

『ああ、飛行が入ってるのはデカイ』

「ふむ。ならば――これを吸収してみるがいい」


 ジャンが懐から宝玉の様なものを取り出す。それは、死霊系魔獣の魔石を組み込むことで、魔石の主である死霊を召喚できる、特殊な魔道具だった。召喚玉と言うらしい。


「この中の魔石をくれてやる」

『いいのか、結構強力な魔石だと思うが』

「構わん。それはバーサーカー・グールという魔獣の魔石なんだが、常に狂乱状態の厄介な魔獣でな。敵味方関係なく攻撃を加えてしまうのだ。何か使い道がないかと思って取っておったが、君たちの役に立つなら進呈しようではないか!」


 という事で、俺は有り難く魔石をいただくことにした。この借りはダンジョンで返すさ。


『フラン!』

「ん」


 フランが宙に投げた魔石を、俺で真っ二つに切り裂く。


 久々に強力な魔石を吸収する感触だ。そして、俺は怨霊、腐り牙:Lv1、を入手する。腐り牙は相手を腐らせる、つまりは腐食系の攻撃らしい。


 そして、怨霊スキル。ふっふっふ。これで飛行手段を手に入れてしまったぜ。浮遊島にも自力で行けちゃうかもな。


『早速装備するぞ』

「ばっちこい」


 怨霊スキルセット!


『おおおお?』

「ふわふわする」


 何だこの感じ。フランの言う通り、ふわふわ変な感じだ。なんか光が見えるな。暖かい。まるで、日向ぼっこしてるような……。ああ、気持ちいい――。


「これは! ヤバい。おい、師匠君! 不味いぞ! 今すぐ怨霊スキルを解除したまえ!」

『うあ?』

「ガウガウガウガウ!」


 なんかウルシが吠えてるな。どうしたんだろう?


「聞いているか? 怨霊スキルを外すのだ! 早く!」

『ナンカ、天にも昇る様な――』

「師匠君!」


 アア、快感――。



◇◆◇



 あー 危なかった。文字通り昇天しかかったぜ。


「だいじょうぶ?」

『おう、もう平気だ』


 どうやら怨霊スキルを制御するには、その名の通り強い怨念が必要らしい。そんなものがない俺は、怨霊スキルセット→怨念無し→思い残すことは何もない→成仏! となってしまうようだった。


 フランも同様なはずだが、肉体と魂の結びつきがあるため強制成仏にはならず、ただ恍惚状態でボーっとするにとどまったようだ。


 俺の場合は剣と言う器に魂が入っているだけなので、現世に引き止めようという力も弱いらしい。


 怨霊スキルは封印だな。


「いやー面白いデータが得られた! 感謝するぞ!」

『こっちは死にかけたんだぞ!』

「はっはっは。貴重な経験ができたのだ。良かったではないか!」


 くっ。こいつの場合、本気で言ってるから性質が悪い。


『はぁ。もういい。さっさと出発しようぜ』

「では、アンディに乗りたまえ」

「ん」

「掴む場所は幾らでもある故、好きにするがいい」


 まあ、骨だしな。フランは翼の間に陣取り、背骨をギュッと握りしめる。ウルシは影に戻した。ジャンは、首に座っているな。


「準備は良いかね?」

「ん」

「では、行くぞ。飛び立て、アンディ!」

「ゴオオォォァァァァ!」


 ジャンの掛け声でワイバーンが羽ばたく。普通に考えて、骨の翼で飛べるわけがないのだが、ワイバーンの巨体が重力を無視してフワッと浮かび上がった。怨霊スキルの効果なのだろう。


「ふはは! 目指すはアンデッドの巣窟だ!」

「ん」


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[良い点] 読み直すと楽しい(^。^) 懐かしいね。
[良い点] 突然の物語終了の危機が!?
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