707 モルドレッド戦決着
荒れ狂う溶岩の波が、俺たちの周りを囲んでいた。さらに眼下からは、凄まじい熱を発する真っ赤な壁が迫ってくる。
逃げ場はない。このままではフランは、溶岩の中に飲み込まれるだろう。
『フラン?』
(まだ、へいき!)
転移を使えばなんとかなる。そう思ったのだが、フランはまだ自分の力だけでどうにかなると考えているようだ。
「ふぅぅぅ……りゃあああぁぁぁ!」
フランがやったことは単純だった。障壁を全開で張り、溶岩の中に突っ込んだのである。前方をやや厚めにし、後は全速力で駆ける。
速ければ速いほど、溶岩に埋もれている時間を短くできるからだ。
今のフランであれば、難しい話ではなかった。モルドレッドからの妨害がなければ、だが。
「うぐぅ!」
『金属球か!』
突如激しい衝撃に襲われ、フランの進路が真横に逸らされた。
モルドレッドがフランの進路を予測し、金属球を放っていたのだ。
溶岩と金属球は、同系統の魔力を纏っているせいで、魔力感知で探すのが非常に難しい。物理的に察知しようと思っても、溶岩が邪魔して難しかった。
溶岩の中で足を止めれば、すぐに障壁に限界がくる。無理に突っ切ろうとすれば、金属球に攻撃される。
どちらにせよ、フランに不利だ。
完全にモルドレッドのフィールドに引きずり込まれたな。これが、ベテランの試合運びなのだろう。
さて、ここからどうするか? 俺であれば、転移でもいいし、ディメンジョンシフトでもいい。
フランは次元収納を試しているようだが、上手くいかないようだった。溶岩の支配権がモルドレッドにあるため、吸い込むことができないのだろう。
俺がどうするのか見守っていると、フランは再び前に出た。それこそさっきと同じ、一直線にモルドレッドへと向かうコースだ。
ダメージ覚悟で、突っ込むつもりなのか?
フランが再度、溶岩の海をかき分けて真下へと向かって駆け出した直後、金属球が襲い掛かってくる。俺でも、障壁に触れる直前まで気付けなかった。
そんなステルス性の高い攻撃だ。しかし、フランはその一撃を、障壁を使って受け流すことに成功していた。
障壁の形状を僅かに変形させ、往なしたのだ。咄嗟に障壁を変形させるほどの時間はなかったと思うんだが……。
まぐれかと思ったが、フランは次々に攻撃を防ぐことに成功していった。
障壁の角度を完璧に調整し、飛んでくる金属球を受け流し、時には弾く。
明らかに金属球の動きを察知できている。
だが、どうやって? 俺も色々と試してみるが、溶岩の気配に邪魔されて、全く上手くいかない。
しかも、モルドレッドは、魔術の気配や魔力の流れを隠蔽することが非常に上手かった。普段は気配に敏感な魔獣を相手にしているからこそ、磨かれた技術なんだろう。
いつの間にか魔術を発動させ、気づけば足下などに魔術が発動している。そんな感じなのだ。そのモルドレッド相手に、ここまで攻撃を察知し続けるのは、俺でも簡単ではなかった。
どうやっているのか聞きたいところだが、今は邪魔しちゃいかんな。後で教えてもらおう。
「はぁぁ!」
「うおおおおぉ! ライジング・インパルス!」
溶岩の壁を突き抜けた先は、僅かな空間があった。モルドレッドの周囲だけは、溶岩が避けているらしい。フランは、即座にモルドレッドに斬りかかる。対するモルドレッドは、武技で応戦していた。
頭上に槍を突き出し、衝撃波を放つ対空技だ。
モルドレッドとしてはこの技でフランの勢いを殺し、金属球で防御。そういうつもりだったのだろう。
だが、空中跳躍で駆け下りてきたフランは、その勢いを殺さずにモルドレッドに斬りかかった。
衝撃波は障壁で最低限防ぎ、槍は体を捻って急所を外す。左脇腹の辺りが削られるが、致命傷ではなかった。
さらに立ちふさがる金属球には、連続で俺を叩きつける。
当然、モルドレッドは咄嗟に対応してみせ、俺には5つの金属球が絡みついた。外から見れば、歪な形の金属バットのようにも見えるだろう。
モルドレッドからすれば、完全にフランの武器を封じることに成功したはずだ。そのはずなのに、その表情はすぐれなかった。
フランが、あえて金属球を狙って攻撃したのが分かったのだろう。
そう。フランは金属球を避けるのではなく、わざと俺で攻撃していた。その結果、俺が凄まじい勢いで真下に引っ張られ、着地した後に体勢を維持できずに前のめりになっている。
対するモルドレッドはフランの意図が分からずとも、止めを狙って槍技を放っていた。
「クイック・ピアース!」
素早さ重視の技が、フランの頭部に襲いかかる。しかし、これこそがフランの狙っていた瞬間だ。
「たああぁぁ!」
「誘われたかっ!」
フランはモルドレッドに対し、俺を突き出す。その刀身に、金属球の姿はなかった。
フランは、次元収納を利用したのだ。一瞬だけ俺を仕舞い、そして取り出す。モルドレッドの支配下にある金属球は収納できないため、俺だけが仕舞われ、金属球から解放されるというわけである。
金属球も、槍も、鎧の変形も、フランの剣を防ぐにはもう間に合わない。
「くぅぁ!」
「ごふぅ……がぁ!」
モルドレッドの突きがフランの左頬を掠めると同時に、フランの刺突がモルドレッドの腹を貫き、黒雷がその身を内側から焼いた。全身から煙を上げ、モルドレッドが倒れ伏す。
意識はないだろう。フランの勝ちだ。勝ちなんだが……。
『フラン! 次元収納を使え!』
「ん!」
コントロールを失った大量の溶岩が、一気に降り注いできたのだ。このままではモルドレッドも巻き込まれる。
すでにモルドレッドの支配下から外れた溶岩は、俺たちの次元収納で片付けることができた。大量の溶岩が、収納の中に吸い込まれていく。
『おーっと! 闘技場が溶岩に包まれたかと思いきや、今度は溶岩が消え去った! しかも、すでに決着がついているぅ! 中で何が起きたのか! そして、土魔術師さん、治癒術士さん、いきなりお仕事ですよ!』




