705 モルドレッド戦開始
『さあ、やってきました! 武闘大会2回戦! 第1試合から熱いカードの実現だ! 先に現れたのは、ランクB冒険者のモルドレッド! 槍と溶鉄魔術を使いこなす、ベテランの試合巧者だぁ!』
相変わらずの大歓声の中、フランは舞台に上がった。
(師匠。最初は私がやる)
『ああ、分かってるよ。フランにお願いされるか、敗北直前までは手を出さない。ウルシもそれでいいな?』
(オン!)
武闘大会はフランにとっては腕試しの場である。去年と同じで、ギリギリまで俺は手を貸さないつもりだ。
『対するは、1回戦を瞬殺で決めた最強の13歳! 次の試合ではどのような戦いを見せてくれるのか! 彼女からは目が離せなぁぁい! 黒猫族の英雄、フランの登場だぁ!』
互いに不敵な笑みを浮かべ、フランとモルドレッドが中央で向かい合う。
「久しぶり」
「そうだな。そう時間は経っていないはずなんだが、かなり強くなったようだ」
「そっちこそ」
フランが言う通り、モルドレッドはかなり強くなっていた。新たな力を手に入れたというよりは、全体的にレベルアップしたのだろう。
名称:モルドレッド 年齢:43
種族:人間
職業:巧魔槍士
ステータス レベル:47/99
HP:423 MP:418
腕力:217 体力:111 敏捷:237
知力:218 魔力:222 器用:249
スキル
隠蔽:Lv5、詠唱短縮:Lv5、隠密:Lv3、回避:Lv3、火炎魔術:Lv2、格闘術:Lv2、危機察知:Lv4、恐怖耐性:Lv4、採取:Lv3、指揮:Lv4、射撃:Lv4、瞬発:Lv7、水泳:Lv2、石化耐性:Lv2、槍技:LvMax、槍術:LvMax、槍聖技:Lv3、槍聖術:Lv4、属性剣:Lv5、耐暑:Lv6、追跡:Lv2、土魔術:Lv8、投擲:Lv3、毒耐性:Lv5、火魔術:LvMax、魔力感知:Lv5、麻痺耐性:Lv1、溶鉄魔術:Lv6、罠設置:Lv5、気力操作、サハギンキラー、鷹の目、方向感覚、分割思考、魔力操作
固有スキル
術装
称号
サハギンキラー、死地を越えし者、ジャイアントキラー、火術師、凡人の壁を乗り越えし者
装備
アダマンタイト合金の槍、ミスリル合金の軽鎧、硬魔鋼の手甲、亜水竜革の外套、砲撃亀の堅靴、状態異常遮断の腕輪、魔杖の指輪、結界石
「なに、年下に負けたままではいられんからな。久しぶりに休暇を取って、魔境を巡ってみたんだ」
「魔境? どこいったの?」
モルドレッドが渋く決めるのに、魔境という言葉を聞いてフランが眼を輝かせた。
戦いの前に、急にグイグイきたフランを見て、モルドレッドが苦笑している。
「そうだな、俺に勝てたら教えてやる」
「ん! 分かった!」
頷いたフランは覚醒する。さすがに素のままで勝てるような相手ではないのだ。
「勝つ」
「やる気だな」
『ともにランクB同士! ベテランの老獪さが勝るか! 若い勢いが勝るのか! 注目の一戦です!』
そして、試合が始まった。
立ち上がりは共に静かだ。
フランが俺を構えながらフットワークを使って舞台を回り始め、モルドレッドはどっしりと構えてフランの出方を見ている。
フランは、隙を見つけて一気に跳び込むつもりだろう。だが、先に動いたのはモルドレッドだった。
「こないなら、こっちから行くぞ」
フランが焦れて動こうとする直前を読んでいたのか、絶妙にフランの出鼻をくじくタイミングで前に出てきた。
「しっ!」
視線などを使った軽いフェイントを織り交ぜながら、モルドレッドが槍を水平に薙ぐ。
鋭い一撃ではあるが、その程度のフェイントでは今のフランは騙されない。冷静に対処できていた。
モルドレッドの放った横薙ぎを俺で受け止め、その勢いを利用して背後に回り込む。フランはそう考えていたようだが――。
「え?」
『うぉ!』
モルドレッドの槍がグニャリと曲がった。アダマンタイト合金の槍だ。こんな軽い打ち合いで、傷がつくことさえあり得ないだろう。
『溶鉄魔術か!』
「っ!」
詠唱をしている素振りはなかったが、どこかで発動させていたんだろう。
俺と接触している部分を支点として、折れ曲がった槍の穂先がフランの頭部に襲いかかる。咄嗟に身を伏せて躱したフランだったが、モルドレッドはすでに次の行動に移っていた。
「ふん!」
「むぅ!」
紐のように俺に巻き付いた槍を元の硬さに戻すや否や、思い切り俺を引き寄せたのだ。ただ力任せに引くだけではなく、槍に軽く捻りを加えて、フランの体勢が微妙に崩れるように計算している。
同時に、モルドレッドの鎧がハリネズミのように変形した。
俺を手放すまいとフランが踏ん張れば、鎧の針で串刺しだし、俺を手放せば戦力低下。どちらにせよモルドレッドが有利になる。
これを最初から狙っていたのだろう。様子見をしているように見せかけて、複数の溶鉄魔術を準備していたらしい。
さすがに巧い。完全に虚を突かれた。
だが、フランの対応力も負けてはいなかった。
「はぁぁ!」
「ぐおぉ?」
なんとフランは、空いている左手でモルドレッドをぶん殴っていた。しかも、針の上から胴体を。
顔面などに攻撃されることは想定していただろうが、わざわざ自爆する場所を、しかも素手で殴ってくることは予想外だったのだろう。
フランの拳が複数の針に貫かれ、大量の血が噴き出る。だが、フランは一切ひるむことなく、拳を振り切っていた。
モルドレッドが呻きながら、数メートルほど後退する。このままでは大ダメージを受けると感じ、自ら飛んだのだろう。
槍は手放していないが、体勢が崩れているのだ。そこに、フランが突っ込んだ。攻守交替である。
フランが未だに血だらけの左拳を、宙を撫でるような仕草で振り払う。すると、大量の血がモルドレッドの顔面目がけて飛び散った。
血を目眩しに使ったのだ。だが、モルドレッドは冷静に外套で払い、さらに後退して距離を取る。
フランも、全く驚かせることすらできなかったのは予想外なのか、追うのを止めて歩を緩めた。
開始時とほぼ同じくらいの距離だ。
「無茶をする」
「そう? でも、全然驚かなかった」
「血を武器にする奴はたまにいるからな」
フランが思いついた奇襲も、モルドレッドにしたらそう珍しいものではなかったらしい。
「だが、まともに正面からやり合うのはやはり分が悪いな。決勝戦と思って、俺の全てを出し切ろう」
「むっ! させない!」
モルドレッドが腰の袋から何かを取り出した。見覚えがある魔法薬だ。あれは、以前依頼で一緒になった時に使っていた、モルドレッドの奥の手だろう。溶鉄魔術超強化薬だ。
この大会、回復薬は持ち込み禁止だが、魔法薬は禁止されていない。何が違うかと言われたら俺もいまいち分かっていなかったが、この大会で禁止されているのは回復薬全般であるそうだ。
つまり、強化系の薬や、毒薬の類はオッケーである。それを使った戦法を得意とする人間も多いからだろう。
この大会は強い人間を決めるお行儀のよい模擬戦ではなく、なんでもありの中で優劣を競う、冒険者向けの大会だからな。
フランが阻止しようと魔術を放ったが、モルドレッドの直前で防がれた。結界石の効果だ。これは使い捨ての障壁を張るアイテムだが、この時のために持ってきていたのだろう。
用意周到なモルドレッドは、強化薬を素早く飲み干す。直後、モルドレッドの魔力が数倍に高まるのが分かった。




