68 らしからぬ洞察力
ジャンからの依頼を受けることにした俺達。
「では、改めて自己紹介させてもらおう! 我が名はジャン・ドゥービー。闇に蠢きし不死なる者たちの主にして、英知の深淵を臨みし者!」
まあ、死霊術師で、研究者ですよってことかね? なんか、段々ジャンの言動に慣れてきた気がする。残念なことに。
「私はフラン。黒猫族。好きな物はカレーとパンケーキ。こっちはウルシ」
「オン!」
「ダークネスウルフか。初めて見たな。アンデッド化したら、良い配下となりそうだ」
「オゥゥン」
「だめ」
「はっはっはっはっは」
『嘘とも冗談とも言わないのな。まあいい。俺はインテリジェンス・ウェポン。フランに付けてもらった名前は師匠だ』
「ほほう。名前が師匠?」
ああ! こいつに空気を読めっていうのが無理だったか?
「中々にエキセントリックな名前だ! 良いじゃないか! 気に入ったぞ!」
変わり者で良かった。
「では、よろしく頼むぞ」
「ん」
がっちりと握手をする二人。ただ、依頼の報酬については少し変えてもらう様に交渉することにした。
「報酬は少なくてもいい」
「ほう?」
『その代わり、魔石が欲しい』
「魔石? 現物支給が良いという事かね?」
『ああ、ダメか?』
「まあ、構わんが、何に使うんだね?」
『えーとだな……』
やっぱりそこ聞かれるか。
「ふむ……なるほどなるほど」
口ごもる俺にジャンがズイと顔を近づける。なんか、凄い見られてる!
『え? なんだよ?』
「魔石値か……」
『!』
「もしかして、魔石を力に変換できるのかね?」
「何で分かる?」
「グルゥ」
「くくく、我が魂魄眼を前にして、隠しごとなど無意味! 魔石を欲しがり、師匠君には魔石値という謎のステータス。そこから導き出される答えは1つだけだ」
うわー、無駄に洞察力が高い! 完全に見抜かれている! そもそも、鑑定ってそんなところまで見れるのか? こいつの魂魄眼舐めてた!
「くくく。図星なようだな? 状態が焦燥になっているぞ?」
『そ、そこまで?』
「ふははは。それは冗談だ! だが、正解だったようだ!」
やられた! 完璧にカマかけに引っかかってしまった!
「オウン……」
ウルシ、「あーあ」っていう目で俺を見るんじゃない! お前だって大分顔に出てたからな! 狼のくせに豊かな表情しやがって! こうしてやる!
「キャウン!」
くっくっく、背中の毛を念動で逆なでしてやったわ! ゾワッとしただろう!
――いかん、ジャンに影響されてるかもしれん。もしかして、フランの教育に悪い影響がないだろうな? ふはははとか笑う様になったら、ジャンを殺してしまうかもしれん。
「しかし、魔石を喰らう魔剣か。面白いな。それに……、もしかして魔力だけではなく、スキルも得ることができるのかね?」
『!』
おいおい、何で分かるんだ? もはや、驚きの声も出ない。むしろ参考までに、どうして分かったのか聞きたいよ。
『どうしてそこまで……?』
「正解かね? はははは、さすが我!」
『まさか見抜かれるとは思わなかった』
「驚き」
「何、簡単なことだ。まず着目したのは君たちのスキル。あまりにも同じ過ぎる。そして、師匠のスキル共有の存在。つまり、君が持っているスキルを、彼女と共有できるという事だと推測できる」
『なるほど』
「ということは、これらのスキルは君のスキルであるという事だろう。だが、いくら伝説的な存在であるとはいえ、これほど多彩なスキルを持っているものかね? と、いうことは、何らかの理由でスキルを増やせるのではないかと考えられる」
全部見抜かれちゃってるよ。
「あと、スキルの構成が少々おかしい。よって、スキルを真っ当に成長させたのではないとも推理できる」
『え? スキル構成が真っ当じゃない?』
「どういうこと?」
「自分たちでは気づいていないのか? 例えば、状態異常耐性だ」
普通、状態異常耐性を取得するには、毒耐性や麻痺耐性など、下位の異常耐性系スキルを7つ以上取得し、全てのスキルレベルの合計が40を越えなくてはいけないらしい。
だが、俺達は毒耐性:Lv3、眠気耐性:Lv1、病気耐性:Lv3、麻痺耐性:Lv2しか持っていなかった。そりゃ、おかしいと思われるな。
他にも、闇魔術がLv2なのに、暗黒魔術を持っていたり。再生もないのに瞬間再生は持っていたり。剣術はないのに剣聖術はあったり。見れば見る程スキル構成がおかしいという事だった。
「故に、何か尋常ではない手段でスキルを取得していると考えられるのだ。スキルテイカーで奪ったのかとも考えたが、それにしても少々違和感を覚える」
完璧な推理! いや、ちょっと知識と洞察力があれば、簡単に見抜けることか? だとしたら、今後も魔眼持ちに気を付けないといけないな。
まあ、こうなったら仕方ない。俺たちはジャンに全てを教えてしまうことにした。そして、魔石の吸収を手伝ってもらえないかお願いしてみた。俺たちは探索を手伝い、ジャンには魔石の取集を手伝ってもらうのだ。
「はっはっは。いいぞ。面白そうだ。つまり、君たちが持っていないスキルを所持する魔獣の魔石を入手し、師匠君に吸収させればいいというのだろう?」
「ん」
「我が手伝うのだ、大船に乗ったつもりでいるがいい! くはははは!」
ウザ怪しいやつだが、死霊術師としての腕は本物だろうし。これから向かうダンジョンはアンデッドのダンジョン。確かに期待できそうだ。
「それに、君たちにうってつけのスキルを持った魔獣を知っているしな?」
「うってつけ?」
「オウン?」
「うむ。死霊系の魔獣故、これから行く浮遊島にもいる可能性が高い」
『へえ。なんていう魔獣なんだ?』
「ふふん。擬態霊という死霊魔獣を知っているか?」
「知らない?」
フルフルと首を振るフラン。ウルシも同じ様に首をフルフル振っている。俺も知らん。
「その名の通り、壁に擬態し、近づいた者に襲い掛かる魔獣だな。まあ、力は大したことがないので、不意打ちにさえ気を付ければ問題ないだろう」
『その擬態霊っていう魔獣は、どんなスキルを持っているんだ?』
「擬態霊の名の通り擬態スキルを持っているな。もう一つ、鑑定妨害という面白いスキルも持っているぞ」
鑑定妨害とは、その名の通り鑑定スキルを邪魔するスキルらしい。鑑定遮断と違い、あくまでも弱めるだけだが。レベルが上がれば、下位の鑑定は無効化できるそうだ。
『いや、俺達には鑑定遮断があるんだが?』
「鑑定妨害が良いスキル?」
「いや、違う! ここまでは前振りだ!」
『おい。じゃあ何で勿体ぶって語った!』
「我が語りたかったからだ!」
「……」
「クゥ」
『ああ、そうですか』
「まあまあ、だからと言って全く関係ない話でもないのだ」
擬態霊の中には時おり、上位種である偽装霊という魔獣が混じっていることがあるらしい。こちらは脅威度Dと言うから、結構強い魔獣なようだ。擬態霊と見分けが付きにくいので、群れの中に混ざられると厄介みたいだな。
「そして、この偽装霊こそが君たちにお薦めの魔獣なのだよ!」
「なぜ?」
「うむ。その名の通り、鑑定偽装というユニークスキルを所持しているのだ。これは単に鑑定を防ぐのではなく、誤った情報を任意で表示させることが可能なスキルなのだよ!」
『という事はわざと弱いステータスを鑑定させたりもできるのか?』
「ああ、それこそがこのスキルの恐ろしさでな。ある意味で遮断よりも厄介と言えよう」
鑑定遮断は相手の鑑定を防ぐスキルだ。つまり、相手には鑑定遮断で妨害され、情報が得られなかったという結果だけが残る。
だが、鑑定偽装はどうだ? 偽の情報を得たことで、相手に鑑定が防がれたと思われる可能性が低くなる。そして、得た情報を信じてくれれば、そいつと戦う場合にも戦いやすくなる。つまり、情報戦において、より優位に立つことができるようになるという事だ。
「しかも、鑑定遮断と組み合わせることも可能だぞ? 完璧に遮断した上で、全く偽の情報を信じ込ませることが可能となろう! これは非常に恐ろしい組み合わせだと思うね」
「なるほど」
「しかも、鑑定偽装はユニークスキルだ。同格である魂魄眼などに対しても有効だぞ? 魔眼系のスキルの大半はこれで防ぐことができるだろう!」
「欲しい」
『ああ、絶対に欲しいぞ』
「オン!」
「ふはははは。我に任せておけ、前回の探索で、擬態霊の出現するエリアは把握済みだ!」
「おー。凄い」
『さすが冥導師様! 頼りになる!』
「オンオンオン!」
パチパチ
「ははは! そう本当のことを言うな! 照れるではないか!」
いや、マジで期待してるんで! あと、ジャンは結構チョロイかもしんない。マジで照れてるみたいだし。自分で自分を持ち上げるくせに、人に褒められることには慣れてないのかもしれない。
『きゃー! 素敵!』
「てきー」
「オウー」
「ふはぁーっはっはっはっは!」




