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696 予選観戦


 武闘大会の予選1回戦は、今年もバトルロイヤルだった。


 5人か6人程度を1組として対戦し、生き残った1名が次へ進む。去年と全く同じだ。


 雑魚同士の泥仕合はつまらないが、中には実力者が混ざっている組もある。他には、知り合いが出場している試合などは、それなりに見応えがあった。


 それこそ、バルボラでは売り子として活躍してくれた緋の乙女の3人娘たちなども、それぞれが頑張っていたのだ。


 去年からかなり実力を伸ばしていたな。今年一年、かなり真面目に修業したのだろう。スキルなども伸びている。


 だが、それでも予選を突破することはできなかった。


 彼女たちは個の戦闘力よりは、連携を重視するタイプ。しかも、ダンジョンや野外での戦いを得意とするパーティだ。


 それ以前に、盗賊であるマイア、魔術師であるリディアは武闘大会向きではない。結局、一番の実力者として周囲から一斉に狙われ、惜しくも敗退してしまっていた。


 また、リーダーで剣士のジュディスに関しては相手が悪かった。


 デミトリスの弟子の1人だったのだ。まだ修行中の門下生とは言え、実力的にはランクC相当だろう。


 ヒルトに目を掛けられている1人であるらしい。


 コルベルトからデミトリス流の話を聞いたが、門下生を指導するのはほぼヒルトの役割であるようだ。


 元々、デミトリスは自分の修行が第一で、自らが生み出したデミトリス流を残すことにはそこまでこだわっていない。


 それでも弟子がいて、道場が各地にあるのは、デミトリスに弟子入りを希望する者が後を絶たないからだ。


 最初は、デミトリスに憧れた冒険者たちが冒険の合間や屋外で、格闘の基礎を習っていただけであるらしい。


 そうこうするうちにデミトリス自身も弟子を育てることに多少興味を持ち、流派の門下生が増え、いつしか総門下生が100人を超える大道場となった。


 いや、入門したての練習生まで合わせた数にしては、あまり多くはないか? そう思ったら、修行が異常なほどに厳し過ぎるらしい。そのせいで、入ってきた人間の大半が辞めていってしまうそうだ。


 まあ、ランクS冒険者の看板があれば、門下生は1000人を超えていてもおかしくはないだろうからな。


 そして挫折せずに修行を進めていき、高弟となることができれば、はれてデミトリス直々に稽古を付けてもらえるのである。ただ、凄まじいまでのスパルタにより、そこでまた多くの弟子が心を折られるのだという。


 そんな中で残ったのがコルベルトであり、ヒルトなのだ。


 しかもコルベルトほどの実力者でも、師範ではなく高弟という扱いである。


 試練を突破したヒルトたち師範の実力は折り紙付きであろう。


 実際、師範への昇格試練が現在のような内容になって以来、師範は3人しか生まれていないそうだ。


 まあ、能力を封印してランクA冒険者になるっていう内容だからな。そうそう突破できるものはいないに違いない。


「お姉様、今負けた方はお知り合いなのですか?」

「ん。バルボラの冒険者」


 フランもジュディスを応援していたらしい。負けて思わず「あー」と声が出ていた。それをケイトリーは聞き逃さなかったらしい。


「そうなのですか。残念でしたね」

「……ごめんなさい」

「なんでニルフェが謝る?」

「私のお爺ちゃんのお弟子さんだから……」


 ニルフェが泣きそうな顔で頭を下げるが、フランがそれを止めさせる。


「ニルフェは関係ない。本人たちだけの問題」

「そう、ですか?」

「ん」

「……ありがとうございます」

「?」


 ニルフェがホッとした様子で微笑む。フランはよく分かっていないが、今までいろいろと苦労したようだった。


 有名人の血筋というだけで注目されるだろうし、理不尽な文句を言われることだってあるはずだ。


 特にデミトリスのような傍若無人さを隠さないタイプは、方々で恨みを買っていてもおかしくはない。その恨みを、孫というだけでぶつけられることもあるだろう。今のような状況ですぐに謝罪の言葉が出るということを見ても、辛い思いをしたのは1回や2回ではないはずだ。


「お嬢様、こちらを」

「ありがとうマイケル」


 マイケルが、涙を浮かべるニルフェに対してそっとハンカチを差し出す。できる男だマイケル。ただ強いだけじゃないな!


 ただ、フランはマイケルを警戒している。どうも、時おりこっちをジッと見ているのだ。多分、ヒルトと同じでコルベルトの件を根に持っているんだろう。


 強い敵意は感じないが、こっちを油断ならない目で観察していた。弱点や隙を探る眼である。これを前に、気を抜けとは言えなかった。


「あ! お姉様! あの方は、去年本戦に出場していた方ですよね!」

「ん。シャルロッテ」


 シャルロッテは今年も出場しているようだ。冒険者ランクはジュディスたちと変わらないが、彼女の戦闘スタイルはリディアやマイアと比べれば武闘大会向きである。今年もいいところまで行くのではなかろうか?


 今も闘技場の上では、彼女の舞うような動きを誰も捉えられず、次々と倒されていく。しかも鑑定してみたところ、去年よりも大分強くなっていた。


 レベルが上がっていることもそうだが、職業も変わっている。去年までは戦舞士だったはずが、今は戦舞闘士だ。固有スキルには昏倒の舞が加わり、さらに柔法というスキルまで習得していた。


 去年、エルザに対して攻撃力不足で負けたからな。今年はその対策もしてきたってことらしい。


 とりあえず、緋の乙女を慰めにいくのがいいかね? 今年は自信があったらしく、負けてからちょっと泣いていたのだ。


 あとはシャルロッテに挨拶もしたい。


 さて、今年はどんな出場者に出会うだろうかね?


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― 新着の感想 ―
[一言] 戦舞闘士……せんまいとうし……千枚通し?!
[良い点] あらすじだけでさっと流すのではなく今回の緋の乙女やシャルロッテのようにちゃんとスポットを当てて書いてくださるのほんと好きです。
[良い点] 今回の緋の乙女やシャルロッテ、だいぶ前のグラッド君など、初期に登場した人達がしっかり成長している姿が見れて嬉しいです。 [一言] ヒルトだけじゃなくてマイケルまでお前かぁ…って顔してる辺り…
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