表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
697/1337

695 ニルフェ

 武闘大会がついに始まった。ただ、今回のフランはシード枠になっているので、予選には参加しない。


 まあ、フランは参加したいと言ったのだが、さすがにディアスたちに止められてしまった。他の予選参加者のためにも我慢してくれと頼まれて、今回は諦めたのである。


『フラン、あっちだ』

「? 席は向こう」

『いや、さすがにフランが普通の席に行ったら、騒ぎになるかもしれん。関係者用の特別席ならそこまで注目されないはずだから、そっちで見よう』

「わかった」


 今日は、予選を観戦しにきた。強い相手が出場するかどうかは分からないが、他にやることもないのである。


 両手に屋台の料理を抱えながら、テクテクと特別席に向かう。その途中、俺たちは見知った顔を発見していた。


 前を歩く少女たちに、フランから声をかける。


「ケイトリー」

「お姉様!」


 それは、フランを慕う冒険者志望少女、ケイトリーであった。護衛と思われる男性を引き連れ、フランと同じ方向に歩いている。


「お姉様も武闘大会を観戦にこられたのですか?」

「ん。そっちも?」

「はい」


 嬉しそうにしているケイトリーだったが、その横には不安そうにこっちを見上げる幼い少女がいた。ケイトリーの手をギュッと握り、もう片方の手で自分のスカートを握りしめている。


「誰?」

「彼女はニルフェ。デミトリス様のお孫さんです」

「ニ、ニルフェ……です」


 蚊の鳴くような声で、ニルフェが自分の名前を呟く。


 デミトリスの孫ってことは、ヒルトの妹? 確かに緑の髪の色はそっくりだ。だが、覇気というものが全く感じられない。見るからに引っ込み思案で、弱々しい少女である。髪の色以外にヒルトとの共通点はなかった。


「そして、そちらがマイケルさん。ニルフェの護衛です」

「どうも」


 ケイトリーとニルフェの後ろに立っていた、禿頭の細マッチョが軽く頭を下げてくる。顔立ちはそこそこ整っているな。デミトリスの門下生であるようだ。


「お爺様から、彼女を案内するように言われたんです。冒険者になるつもりなら、護衛や案内役もできなくてはいけないと」


 オーレルは、ケイトリーが冒険者になることを完全に認めたらしいな。少女の案内役をケイトリーに任せたらしい。まあ、同年代の方が打ち解けるだろうしね。だが、フランはケイトリーの言葉が引っかかったようだ。


「なるほど。だったら、今の紹介はダメ」

「え?」

「正式な依頼じゃなくても、冒険者として引き受けたなら、依頼相手とか護衛相手の情報を勝手にしゃべったらダメ。知り合いでも」


 どうやらフランの指導は、依頼達成では終わっていないらしい。初めてできた明確な後輩だし、面倒を見てやろうという気になっているんだろう。


 フランに迂闊さを指摘されたケイトリーが、すぐに自分の失敗を悟ったらしい。


「……確かに……。ごめんなさいニルフェ」


 まるで依頼を失敗した新米冒険者のような表情で、ニルフェに深々と頭を下げた。


 そこまで気に病むほどではないと思うんだが、真面目なケイトリーは重く受け取ってしまったらしい。後は、フランへの尊敬ゆえだろう。


「ニルフェは有名人の孫。だったら、なおさら」

「そうですね……」

「う、ううん。いいの……」


 謝るケイトリーに対し、ニルフェがフルフルと首を振る。幼い感じだが、ちゃんと話は理解できているらしい。


「ケイトリーたちは、予選を見るためにきた?」

「は、はい……」


 フランの言葉に、ケイトリーではなくニルフェが頷いた。どうやらケイトリーがフランを慕っていることが伝わったらしく、興味を持ったようだ。


「じゃあ、一緒にいく」

「はい!」

「はい……」


 歩きながら、ケイトリーがフランのことをニルフェに教えている。


 例の、活躍メガ盛り強さマシマシエピソードだ。前回少し訂正したせいで多少マシになっているが、それでも十分盛られている。


 フランはその辺が無頓着なので、ほとんど口を挟まないんだよね。


 ケイトリーの熱いフラン語りを聞くにつれ、ニルフェの表情も変わってきた。明らかにフランに対して尊敬の念を抱いている。


 どう考えても嘘っぽく聞こえると思うんだが……。


「す、凄い、です」


 ケイトリーを信頼しているニルフェは、その言葉が嘘や誇張であるとは思わないらしい。まあ、幼いしね。


 その小さい体を震わせながら、ケイトリーの話を興奮気味に聞いている。


「かっこいい、です」

「そうでしょう? フランお姉様は凄いのです」

「はい」


 そのキラッキラの眼差しは、フランを見るケイトリーと全く同じだ。新たなフランリスペクトチルドレンの誕生である。


 特別席に到着してからも、ケイトリーのフラン賛美は止まらない。多分ニルフェの中では、フランがデミトリス並みの大英雄に思えているんじゃなかろうか?


 別にその話を止めるつもりではなかっただろうが、フランがケイトリーに近況を尋ねる。


「最近は何してる?」

「冒険者になるべく、鍛錬の毎日です。あとは、都市内で雑用をしてますね」


 現在のウルムットでは、冒険者として本登録していなくとも、見習いとして受けられる仕事があるらしい。本当の初心者向けってことだろう。武闘大会のせいで雑用はいくらでもあるので、この時期は色々な仕事が貼り出されているそうだ。


 この見習い向けの雑用は、ただお金が稼げるだけではなく様々な噂なども聞けるので、ケイトリー的には非常に楽しいようだった。


 特にこの時期は、国中の噂が飛び交うんだとか。


「なんでも、ウルムット周辺ではアンデッドの出現率が増えているそうですよ」

「なんで?」

「理由は不明だそうです。ただ、この時期は旅人が多いので、ウルムット周辺で亡くなる人も多いのです。その話をしてくれた商人さんは、そんな不幸な旅人さんたちの亡骸が、アンデッドになってしまうのではないかということでした」

「なるほど」

「あとは、そういった旅人の護衛として傭兵もたくさん入ってきているので、喧嘩も増えるんですよね」

「冒険者と傭兵?」

「傭兵同士も多いらしいです。あと、スリや詐欺師も増えますから、お爺様がずっと忙しそうにしてるんです」


 お祭り騒ぎは、ろくでもない存在も引き付けるってことなのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] フランの功績がマシマシで盛られてるそうだけど、邪神の幹部が率いるン万もの魔獣の群れを単騎で迎え撃った以上の活躍をどうやれば盛れるんだろうなw この時点で聞いた方は「それ盛ってない?」と思うだ…
[気になる点] >「お爺様から、彼女を案内するように言われたんです。 ケイトリーの台詞だとしたら不自然。 ケイトリーにとってはデミトリスはお爺さんに当たらないので、 ニルフェを指して「彼女のお爺様から…
[良い点] ケイトリーに先輩風吹かせてるフランが微笑ましい 実際今のケイトリーに守秘義務のある依頼なんてくる訳ないんだけど、依頼人の事を軽率に話さないのは大切な事だもんね [一言] 本来ヒルトより先に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ