690 Side とある3人組 3
Side とある3人組 3
「シビュラ様……。あれほど! あれほど騒ぎを起こさないでくださいと、お願いしましたわよね?」
「すまなかった」
「ビスコットから話を聞きました。ダンジョンの中で、何度か揉め事を起こしたと。最後なんて、あの黒雷姫と言い争いをしたと!」
「あー、悪かったよ。だが、俺も姉御も手を出してないぜ?」
「当たり前です! 実力行使に出ていたら、今頃追われていますわ!」
「お、おう」
「うむ……」
「シビュラ様? 難しい顔をされて、どうされたんですか? まさか、本当に反省してくださっているのですか?」
「お前、私をなんだと……。まあ、いい。そうじゃなくて、うちの国の評判がなぁ」
「ああ、ビスコットが言っていた、我が国への悪口という奴ですか?」
「悪口っていうか、評判が最悪だったね。悪逆非道に冷酷非情。あとは――」
「最低最悪っすね」
「そう。それだ。クランゼルにちょっかいを出してるのは、南征公と東征公だろ? そのせいで、うちの国全部が奴らの同類だと思われちまっている」
「我が国は成立の経緯から、東西南北に中央の5地域でそれぞれ独自色が強いですから……。各地方のやっていることはその地の人間たちの責任で、自分たちには関係ないと思ってしまいがちかもしれませんね。私たちも、公爵たちが国外で何をしているかなど、そこまで興味を持っていませんでしたもの。任務の性質上、仕方ありませんが」
「だが、クランゼルの人間にとって、そんなの関係ない。南と東のやっていることは、レイドス王国全体の意思だと思われちまう」
「その結果が、最低最悪の国という認識なわけですね」
「ああ、そういうことだ」
「ですが、あの娘の話、マジなんですかねぇ? 南と東が、クランゼルと敵対してるこたぁ分かってましたが……」
「さてな……。だが、奴らならやりかねんとは思ったのは確かだ」
「陰謀ですか……。実際、南と東はきな臭いですわね。どちらともクランゼルに対してかなり鬱屈した思いもあるでしょうし、何をしていてもおかしくはありません」
「西はどうだクリッカ? お前の実家もあっちだし、西征公からは何も聞いていないのか?」
「あの方は……。どうですかね。可能性がないわけではないですね。しかし、利益にならないことはしないでしょう。それに、フィリアース王国、シードラン海国への対処をしつつ、クランゼルに大きな陰謀を企てるのは難しいかと」
「それもそうだね。守銭奴で、金勘定優先という話だしね……」
「北征公はどうなんすか? 正直、俺もよくは知らないんですが」
「あそこはうちの国でももっとも独立意識の強い地だからな。北伐騎士団が領内の問題を片付けちまうから、赤騎士もほとんど必要とされん。だが、北は大丈夫だろう」
「そうですわね。北征公は武人気質というか、回りくどいことを好まれない方ですから。敵対する場合は、軍を興して正面から戦を仕掛けるでしょう」
「なるほど」
「中央はどうっすか? 俺たちの耳に入ってないだけってことは、ないんすかね?」
「ふむ……。クリッカ?」
「本気で何かを企てているのであれば、宰相が今回の話も我々に持ってこないのでは?」
「それもそうか。それに今の王宮にそこまでの力はないだろう」
「となると、やっぱり色々とやってるのは南の豚と東の狂人っすか」
「そうなりますわね。まあ、各公爵への対応は国に戻ってから話し合いましょう。ただ、今日は大人しくしていてほしいとお願いしましたわよね? なぜダンジョンになど行ったのですか?」
「あー、なんつうか、姉御がダンジョン行こうって言い出して……」
「シビュラ様?」
「冒険者の実力が少しでも見れないかと思ったんだよ。冒険者じゃなくても入れる低級ダンジョンがあるって聞いたからな」
「そんなところに行っても、得るモノなどなかったでしょう? 初心者ばかりのダンジョンという話ですし」
「いや、そうでもなかったぞ? 冒険者のことをもっと知らなきゃ、うちの国はどこかで痛い目を見るかもしれないと分かったからな」
「それはようございました。ですが、この町での調査はこれで切り上げましょう。町を出る手筈を早急に整えます。よろしいですわね?」
「いや。ダメだ」
「何故ですか! すでにシビュラ様とビスコットは、この町の冒険者などに目を付けられている可能性が高いんですよ?」
「もしかして監視がいるか?」
「確定ではありませんが、見られている気配はありますね。どうやら魔獣を使役して、見張らせているようですが……。相手の正体は不明です。分かることは、闇系統の魔術で身を隠している可能性が高いということくらいですわ」
「おいおい。斥候部隊長のクリッカが確実に発見できないって……。そんな魔獣を使役できるやつがいるのか?」
「それが冒険者ってもんだろう。ダンジョンで大した情報は集まらなかったが、奴らの多様性と個性は体感できた。そして、真に理解するには表面を見る程度じゃダメだっていうのも思い知った」
「で、ですがこのままでは……」
「これは、赤剣騎士団団長としての命令だ。この町に留まり、冒険者たちの調査を続ける。まだ正体が完璧にバレたわけじゃないんだ。なんとかなるだろう?」
「なんとかなりませんわ! 危険過ぎます。もし、正体が露見したらどうなさるのです?」
「その時は強行突破だ」
「はぁ。だと思いました……。では、最悪を想定して早急に準備を進めますわ」
「済まんな」
「それで、調査と言ってもどうするつもりですか? 何か思いつかれたのでしょう?」
「なに、他人を理解するには、戦ってみるのが一番だ」
「ですから、それをやっては即座にお尋ね者ですわ」
「いや、そうはならん。合法的に冒険者と戦える舞台がすぐやってくるだろ?」
「も、もしかして武闘大会に出場なされるおつもりですか? それは危険だと、以前に具申させていただいたと思いますが?」
「高位の冒険者とやりあえるチャンスなんぞ、そうそう来るとは思えん。これは決定事項だ。ビスコットは私と大会に出場、クリッカはその支援に回れ」
「は!」
「了解いたしました」
「いいか? これは、レイドス王国の未来がかかっている任務だと思え」
「冒険者とはそれほどのモノですか?」
「分からん。だからこそ、それを識らねばならん」
「……赤の封印はどうされますか?」
「大会では使わん。さすがにアレを見せたら完全に正体がばれる。クランゼルの逆侵攻を止めるために、使ったことがあるからな。だが、逃げ出すときに使うかもしれないから、準備だけはしておけ」
「分かりましたわ」
「姉御。俺も出場するって、まじですか?」
「ああ、私もお前も、分かっているようでわかっちゃいなかった。レイドスという国に毒され過ぎだった」
「ど、毒されるって……」
「愛国心と、敵国を盲目的に下に見ることは違う。まあ、私も口に出してただけで、実践しきれてなかったわけだが……」
「姉御……」
「勝ち負けじゃない。冒険者ってもんを少しでも理解するためにも、本気で戦うんだ。いいな?」
「うす」
「監視はいかがいたしましょう?」
「排除できるか?」
「追い払うだけであれば……。捕らえることは難しいと思われます」
「なら放置だ。どうせ他の監視が派遣される。それにこっちが監視に気付いていることを知らせることもあるまい?」
「承知いたしました」
「まあ、元々の目的である宰相からの任務は果たせそうなんだ。ちょうどいいさ」
「ランクS冒険者の所在と実力の確認、ですね」
「ああ。しばらく前に、南征公の手の者が確認したという話だったが……。武闘大会を見にくるんだろ?」
「南征公から報告が上がっていた冒険者とは違うようですが、ランクS冒険者がやってくるというのは間違いないようです」
「ならいいさ。そいつの実力を確認して、できることならクランゼルへの忠誠心を測る。やり合えればいいが、近くで観察できるだけでも十分だ」
年末年始の更新ですが、今年も年末はかなり忙しく、次回は27日、その次が来年の3日の予定です。
よろしくお願いいたします。
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